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(1-5)本当になりたいモノ

あんなに背が高かったっけ?あんなに肩幅は広かったっけ?


8年での成長に、バルルはただ驚いていた。あんなに小さい子が、こんな風になるなんて・・・と、前世でのオバの言葉を思い出す。あぁ、こういう感じなのかぁ。そりゃあ前世は18かそこらで終わったので、こんなところで親戚のオバサンっぽくなるのは変だが。


かつて好意を抱いた彼は、立派になっていたのだ。あの頃よりもずっとずっと、バルルと離れた場所にいる。おそらく、その距離は近付けない・・・と、誰もが思うだろう。


だが、バルルは少し違う。格好いい、あんな風になりたい、心からそう思った。前世であんなにもやんちゃに振る舞い、スポーツに打ち込んだのは、あんな風になりたかったのだと。なんとなく、そんな気がした。


その時、鍛錬をしていたフォーク子爵が、チラリとこちらを見た。娘と見知らぬ少女が目に入ると、一旦手を止める。


「サリー、もしかしてこの娘か?新しくここで働くのは」


「はい、父上。ですが今はジェステル様の鍛錬中ですので・・・」


「いや、丁度切り上げるところだ。丁度良いし、ここで挨拶としよう」


8年ぶりに会うジェステルの声に、バルルはおぉっとなった。ソプラノである音域から、一気にバス辺りにまで変わっているのだから。まぁ兄さんの変声期もこんな感じだったなーと、彼女は思い出しているようだが。


「このような状態で失敬。俺はジェステル・オージェ・スイーパー、これから宜しく頼む」


立派な紋章、初めて見る模擬刀、しっかりした体つき・・・全てに目を奪われた。但し惹かれているのではなく、憧れているのだ。恋と憧れ、2つのドキドキを抱えているが、今は後者だと断定しよう。


格好いい服を着たい、あんな風に剣を扱ってみたい、立派な剣士になりたい!オレもあんな風になりたい!その本能が、遂に抑えられなかった。今までの抑えを捨てて、バルルは一直線にジェステルへと駆け寄っていく。


「ジェステル!さっきの鍛錬、凄かったぜ!模擬刀とはいえ、あんなに重い剣を扱えるなんて!それにあんなに機敏に動けるのも、本当に見ててビックリしたぜ!!」


「そ、そうか?」


急に剣の扱いについての話が出たことに、ジェステルは戸惑っているようだ。サリーは急に主に距離を詰め寄った上にため口を使っていることに、ギョッとした顔でバルルを見ている。しかしバルルは全く周囲が見えてないようだ。


「やっぱ剣士って格好いいよな!オレもそんな風になりたくて、色々自主練習をやってた身なんだけどさぁ。でも、お前の姿を見てて、やっぱりオレもこうなりたいって思ったんだ!令嬢みたいにキラキラした姿より、オレは強さによる輝きを手に入れたい!」


ガシッ!と勢いよく、ジェステルの手を掴んだバルル。不敬、あまりにも不敬。


「勿論、ここでの侍女も頑張るけどっ。だからオレ・・・」


バルルの言葉の途中、ガシッと首元を掴まれる。サリーは身をフルフルと震わせ、何をしているんだと訴えるオーラを醸し出しているようだ。あっ、とバルルが察したとき、彼女はジェステルの前から下げられる。


「大変申し訳ありません、ジェステル様。後でキツ~~く叱っておきますので」


そのままバルルはズルズルと、鍛錬場から引きずられていくのだった。その様子をフォーク子爵はアハハハと大笑いして、ジェステルはポカンと見つめていた。


「ははは、世の中には面白い娘がいるものですなぁ!田舎の男爵家で社交界にも出ていないと聞きますし、ただのじゃじゃ馬かと思いましたが、まさか侍女でありつつ強くなると言い出すとは!いやぁジェステル様も、誰かの憧れの対象になっておられるのですね。誇らしいですぞ」


「・・・そうですね」


「まぁサリーもあんなに慌てんでも、逆にアソコまで出来るのも偉大ではありますがな。あくまで私の感覚ですが、彼女は大物になりそうですぞ」


フォーク子爵の笑いにウンウンと頷きつつ、ジェステルはじっとその後ろ姿を見つめる。何かを言おうとしたが何も言わず、とりあえず着替えのために部屋に戻るのだった。




格好いい、本当に格好良かった。再会から数時間経った今でも、バルルは興奮していた。あぁなりたい、あんな感じになりたい!そう思って仕方ない。


「うん、そうだ!オレは解放されたんだ、両親の“男爵家の令嬢なんだから”って言葉に!オレは今日からここの侍女、そして令嬢として求めてくる奴はいない。だったら、ここでなってやる!



オレは“世界最強の侍女”になるんだ!前世では叶わなかった、本当のなりたいオレになってやるぜ!」



決意の声の後になるのは、空腹の音。初対面で数々の不敬を晒したとして、サリーにこっぴどく叱られた上、夕食抜きで部屋に謹慎させられる。そんなバルルのスイーパー公爵家での夜は更けるのだった。

第1章はここまで。

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