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(1-4)バルル、仕事先へ

両親からの期待やら、傾く実家の現状やらを考えれば、この話は受けざるを得ない。1ヶ月後、バルルは仕事先となるスイーパー公爵家の別邸へ向かうため、1人馬車に乗っていた。


両親は自分たちも王都に行けると思っていたが、住み込みで家賃は出ないとのことなので、泣く泣く男爵家に留まることに。とはいえスイーパー公爵家よりたっぷり支度金はもらえたため、上機嫌でバルルを見送ってくれた。


母が気合いを入れて着せた衣服も、バルルにとっては窮屈だ。あぁ、侍女になったらもっとフリフリになって、動きにくくなるんだろうなぁ。それで家事をやるのか!?と、今更ながら慌てるバルル。


「家事はやってたけど、全部自己流なんだよな。しかもオレは前世、庶民だし。流石に向こうはオレのこと、覚えてないと思うけど・・・上手くやれるかなぁ」


色々悩むところはあるが、いつも通りの「しゃーない、やるっきゃない!」で切り替える。移動中は暇なので、父からもらった勤め先の情報やら、ジェステルのことやらを確認することにした。


軍人公爵スイーパー家は、トーポスト王国の建国に貢献した軍人の一族。王都の全軍隊を指揮・統括しているため、軍隊の頂点と言っても過言ではない。まぁ幸いにも建国以来、国内外で大きな争いは起きていないため、日々国防や治安維持に努める一族だ。バルルは「凄く強そう」程度の認識だが。


そして別邸の主であるジェステル・オージェ・スイーパー。スイーパー公爵の弟を父に持ち、齢18にして軍人として名を馳せている。まだ軍人として活動して半年ほどだが、既に魔物退治やら盗賊討伐やら数々の実績を上げているそうだ。獲物には決して容赦しない攻撃力と、どんな状況でも冷静に判断する知能を備えている人物らしい。


・・・その情報を聞いただけで、8年前にバルルが助けた少年だとは思えなくなった。あの時の彼は野良犬ですら怖がっていたし、おどおどしい喋り方だったし、何より彼女と同じくらいの背だったのだから。


(まぁ、8年も経てば人は変わるか。オレみたいに前世からそんなに変わってない奴の方が、珍しいよな)


自嘲気味になると、また気分が重くなる。慌てて気分を紛らわせようと、ペチペチ頬を叩いたり、気分転換のお菓子を摘まむ。畑だらけの外にドンドン建物が連なっていく、かと思えば再度山間の景色になり、見たことのないモノがいっぱいだ。次々に変わっていく景色に、まるで旅行に来ている気分になる。そうすれば、少し気持ちは晴れやかになった。


軍人公爵スイーパー分家の別邸は、王都の少し外れにある。そのためか幸いにも、王都まで行くより数日早く着いた。別邸とはいえカーブ男爵家の屋敷とは比べ物にならないほど大きく、庭は綺麗な花々で彩られている。わぁ~と呆気にとられていると、コツコツと1人の女性が近付いてきた。赤い短髪にキリリとした眼鏡が、メイド服によく似合う。年は一回りは上だろうか。


「バルル・カーブさんですね。私は当屋敷にてメイド長を務めるサリー・フォークと申します」


フォーク・・・また野球の変化球だ!バルルは前世の自分をポッと出してしまい、目を輝かせる。が、()()()という名前に眼鏡をかけたこの見た目、ボンヤリと覚えがあるような・・・?


(・・・もしかして、8年前の!?)


今なら分かる。彼女とも8年前に会っているのだ!今の今までジェステルのことだけ考えていたが、まさかあの侍女とも再会するとは。いや、流石に向こうは覚えていないよな。そういうことにして、バルルは挨拶をする。オレっ娘の部分が出ないように、注意して。


「はい、バルル・カーブです。今日から宜しくお願いします」


「ただいま、ジェステル様は日課の鍛錬を行っています。終わり次第挨拶に向かうので、まずはお部屋に案内するよう伺っています。では、私の後についてきてください」


そうしてバルルは荷物を持ち、サリーの後をトコトコ歩く。サリーは無口で何も話さないので、バルルはどういう顔をすれば良いか分からない。向こうの方が立場は上だから、下手にお喋りも出来ない。なので2人とも静かに、あたかも軍隊のように進むばかり。靴音だけが響く状態に、何故か落ち着かない。


(ひ、ひぃぃ~。怖ぇえ~~)


バルルがそんな風に怯えつつ、部屋へ行くまでの渡り廊下を進んでいると・・・ガッ!と聞こえた剣の音。


ふと目をやれば、1人の青年がそれなりに屈強な男性と、剣を交えているようだ。この別邸には複数の鍛錬場があるようで、天気が良ければ外の最も広い場所で行うのだと、サリーは説明する。


「丁度手合わせ中ですね。相手をしているのは、私の父であるフォーク子爵。そして、金髪で国王軍の紋章を付けているのが・・・ここの主、ジェステル・オージェ・スイーパー様でございます」


「・・・っ」


金髪の青年は、8年前の記憶から影も形も変わっているような・・・それでいて、バルルにはどこか懐かしいような目をしていた。

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