(1-2)カーブ男爵家、ピンチ!?
「えぇえええ!?家がなくなる!?」
バルルの叫びは、夕食中の食卓に響き渡る。ガタッ!と立ち上がった衝撃で、スープが波を立て、中身が少しテーブルクロスに飛び散った。
「バルル、静かになさい!・・・貴方、どういうこと?」
「いや、まだ決まったわけではない。だが近年、我が男爵家がなんとか売りにしていた農作物が、各地でも作られて国内外での価格が急落したんだ。それで今年度の収益を計算したところ、利益は昨年の6割以下になる見込みだと、商人から・・・」
何ですってぇ!?と、今度は母が身を乗り出した。バルルへの先程の注意は何だったのか・・・。母さんも同じじゃん!とバルルはふてくされる。
「勿論、まだ見込みだ。そうなると決まったわけでは無いぞ。だが農作物以外で我が家で売れるような資産といえば、この土地か爵位くらいしか無い。最悪の場合・・・ということだ」
母はその言葉を聞いて、フラフラと座り込んだ。この状態で無闇に声をかければ、すぐに叱責となって返ってくるだろう。触らぬ神に祟りなし、バルルは誤魔化すようにコップの水を飲んだ。
まぁでも、丁度良い。どうせ自分は男爵家の令嬢として、相応に振る舞えないんだ。ここで平民になって、のんびり暮らそう。なんて呑気に思っていたら、父は「だが!」と声を高らかにする。
「丁度良い仕事も入ってきたんだよ、バルル!お前、王都で働いてみないか?」
へ?と一瞬、何を言われたのか理解できなかったバルル。貧乏男爵家に、王都で働く仕事が?父は水を一気飲みした後、意気揚々と話し始める。
「どうやら商人と繋がりのある公爵家が、分家の別邸で働く侍女を募集しているそうでな。まだ出回ったばかりの情報で、まだ名乗り上げている家がないんだ。本家やら王族の侍女と比べると立場は低いが、それでも良い収入になるぞ!」
「まぁ!なんて素晴らしい話なの!!」
バルルより先に、母が食いついた。本人は未だに、理解が追いついていない。侍女?侍女って、メイドのことだっけ?家事や掃除をするのかな?みたいな感じ。勿論こちらでの知識はそれなりに吸収しているつもりだが、いかんせん自給自足を楽しんで、前世でのスポーツ好きが抜けていないもので。本当にそういった方向への関心は最低限なのだ。
「分家とはいえ公爵家ともなれば、良い地位だわ!それに侍女もきっとしっかりしているはず。バルルはそこで侍女として働けば、淑女に近づける。そして我が家は公爵家とも縁繋がりになって、安泰する。なんて素晴らしいことなの!」
まだ一言も、バルルは行くと言っていないのだが・・・。いや、この流れで断れば、両親を共に敵に回すことになる。いくら転生して色々馬が合わないとはいえ、育ての親だ。喜ばせたいのが子心というやつか?
「ねぇ貴方、どんな勤め先なの?」
「軍人公爵スイーパー家だ。確か分家のご子息、ジェステル様に仕えてほしいとのことだな」
スイーパーと聞いたバルルは、ふと食べる腕を止めた。スイーパー・・・確か、野球における変化球の名前だ。前世の記憶と関連付けてると、同じことを思ったことがある。その名前を、もっと幼い頃に聞いたことがある気がするような・・・。
しばらく考えていると、とある8年前の記憶が蘇ってきた。
自分は・・・ジェステルと、会っていることに。