戦火は止まらない
ーアルテマ国首脳部ー
「次の襲撃に備えノヴァをいつでも放てる様、準備しておくべきです!」
「駄目だ!アレは抑止力として残しておくべき遺物!もう二度と行使して良いものではない!」
「ならば、シェルターの者ども共に我々も死にますか!」
「そうならぬ様に軍備を整えているんだ!それと、シェルターの人達も下に見る発言をするんじゃない!」
無事に帰還したアレク達の報告を聞き、数時間後。首脳部は阿鼻叫喚の場と化していた。主にノヴァの使用を視野に入れて最悪それを行使する考えの者達と、絶滅戦争の過ちを引き起こしてはならないと現状の戦力で立ち向かう考えの者達で意見の対立が起きていた。
「……」
神妙な面持ちを浮かべ、会議という名の口論を眺めるのはアルテマ国首相、マリケス・クローバーその人であった。元々、軍人であり絶滅戦争を生き残りでもある彼は、国民からの信頼も厚く彼の発言力は議会の中でも大きなものであった。故に、安易に口を開く事はなく、沈黙を保ったまま双方の考えを聞いていく。
「お飾りの兵器などなんの意味がある!兵器は使ってこそ、その真価を発揮する!!」
「そうやってまた大量虐殺を繰り返すつもりですか!敵の正確な場所すら掴んでいないんですよ!!」
アレク達の報告を受けてからアルテマ国政府は、軍を派遣したが既にシェルターには人っ子一人おらず、報告に挙がっていた一つ目の存在も無かった。だが、肉片となった者達の遺体が遺されており報告通りの惨劇が行われていた事は確かだった。結局、手掛かりと呼ばれるものはなく攻め込んできた者達の正体は以前、不明のままだ。
「東側の海岸にあるシェルターが、今回の襲撃の狙いになったのなら東側の国を全て消せば良いだろう!」
「ふざけているのですか!!」
「落ち着け」
「「「「「「「ッッ!?」」」」」」」
決して大きな声ではなかったが、覇気のあるその声に一切進まない会議をしていた首脳陣全てが口を閉ざす。絶滅戦争を生き抜いた男の言葉は、その辺の有象無象には宿らない圧が込められていた。
「我らが守らねばならぬ事は、この国の平和。そして、世界の安寧だ。そこに破滅を齎すノヴァは必要ない。先ずは、連中が現れた東海岸沿いの防備を固めろ。同盟国に連絡し、可能な限り兵を増員するんだ。それでも人が足りなければ、学徒達も使え。以上だ」
「で、ですが総理!我々だけで事に当たらねば、同盟国や属国となった連中に示しが」
勝利者であるプライドと云うのはここまで肥大化するものなのか。議員の一人が口にしたマリケスにとって、至極どうでも良い内容に思わず、彼は溜息を隠せない。元々鋭い目を更に鋭くし、愚かな事を口にした議員を睨みつけるマリケス。その圧力に議員の顔が一気に青ざめていく。
「お前のそのくだらぬプライドで、国を民を守れるのか?ん?」
「そ、それは……」
「サッサッと動かんか!!お前らもだ!!いつまで、会議室にいる!!此処で仕事が出来るのか?」
「「「「「「「は、はい!!!」」」」」」」
マリケスの一喝により漸く動き出す議員達。そのあまりの愚鈍さにマリケスは眉間を抑える。勝利国としては呆れるほどの動きの悪さだと言える彼らだが、その殆どが絶滅戦争当時からの引き継ぎではなく、勝利後新しく議員となった者達故に、ある意味仕方のないところではあった。戦争を経験した者達は、皆死んだかもう二度と国の運営に携わりたくないと去っており、マリケスの様に引き続き国と関わっている者は珍しいのだ。
「ぐっ……心臓が……全く、無駄に血圧を上げさせよって」
発作に回復魔法を使いながらマリケスは窓から空を見上げる。空模様はまるで、これからの行き先を暗示するが如く曇天であった。
汚れのない新品の軍服に身を通す。青と白を基調にした軍服は、高品質な布と糸から作られており魔力の流れを一切、妨げる事はなく、スムーズは魔法の行使を可能としている。また、防刃性にも優れており至近距離で振るわれた刃を通すこともない。
「……オータム」
魔鉄と呼ばれる魔力をよく流す鉱石から作られた剣を身に付けながら、僕はあの日戻って来なかった友人の名を呼ぶ。シェルターの人達は分からないが、あの襲撃の日。生き残ったのはオータム達に任せて逃げた僕達しかいなかった。目の前で友人を亡くし、恩師を亡くした僕たちの中にはもう二度と戦場に行けなくなった者もおり、先程、学生を軍人として雇用する命令にも生き残った班員の中では僕しか了承出来る人はいなかった。
「クソッ!なんなんだよアイツらは!」
ガンッと勢いよく近くにあるロッカーを殴る。怒りと情けなさと悔しさでどうにかなりそうだった。逃げることしか出来なかった自分を責め続ける。
「アレク学徒兵!なにやら音がしたがどうした!」
「い、いえ!なんでもありません」
ロッカーを殴った音を聞きつけた上官が慌てた様子で入ってきたので、咄嗟に敬礼をして誤魔化す。少しの間、辺りを見渡していた上官だったが、何もない事を確かめ終わったのか少し呆れた様子で僕を見た。
「気合が入るのは構わんが、隊を乱さないでくれよ?」
「はっ!」
「良い返事だ。準備が終わった様なら早速、持ち場に着いてもらうぞ来い!」
「了解であります!」
背を向け歩き出す上官のすぐ後ろを歩く。僕が配属になった場所は、首都から一番近い海岸沿いの一角だ。現状、彼らが来る場所だと予測されている東側では最も、首都に近いこの場所は戦略的に重要であり少し顔を動かすだけで、多くの軍人、そして砲撃魔法陣が引かれていた。空から来るであろう連中に対しては、堪らなく嫌な布陣だと思える。
「確か、剣を用いた近接魔法に優れているとの話だったな?」
「はっ!一通り行えますが、一番となると剣であります」
「そうか。では、お前は此処、敵が上陸した場合最前線になると予測されるA地区にある砲撃魔法部隊、その護衛部隊が配属先だ。良いか、くれぐれも無茶だけはするなよ?」
「はっ!」
配属先まで連れてきてくれた上官は僕の敬礼を見ると無言で頷き、近くにいた軍人を捕まえ、一言二言会話し、その場を立ち去っていった。代わりに僕の前には、先ほどの上官に捕まった僕と同じ様に剣を携えた人が立っている。
「君がアレク学徒兵だね?」
「はい!」
「良い返事だ。私は、此処A地区の指揮を任されているミルド軍曹と言う。よろしく」
差し出された手を取り握手をする。剣だこのあるゴツゴツとした手が、目の前の人物の技量を教えてくる。
「さて、詳しい話は中で……とはいかないようだな」
「え?」
ミルド軍曹の言葉に振り向けばそこには、まだ遠いがしっかりと海上を飛ぶ黒い鉄の塊が見えた。どうやら、配属されたその日に僕は連中とまた出会う運命にある様だ。
感想などなどくれると嬉しいです