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黒い異形

 『かつて、大きな戦争があった。切っ掛けは、良くあるありふれた理由だった。隣の国の方が資源が多い、隣の国の人間が気に食わない、自らの国を広げたい、それしか選択肢がない。そんなありふれた理由だった。そしてそれが全てを滅ぼす戦争へと繋がった。人は、群れを成す生き物だ。大きな群れが、指導者によって指揮され国となる。


 そして、国と国は協力し合う事もあった。その協力という形が、次から次へと戦争へと参加する国々を増やし後に、絶滅戦争と呼ばれる大戦を引き起こした。死ばかりが積み重なり、色んな国が消えそれでも戦いは終わらない。何故ならどの国も失ったものを取り返す事に取り憑かれてしまったから。


 故に、最悪の魔法が生み出された。莫大な魔力を必要とする代わりに、大陸全土を射程範囲に収め、着弾地点の国を消し飛ばす。そんな争いが収まらないと言うのなら、その根源を消し飛ばしてしまうという悪魔の魔法「ノヴァ」を比較的勝利を積み重ねていた国が生み出し絶滅戦争は収束していく。彼の国に敵対する全てを消す事によって。だが、多くの犠牲の先に漸く世界は平和になった。それは間違いのない事実だ。


 我々は絶滅戦争を教訓として後の世まで語り継がなければならない。もう二度とあの地獄を起こさない為に。著者:ウィリアム・スプリンター』


「この様にかつて、戦争があった。特に我々の国は、生き残るためとは言え多くの命を奪った!この事実は決して、変わらない。だからこそ、我が国は各地にあるシェルターの人々に人道的支援を行う義務があり、またノヴァの技術を他国に漏洩させないと共に争いが起きない様に世界を監視する役目がある。その為の実地訓練だ!これからお前達は、我が国の軍人としてシェルターと人々と顔を合わせることになる。決して、恥ずかしい事はするなよ。良いな!」


 アイズ教官の言葉に僕も含めた学友全員が、はい!と大きく返事をする。戦争終結と共に帝政から、民主主義へと形を変えた僕らの国、アルテマにある軍人育成機関国立アルテマ軍事学校所属の僕らは国から少し離れたところにあるシェルターに来ていた。


「此処がシェルターか……授業で散々聞いてたが荒れてるな」


 教官の後ろを皆んなで歩いていると、僕の隣にいたオータムが小さな声で呟いた。確かにシェルターは荒れている。そもそもとして、此処は絶滅戦争当時僕達の国と敵対していた国の首都が存在していた場所で、本来なら人が居ていい場所ではない。けど、税金の高い僕達の国で暮らせない人達や生まれ育った場所を離れるつもりがない人達などが集まって、一つの国の様なものを形成しているのがシェルターだ。そんな場所が荒れない訳がない。


「聞かれたら怒られるよオータム」


「アレク。それはそうだが……」


 まぁ、オータムの気持ちも分からない訳ではない。さっきから此処に住んでる人たちの視線は鋭く、とても僕達を歓迎している雰囲気ではなかったから。ただでさえ、荒れている場所だというのに歓迎もされてなければ気分が良いとはとても言えない。


「ようこそ。アルテマの皆様方。私は、此処の代表です」


「どうも。本日は、実地訓練の場所を引き受けてくださりありがとうございます」


「いえいえ、かの国からの要請とあれば断れる筈がないでしょう」


 握手を交わすアイズ教官とシェルター代表。……やっぱり、仲が良いとは言えないよねあの雰囲気。暫く話をした後、アイズ教官は僕達に今日の仕事を説明する。全部で七つの班に分け、それぞれゴミの回収であったり食料の配給などを行うとの事。僕とオータムは、同じ班に割り振られ仕事内容はシェルター近くの海岸。そこでのゴミ拾いだった。


「態々海岸のゴミ拾いってやる必要あるか?もっとこう、魔力溜まりの除去とかそういうのやらせてくれよ」


「正式に軍人じゃない僕らが、魔力溜まりの除去なんて任せられる筈がないでしょ。ほら、オータム。足元にゴミ落ちてるよ」


「分かってるけどよぉ……あー、地味だぜ全く」


 僕らのクラスの中で一番、ガタイが大きい彼はゴミ拾いという退屈な仕事に不満げだ。あの体格を活かせるぐらいの大きなゴミでもあれば別だけど、落ちてるのは本当に小さな日常の中で出るゴミばかり。シェルターには自分達から出たゴミを処理する機能が無いからこういうポイ捨てが相次ぐらしいけど……


「だとしても多いよなぁ……」


 視界には殆どゴミに埋め尽くされた海岸が広がっている。僕らと同じ班になった他の人達も文句を言いながらゴミ拾いを続ける事一時間。そろそろ、お昼休憩ぐらいの時間になった。この退屈な作業から少しでも解放されるかと思うと、僕達は嬉しくなり今か今かと連絡を待っているそんな時だった。


「ん?おい、あれなんだ?随分とデカいが」


 班の誰かがそう言ったのが聞こえ、僕は空を見上げた。そこには、クジラと表現したくなる流線形の黒い鉄の塊が空を飛びながらこっちに向かってきていた。本国で造られた新しい兵器だろうか?でも、あんなものは見た事も聞いた事もないぞ?

 巨大な鉄の塊は僕らの頭上を越えていき、シェルターの中心部上空で停止した。


『もう一度、問うぞ。我々に降伏するつもりは?』


 放送用の魔法だろうか?声が拡声され、僕らがいる場所にも聞こえてきた。降伏?一体なんの話だ?全く聞き覚えのないその内容に首を傾げていると、納得のいく返事が貰えなかったのか落胆した声が発せられた。


『そうか。では、全員死ぬと良い』


 その言葉と共に何かが複数鉄の塊から落下していき、直後爆発と悲鳴が響き渡った。


「おいおい……なんなんだ一体!」


「おい、行くぞアレク!シェルターの中心と言えば、教官もいる場所だ!」


 オータムが僕の背中を強く叩いてから走っていく。置いて行かれたくない僕は慌てて、彼の後を追いかける。どうやら、班のみんなもオータムに続くことを選んだ様で僕らは纏まってシェルターの中心へ向かっていく。一体、何が起きてるというんだ……まさか、戦争?僕達相手にか!?暫く、走っていると少し先にオータムが立ち止まっていた。


「オータム!何が……」


 広がる光景は地獄そのものだった。黒い鉄の塊から落とされたと思われるこれまた、黒一色で、一つ目のよく分からない奴が手に持つ大剣で、戦おうとした僕らのクラスメイトを防御魔法ごと肉塊に変え、蒸気のようなものを噴出させながら地面を滑る様に移動。攻撃しようとしていた者を同じく、肉塊へと変えていた。


「なんなんだこの化け物は!?ま、魔法が全然効かねぇ!!」


 火の玉をぶつける魔法、フレイム・ボールが黒い一つ目に当たるが爆発する事なく、霧散し放ったものは悲鳴を上げながら叩き潰された。周りをよく見れば、戦う為に放った魔法の全てが全くと言って良いほど効いていない事がよく分かる。


「……おぇ……」


 凄惨すぎる光景に吐き気が襲ってくる。目を瞑ってそのまま眠ってしまいたかった。何もかも現実ではないと放り出して、逃げ出してしまいたかった。けど、それをすれば間違いなく死ぬと分かるこの光景が凄まじく嫌だった。


「くそっ!おい、誰か生き残っている者はいないか!!此処を生き延びて、国に戻り有事を伝えてくれ!!」


「……!アイズ教官!!」


「むっ、生きていたかお前ら!」


 軍服が焼け焦げた教官が僕らに駆け寄ってくる。呆然と立っていたオータムも、言葉すら発していなかった班のメンバーも教官が近くに来て安心したのか教官に詰め寄る。


「落ち着け!襲撃者が何処のものかは分からないが、敵は我々の魔法を防ぐ手段を持っている!そんなものはあの、絶滅戦争でも見なかった!急ぎ、国に戻りこれを伝え」


 アイズ教官が続きを口にする事は無かった。新しく黒い鉄の塊から落ちてきた関節のところに金色の装飾が施されている一つ目により叩き潰されたからだ。


「ヒィィィ!」


『軍人……いや、候補生か。ふん、随分と腑抜けた姿だな』


 なんなんだよこいつは……くぐもった声からは男か女かも判断は出来ない。だが、振り上げられる大剣が僕達に明確な死をイメージさせる。


「アームズ!」


 身体強化の魔法を唱えたオータムが目の前の一つ目に勢いよく殴りかかる。僅かに仰け反った一つ目は大剣を構え直し、オータムの方を向いた。その間に僕は、腰を抜かせていた班員を立たせて後ろに下がる。


『少しは骨のあるのがいたか』


「硬いな……おい、アレク!そいつら連れて逃げろ!こいつは俺が足止めをする!!」


『ほぅ?』


「何言ってるんだオータム!?死ぬ気か!!」


 魔法が効かない一つ目を一人でどうにか出来るはずがない。しかも、こんなのが複数もいるんだぞ!?そんなオータムに影響されたのか数名が前に出て彼の横に並ぶ。戦闘する気満々の態度だ。


「お前ばっかりに格好いい思いはさせねぇよ」


「そうね。私達も軍人、覚悟は出来てるわ」


「アキラ、ユイ……へっ、馬鹿な奴らだぜ!」


 これはもう話を聞く気もないし、そんな余裕もないだろう。それなら、僕も軍人として彼らに恥じない勤めを果たす!


「必ず助けを呼ぶ!それまで死ぬなよ!」


「おう!」


「みんな、いくぞ!」


 残された班員、四名を連れて僕は全力でシェルターから逃げ出した。腰を抜かせてしまった子を背負いながら移動するのは大変だったが、それでもオータム達が時間を稼いでくれているお陰で一つ目に出会う事は無かった。


『……英雄譚など、そうそう起きる物ではないぞ』



 第五シェルター、襲撃事件。死者、多数。生存者四名。これは、これから始まる地獄のほんの序章に過ぎなかった。

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