【歴史は大地に刻まれる】
第2話です!毎日投降しようとか考えていたのに全然時間足りない…!
旅に出てから数日は野宿をした。しかしそれでは体が十分に休まらず3人ともに疲れを感じていた。
ヨハンネス「おいセオドア、まだ街に着かないのか?そろそろベッドで寝たいぜ。」
セオドア「もうそろそろ着くと思うんだけど。あんまり金はないけど宿屋にでも泊まるか?今どのあたりかも把握したいし。」
ヘレーナ「賛成!!」
セオドア「じゃあとりあえずこの山を越えよう。日が落ちるまでには越えられるさ。」
山道を通れば迂回せずに済む分早く着くが獣も多く道無き道を進むためより厳しい道中になる。道には宿屋があり、馬の世話や食事の提供もある。なんとか日が落ちきる前に山を越え、森を抜ける為の道に着く。道をしばらく歩くと1軒の小さい宿屋があった。
ヨハンネス「あ〜、やっと着いたな。部屋あいてるといいけど。」
ヘレーナ「お腹も空いたわ。」
セオドア「パンとチーズが食べたい。…すみません!」
戸を叩くと宿屋の主らしき男が現れた。
宿屋の主「やぁ、泊まりかい?食事だけかい?」
セオドア「泊まりで三人入れるか?あ、部屋は一緒で大丈夫なんだけど。」
宿屋の主「おう、丁度一部屋空いていたところだ。馬はいないな。銀貨5枚だがいいか?」
セオドアは持っていた銀貨を5枚主に渡した。
宿屋の主「丁度だな。さ、中にどうぞ。部屋は二階の一番奥、鍵はこれ。すぐに食事を用意しよう。でき次第呼ぶよ、食堂は入ってすぐだ。」
スムーズに話が進みとりあえず三人はとりあえず部屋で休むことにした。部屋に入るとヘレーナとヨハンネスがベッドに飛び込んだ。そして荷物を持たされたセオドアが入ると既にベッドは埋まっていた。
セオドア「おい、ベッド2つしかないじゃん。もう埋まってるし。」
ヨハンネス「後でおっさんに言えよ。毛布くらいもらえるぜ。多分。」
セオドア「いいよ、ヨハンネスに入れてもらうから。」
ヘレーナ「良かったじゃん、温かくなるよ。セオドア、お兄ちゃんに蹴られないようにね…。」
ヨハンネス「ヘレーナてめぇ……ダメだ、眠い…ちょっと寝る…。飯の準備出来たら起こしてくれ…。」
セオドア「ちょっ、おい寝るなよ!マジかお前ら。」
まぁ疲れてるしなとなんとか自分を納得させて荷物の整理をし、武器の手入れを始めた。水の精霊との戦いにより刃は欠けてしまった。大きな街にいけば新しい剣か、または修理をすることができるだろう。しかしどちらにしても金がいる。ここまで節約をし続けてきたおかげで多少はあるが、すぐに尽きる。街で仕事を探しつつ、進むしかない。はぁ、とため息をつき刃に自分の顔が映る。磨くのは充分なようだ。少しすると部屋の戸を叩くものが現れた。
宿屋の主「どうも、夕食が出来たんで呼びに来た。」
セオドア「ありがとう、すぐに行くよ。あと、毛布を貰える?2つしかなくて…」
宿屋の主「おっとこりゃうっかりしてた。ベッドの下にもう一つベッドがあるんだ。君達が食事に行っている間に用意しておくよ。すまないね。」
セオドア「それじゃあすぐ食堂に行くよ。連絡ありがとう。」
宿屋の主「おう!ごゆっくり~」
セオドアは二人を叩き起こした。ヨハンネスはぼやけた頭を掻き、ヘレーナも眠い目を擦っていた。自分だって寝たかったと妬みながら食堂へ降りる。食堂には他にも旅人や商人と思われる人がいた。給仕の女性にテーブルへ案内されると目の前には沢山の料理が並んでいる。焼いたパンにはチーズが乗せられ程よく溶けていた。さらにラムと香草を使ったグリル、蒸した芋、裏庭で採れた野菜のサラダとミルクのスープとかなり豪華だった。ご馳走を前にヨハンネスとヘレーナの目も覚めたようだった。宿屋の主も食堂に降りてきた。
ヨハンネス「すげぇ、これ全部食べていいのか!?」
宿屋の主「もちろん、料理は得意なんでね。こんな山奥でやることも無いしな。ところで、あんた達はどこに向かってるんだ?」
料理を食べながら三人は宿屋の主と話す。
セオドア「えっと、ある者を追ってるんです。でもどこにいるか全然分からなくて。とりあえず大きな街に行けば話を聞けるかなって思ったんです。もう少し東に行けば大きな都市がありましたよね?」
宿屋の主「あぁ、エルダーナの事か?あの国は7年位前に滅んだぞ。」
ヘレーナ「滅んだ…って?もう人は住んでいないの?」
宿屋の主「ずっと隣国と戦争していたからな。耐えていたらしいが、噂によれば突然陥落したそうだ。エルダーナ領は村も街も一人も居なくなって、今じゃ獣が蔓延ってるよ。」
ヨハンネス「そうなのか…。なら、そこ以外で街はないか?本当に何も情報がないんだ。」
宿屋の主「そうだなぁ、上の方から来たんだろ?それならエルダーナを越えてから南東に行くと結構大きい港町がある。ミコヌスって町だ。公益も盛んで結構栄えてたと思うぞ。うまく行けば船にも乗れるかもしれないしな。ただ、エルダーナを越えるのがかなり困難だ。さっきも言ったが、あそこは気軽に通れる場所じゃない。」
セオドア「でも行くよ。ありがとう、そこを目指してみる。」
食事を終え部屋に戻る。3人とも宿の食事に満足し、幸せを感じながら床についた。部屋にはきちんとセオドアのベッドが用意されている。ベッドに入るとすぐに眠気が襲い、眠りへと落ちた。翌朝宿を立ち、まずは西に向う。しばらく歩くとエルダーナだった場所についた。町のあった形跡のある場所に人はおらず、美しい華や植物が咲き誇る。エルダーナの城下町まで歩みを進めると沢山の人々が暮らしていたであろう建物たちは戦火に焼かれた遺跡となり、まだそこにありつづけていた。三人は息を呑む。建物には草木がまとい、蔓は高く高く伸びていた。
ヘレーナ「自然は強いね、全てを焼かれても、また新しい芽を出してこんなにも光を求めてる。でも、人は……。。」
セオドア「早く先に行こう、ここに居て得られるものはないよ。」
エルダーナの街を越えた後は南東に進む。林に入り、道なりに沿って歩いた。その道中ヘレーナは薬草を見つけては拾い集めていた。
ヨハンネス「何してんだ?そんなに使わないぞ?」
ヘレーナ「お兄ちゃん達の分じゃないの。町についたら売ろうと思って。あ、薬屋さんに教わったハーブティーを作ればもっと高く売れるかも!」
セオドア「それは名案だ、材料はそろってるのか?」
へレーナ「ううん、ほとんどあるんだけど……ん?この香り…」
へレーナはそう呟くと一人で先へと進んでしまった。セオドアとヨハンネスは顔を見合わせ、へレーナについて行く。木々の隙間から光が溢れてきたと思うと突然開けた場所に出る。そこは小高い丘になっており、一面に様々な植物が自生していた。植物たちは太陽を直に浴びてのびのびと育っている。
セオドア「凄いところだな。」
ヨハンネス「ああ、とても気分がいい。こんなところで昼寝したら最高だろうな~。……で、へレーナはどこ行った?」
辺りを見渡すと少し離れたところでヘレーナの頭がひょっこりと現れた。
へレーナ「あった!見て見て!!」
駆け寄ってくるヘレーナの手にはラベンダーが握られていた。とても良い香りが漂ってくる。
ヨハンネス「なんだ、その草。」
へレーナ「ラベンダーだよ、ほら匂い嗅いでみて。」
へレーナに促されヨハンネスは顔を近づける。ヨハンネスがその匂いを嗅ぐと首が飛ぶのではないかと思うほど勢いよくセオドアの方を見た。
ヨハンネス「すっごい良い匂いする。なんだこれ。え?お前も嗅いでみろよ。」
セオドア「俺は知ってるよ。……うん、でもやっぱりいい香りだね。これがハーブティーの材料?」
へレーナ「そう!この香りにも効果があるの。だから欠かせないんだ。もう少し集めてくる、ちょっと待ってて。」
へレーナがまた遠くに走り去っていく。残された二人はその場に寝転んで空を見る。ラベンダーの香りがずっと鼻に残り、この丘の雰囲気を演出する。
ヨハンネス「なぁ、風の精霊倒したらお前どうする?」
セオドア「なんだよ。……そうだな、全然考えてなかったよ。でも、やっぱり村に帰るって考えもなかった。俺は今すごく楽しい、ヨハンネスとへレーナと旅が出来て。できるなら、その後もずっと、旅がしたいな。また新しい目標決めてさ。」
ヨハンネス「そっか。実は俺も今すっごく楽しい。なんのしがらみもないし、自由だ。こんな景色も見れたし、うまいもん食えたし。……このままってのも良いな。風の精霊、シルフだったか?そいつ倒したらヘレーナ置いてまた旅に出るか。」
へレーナ「ちょっと、なんで私置いてくのよ。」
二人の視界から空を遮るようにへレーナが現れた。
ヨハンネス「いたのか!」
ヨハンネスが起き上がり、セオドアもそれに続いて起き上がる。へレーナがむすっとした顔でこちらを見つめる。
へレーナ「ひどいよ!私だけ仲間外れなんて。私がいないと傷の手当も出来ないくせに。」
ヨハンネスは図星をつかれ苦笑いをしながらセオドアに助けを求める。
セオドア「ははは、ごめんごめん。じゃあへレーナも一緒に行こう。もう、終わりでいいの?」
へレーナ「うん、もう充分採れたわ。お待たせ!」
ヨハンネス「じゃあ行くか!俺たちも結構休めた。日が暮れる前に進めるだけ進もう。」
丘を横切るように進みまた林道に入った。標識もあるため、ここは人通りもそれなりにあるのだろう。方向を確かめながら進む。太陽が西に傾き、そろそろ今夜の寝床を探すかと考えながら歩くと村があった。丁度良いと三人は村を訪ねた。門をくぐると村の中心では人だかりが出来ていた。
へレーナ「なんだろう、あれ。」
セオドア「人だ。襲われてる!助けないと。」
セオドアは人だかりに割り行って青年に馬乗りで殴る男を引きはがした。ヨハンネスとへレーナも後を追った。殴られていた青年は気を失いセオドアは男たちから庇った。
村の男「てめぇ、誰だよ!」
セオドア「通りすがりの旅人だ。事情は知らないけど、ここまでやる必要があるのかよ!」
村の男「よそ者が口出しするな!それにこいつは魔術師だぞ!!」
ヨハンネス「魔術師だからなんだよ、問題はそこじゃねぇだろ?どう見ても抵抗した跡がない、魔術師ならやり返せたはずだ。」
セオドア「なにがあったんだよ。」
村の男「ちっ……。」
人々が立ち去り、その場に青年と3人だけが残った。視線はあるが、野次馬は何もしてはこない。青年に声を掛けるが返事はない。ヨハンネスが青年を担ぎ、へレーナが村の宿屋へ先に走っていった。
セオドア「二人ともありがとう。」
ヨハンネス「いや、こっちこそ。……すげぇよ、俺も見習わないとな。あいつが言ってた魔術師だからってのは俺も許せねぇ。何をしたかじゃなくて真っ先に魔術師を理由にしてた。しかもこいつは抵抗していない。なんにせよ、話を聞いてみよう。」
宿屋に着くとヘレーナが既に部屋を取ってくれていた。宿屋の主人は少し眉をひそめたようだが何も言ってはこなかった。へレーナに案内されて部屋に入る。ベッドにそっと青年を降ろした。へレーナは魔法を使用せず、集めていた薬草を使って治療をした。しばらく傍にいると青年が目を覚ました。
へレーナ「あ、気が付いた!?」
青年「君達は…」
起き上がろうとする青年をヘレーナが支えた。部屋で入れていたハーブティーを差し出す。
ヘレーナ「よかったら飲んで、気分が落ち着くわ。」
青年「ありがとう…。」
へレーナ「私はヘレーナ。あっちがセオドアと、兄のヨハンネス。」
部屋の壁に寄り掛かるヨハンネスは笑顔で片手を上げて応えた。
青年「君たちが助けてくれたのか。すまない……。僕はレミール。」
セオドア「よろしく、レミール。謝ることないだろ、さっきはずいぶん酷い扱いを受けてたけど何があったんだ?」
レミール「うん……盗みの犯人と疑われてね。君たちは助けてくれた。話せば長くなるんだけど最初から話すよ。この村は昔、山の民と交易をしていたんだ。だがある日突然山の民は村の民を襲ったんだ。理由は山の民の集落で保存していた肉や魚が盗まれていたらしい。だが一方で、村の格納庫にあった麦や野菜も盗まれていたんだ。結局どちらも譲らず、争いになってしまった。」
ヨハンネス「それ本当に互いの人間が盗んだのか?」
レミール「いや、それが分からないんだ。どちらも相手が犯人だと決めつけて主張を曲げずに相手の話を聞こうとしなかった。だから僕も調べようとしたんだ。本当にそれぞれの民が盗みを働いたのか。それで格納庫を見てたら、お前が山の民に物を流していたのかと尋問されてあとは見た通りだ。」
ヨハンネス「じゃあ別に盗んでなんていないんだろ。」
レミール「もちろん。」
ヨハンネス「ならどうして抵抗しないんだよ。魔法使えるんだろ?」
レミール「あぁ、聞いたのか。魔法を使えば確かにこんな目には遭わずに済んだだろう。だけど、魔法を使えば……この村にはもういられなくなる。……君たちは、魔術師に偏見がないんだな。」
へレーナは不安そうな顔をしてレミールに尋ねる。
へレーナ「ねぇ、魔術師は……そんなに悪い人なの?何もしてないのに、皆から責められて叩かれて……。」
レミール「君は…。君も魔術師だったのか。良い仲間がいるね。魔術師は、数少ない力を持った者だ。大勢の人間は魔法を使うことが出来ない。魔法という未知のものに対する恐怖を人々が無意識のうちに集めて大きくなる。そして、恐ろしい物を排除しようと攻撃を始めるんだ。負の感情を押し付けられて、闇に囚われてしまう魔術師もいるだろう。そうした魔術師が人々を襲う事件だってあった。だから、“魔術師は総じて危険人物“という認識が染みついているんだ。」
へレーナ「ここには、あなたを助けてくれる人はいなかったの……?」
へレーナは涙を浮かべてレミールを見つめた。レミールは少し困ったような顔をしてへレーナに伝えた。
レミール「いたよ。いや、いたような気がする……、かな。ここには、思い出が多くて離れ難かったんだ。それに村長は、何故か少し気にかけてくれていた。君は優しいんだな。このお茶は、とても落ち着く。」
へレーナ「うん……、ありがとう。」
レミール「独りぼっちで、誰も助けてくれないなんて事はないよ。自分が本当に困っているとき、手を差し伸べてくれる人は必ずいる。そういうお節介な人は、見捨てられないものさ。何より、君たちがそうだろう?」
へレーナはハッとした表情を見せて優しい微笑みを返す。
セオドア「それじゃあ今日はとりあえず休んで、明日色々調べてみようか。山の民の集落がどこにあるか知ってるのか?」
レミール「あぁ、僕は知ってる。ただ村の皆には知らせてないんだ。山の民を襲いに行きそうで……まぁだから話し合いというのも進まないんだろうな。」
ヨハンネス「なんでレミールだけ知ってるんだ?」
レミール「それは魔法だよ。僕の魔法は人以外の声を聴くことが出来るものなんだ。動物や植物なんかの声も聴こえる。だから、山の民の居場所も彼等に聴いたんだ。」
セオドア「そんな力が……。へレーナは出来る?」
へレーナ「ううん、私には何も聞こえないわ。」
レミール「魔術師にも特技のようなものがあるんだ。自然の魔を借りて操る魔法は魔術師ならおそらく誰でも出来る。更にそれぞれ特有の魔法を持っているんだ。君の魔法は?」
へレーナ「私の魔法?意識したことなかったな……。なんだろう。」
レミール「最近魔法を使ったのは?」
へレーナ「う~ん、町に流れてきた水を押し返したときとか……」
レミール「水を押し返した!?僕は自然の力を借りることが出来るだけで、操る事は出来ない。ましてや水の意思に逆らう事なんて不可能だ。」
レミールは驚いてヘレーナの目を見つめた。
へレーナ「じゃあ、それが私の魔法?」
レミール「そうかもしれない。ただ、魔法が水を操るだけとは考えにくい気がする。もっと、大きなものだと思うよ。」
へレーナ「まだ、よく分からないな。でもきっと役に立つよね!」
ヨハンネス「魔術師すげえな、本当に。」
部屋で一晩明かし、山の民を訪れようと村を出た。門を出ようとすると村長によって呼び止められた。
村長「待ちなさい。」
ヨハンネス「ん?なんだ?」
村長「山の民のもとへ行くのか?」
レミール「そうです。」
村長「昨日はすまなかったな。」
レミール「何を今更!……あ、すみません。」
村長「行くなら止めぬが、無事にな。」
レミール「えぇ……。」
村を出て山へと入っていく。セオドアが辺りを見渡しながらレミールに声を掛けた。
セオドア「村長は、本当に気にかけてくれてるのかもな。」
レミール「あぁ、そうかもしれない……。だけど、それだけだ。止めてはくれない。」
ヨハンネス「ひでぇ話だな。あんな大人数で責められて、一人じゃ解決できないだろ。」
レミール「もう慣れてはいるんだ。この村に生まれてから迫害は受け続けてる。……待って、あの子が何か言ってる。おいで。」
レミールは木の上でさえずる鳥に声を掛けた。鳥はレミールに差し出された腕に掴まりまたさえずりをした。セオドアたちはただの鳥のさえずりだが、レミールはその意味を理解したようだった。
レミール「山の民が総力でこちらに向かってきているって。村が危ない。」
ヨハンネス「ほんとか!?大変じゃん。」
セオドア「村の人に知らせないと。」
レミール「きっと僕の話を村の人は信じてくれない。ここは引き受けるから。」
ヨハンネス「いや、お前が行け。村長なら話くらい聞いてくれるだろ。」
セオドア「俺もそう思う。村のことは、なんだかんだ大事なんだろ?山の民は俺たちが足止めしておくから。」
ヨハンネス「俺たちも前は山の民みたいなもんだったからな。ちょっとは話が分かるかもしれねぇ。ほら、行けよ。」
へレーナ「ここは任せて!」
レミール「分かった、頼む。皆!彼らを守ってくれ!!」
レミールは空に向かって声を上げる。その声に呼応して山に住む沢山の動物が集まってきたレミールは急いで山を下り始めた。
ヨハンネス「ちょっと前だったら宝の山だったな。」
セオドア「確かに。でも狩るなよ?せっかくレミールの呼び掛けに応えてくれたんだ。恩を仇で返す様なこと出来るか。」
へレーナ「そうよ、彼らは仲間なんだから。よろしくね、皆!」
へレーナが動物たちに笑顔を見せる。すると鳥や小動物達がヘレーナを囲いじゃれ始めた。
ヨハンネス「あいつ、こういう所あるよな。おとぎ話かよ。」
セオドア「俺たちには懐かないもんな。」
文句を言うと後ろから鹿に角を当てられた。彼らに言葉は通じているのだろうか。ヨハンネスと笑いあった。動物たち戯れていると大量の足音が聞こえた。
セオドア「お、山の民の御一行のお出ましだ。」
すぐにその姿を現し、セオドアたちの前に立ちはだかった。
山の民の長「我らが歩みを止める者よ。何ゆえここに立つ。」
セオドア「足止めだよ。村を攻めるのか?ろくに証拠もないのに一方的なんじゃないか?」
山の民の長「彼らは我々を蔑んできた。この度の事件も、我々を侮った犯行よ!」
ヨハンネス「なら、村の物が盗まれてるってのはどうなんだよ。それはお前らの仕業なのか?」
山の民の長「何の話だ。我々は己の仕事に誇りを持つ。盗みなどを働くわけがない!」
へレーナ「村の人たちだって、盗んでいないと思うわ。だから話にならないんでしょう!?それならきっと犯人は別にいるはずよ。攻撃する前によく考えて!」
山の民の長「そこまで言うからには、犯人に当てはあるのだろうな。」
セオドア「それが分かれば今頃こんなところで立ちはだかってないですぐに案内してるさ。まだ互いにきちんと話してもないのに攻撃しようとするのが気に食わないのでね。このまま村を攻めようってなら俺たちは全力で阻止する。」
山の民の長「山の民は止まらぬ!皆の者行け!!!容赦をするな!!!」
長による号令で山の民はセオドアたちに攻撃を始めた。動物たちが加勢してくれるおかげで数の利にそれほど差はない。へレーナが動物たちを守ろうと祈る。すると攻撃を防ぐバリアに変化し動物たちを守った。それがセオドアやヨハンネスにも影響し、多少攻撃が当たってもダメージを軽減していた。何とか攻撃を受け流し時間を稼いでいるとレミールが村の人々を連れて来た。
レミール「皆!」
村長「山の民の長よ、やっと会うことが出来たな。」
山の民の長「村の長よ、我々はこの戦いに決着をつけに来た。」
村長「我々もその用意が出来ている。さぁ、我が民たちは武器を持たずに来た。対話をしようではないか。」
山の民の長と村長が対峙しているとレミールに向かって一匹の黄色い鳥が突進してきた。レミールに何かを訴えている。レミールは激突した衝撃で落ちる鳥を手で受け止め、話を聞いた。
レミール「いたた……、どうしたんだフィル。……うん、うん……。え?それが真犯人か!?」
村長「レミール、何が分かった。」
レミール「今回の、事件について真犯人が分かったようです。彼が案内してくれるようです。」
村長「そうか。では、行ってみようか。その真犯人のもとへ。」
山の民の長「我々を陥れるための罠ではなかろうな。」
村長「ほう、考えてもいなかったな。もし罠だったなら、その場で私の首を斬り落とせばよい。」
レミール「村長……。」
村長「さぁ、行ってみようではないか。レミール頼むぞ。」
レミールが頷き、フィルと呼ばれた鳥を飛ばした。その鳥とレミールを先頭に皆がついてゆく。やがて崖にたどり着き、目の前には洞窟が広がっていた。
レミール「ここに?」
フィル「ピッ!ピッ!」
レミール「ありがとうフィル。ここに、犯人がいるそうです。」
山の民の長「嘘ではなかろうな。」
レミール「はい。動物たちは、沢山の目を持っています。それに彼らは純粋で、我々のように黒い心を持ってはいません。僕は、彼らを信じます。」
村長「さぁ、行こうか。」
洞窟の奥に進むと松明が照らされ年端もいかない子供たちが肩身を寄せ合って集まっていた。
村長「おや、君達が犯人とな。」
すると奥からリーダーらしき少年が出てきた。へレーナよりも若く見え、身体はやせ細っているが眼光の鋭さだけは誰よりも強かった。
少年「あんたが一番偉い人?こっち?」
村長と山の民の長に向かって言い放った。
レミール「君が、村や彼らから食べ物を盗んだのか?」
少年「そうだ。盗まれる方が悪い。」
村の男「てめぇ!!」
村長「待ちなさい。君は、何も食べていないようだ。盗みはここに居る仲間の為か?」
少年「なんでもいいだろ。」
山の民の長「このような年端もいかぬ子供たちだったとは……我らとて情けない……。」
少年「悪かったな。」
少年は吐き捨てるように言い放ち、相変わらず長達に睨みをきかせている。
山の民の長「しかし盗みは困る。ここに居る者達、そして自分の糧にあり着きたくば仕事をするがよい。その働きに応じて我らの物を譲ろう。」
少年「は?」
山の民の長「誰にも気づかれる事無く我らの格納庫から盗みを働くその技術を仕事として活かせと言っているのだ。」
村長「ほう、それは名案だ。我々のもとでも仕事をしてくれれば麦や野菜、家畜なんかも譲ろう。」
少年は子供たちに目をやり、少し迷っているようだった。しかしその目からその細長い光が突然失われ、少年は倒れた。少年に子供たちは駆け寄り、ジョルトと彼の名を叫び助けを求めた。
村長「栄養失調だろう。村へ一度連れ帰ろう。君たちも心配ならついてくると良い。山の民も、村へ来て欲しい。」
村長は子供たちに優しく投げかけた。村の男が少年を抱え村へ帰路に着く。少年はしばらくして目を覚まし、村で温かい食事を出された。最初は手を付けなかったが食事は子供たちにも与えられ、笑顔で過ごしてるところを見て安心したらしく少しずつ口に運んでいた。その後互いの村長たちと共に話し合い、子供たちにためだと提案を受け入れたようだった。村の端でレミールと共にセオドアたちはその様子を眺めていた。
セオドア「解決したみたいで良かったね、レミール。」
レミール「あぁ、本当に。」
ヨハンネス「一時はどうなるかと思ったぜ。フィルだったか?あの鳥に感謝しないとな。」
レミール「そうだな、彼が見つけてくれたから少年たちもこれからはきちんとした食事にありつける。これでよかったんだろうな。」
へレーナ「うん、やっぱりご飯はしっかり食べないと。皆が仲直り出来て良かったわ。」
ヨハンネス「あ、でもレミール殴ったやつらは許せねぇ。」
レミール「ははは、別に大丈夫だよ。へレーナのおかげですっかり治ったから。まぁ、確かにまだちょっと思うところはあるけど。」
セオドア「ほら、文句言ってきなよ。そこにいるじゃん。」
レミールの背中をぽんと叩き、レミールがよろけた。彼が顔を上げるとレミールを殴った男と目が合った。
レミール「あ……。」
村の男「レミール……、そのすまなかった。まさかお前の魔法が役に立つなんてよ。」
レミール「そう思ってくれてるならもういいんだ。これから、よろしく。」
村の男「あぁ、本当に悪かったよ。」
二人のやり取りを眺め、セオドアとヨハンネスは顔を見合わせて悪戯な笑顔で笑っていた。しかし気が付くとヘレーナがいなくなっており、辺りを探す。すると小さくなったバックを持って足早に戻ってきた。
ヨハンネス「どこ行ってたんだよ。」
へレーナ「ごめんごめん、作ったハーブティー全部売ってきたの!見て見て!金貨5枚も貰っちゃった!」
セオドア「凄いじゃないか、これだけあればしばらくやっていけるな。」
ヨハンネス「どれだけ売ったんだよ……。」
セオドア「金も入ったし、問題も解決したし、レミールも大丈夫そうだし、俺たちは先に進もうか。」
ヨハンネス「だな、そのなんとかって港町まではまだかかるんだろ?」
へレーナ「ミコヌスだっけ。エルダーナからは結構歩いて来たと思うけど。」
話を終えたレミールがこちらに戻ってきた。
レミール「もう行ってしまうのか?」
セオドア「あぁ、もう行くよ。世話になった、ありがとな。」
レミール「礼を言うのはこちらの方だ。君たちのおかげで助かったんだ。それにまた山の民とも交易が出来る。本当にありがとう。」
へレーナ「レミールもよかったね、受け入れてもらえた感じがする。」
レミール「そうだな、少しずつだけど僕も頑張るよ。次の目的地は決まってるのかい?」
ヨハンネス「最終的な目的地は決まってないけどとりあえず“ミコルン”って港町を目指してるとこなんだ。」
セオドア「“ミコヌス”な。レミールは知ってる?……ん?忘れてた!ねぇ、精霊について何か知らない!?」
セオドアがレミールにつかみかかるように尋ねてくるのでレミールは少し身を引き、考えた。
レミール「精霊?あまり聞いた事がないな。ミコヌスなら東にあと一日も歩けば着くと思うよ。精霊、大地に聴いてみようか。何か知っているかもしれない。」
ヨハンネス「だ、大地に聴く?」
レミール「あぁ、言っただろう?人以外の声が聴けるって。大地からは沢山のことを教わったから。魔法のことも、村の人は誰も知らないけど、大地は知ってた。彼らの命は長くて大きいから、沢山の事を知っていると思うよ。」
セオドア「なら、頼んでもいいか?」
レミール「もちろん。ちょっと待って。」
レミールは集中し、大地の声に意識を傾けた。レミールの髪が魔力によってなびく。大地との対話には魔力の消費が激しいようだ。やがて大地との対話が終わり意識をこちらに戻した。
レミール「うん、大地は精霊について知っていたよ。自然の力を暴走させて種の命を奪う生物にとって恐ろしい存在だと。でもそれ以上は教えることが出来ないって言ってた。こんなことは初めてだ。」
セオドア「そうか……。ありがとう、それだけでも分かって良かったよ。それじゃあ、俺たちはミコヌスに行くよ。」
レミール「うん、またいつでも来てくれ。きっとこの村も、もっといい村になってるはずだから。セオドア、ヨハンネス、へレーナ、本当にありがとう。旅の無事を祈る。元気で。」
セオドア「うん。」
ヨハンネス「おう!」
へレーナ「またね!」
レミールは姿が見えなくなるまで手を大きく振っていた。セオドアたちは村を後にして更に東へと進んでゆく。日は彼らを真上から照らしていた。
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