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華言葉の呪い -Freya-  作者: 衣吹
華言葉のある日
17/24

ミコヌス観光紀

ヘレーナ「見て!!すっごく綺麗!!!」


 ヘレーナが指差す先には真っ青な海と空、そして白い街がある。いつにもなく晴れたその日は、二人が観光に来るにはピッタリの天気だった。


マユキ「えぇ、とっても綺麗ね。」


 ヘレーナとマユキはヤンに船を出してもらい、のんびりと船旅を楽しみながらミコヌスへ訪れていた。二人は約束していた。戦いが終わったあと、必ずここに来ようと決めていたのだ。マユキは珍しく神の国の服ではなく真っ青なドレスを身に纏い、その空気を楽しんでいる。船が港に泊まり、ミコヌスへ上陸する。ヘレーナは二度目だが、マユキは初めてだった。


ヘレーナ「さ、行こ!まずは美味しいもの食べなきゃ!!」


 ヘレーナに手を引かれ、柄にもなく走り出す。マユキは表情には隠しているが、本当に楽しく、嬉しかった。まるで、2000年前出来なかったの青春を体験しているような、そんな気分だった。ヘレーナに連れていかれた店は海側にテラスが面しており、真っ白な建物に青いカーテンが掛けられた素敵な店だった。


ヘレーナ「私ここ来てみたかったの!セオドアたちと来たときは混んでて別のお店にしちゃったから。」


マユキ「そう、楽しみね。」


 ヘレーナが店に入って行くと店員に席へ案内される。テラスか店内か希望を聞かれ、ヘレーナは間髪入れずにテラスと答えていた。女神の巫女ではなくなり、肌の衰えを感じるマユキからすれば、日焼けが少々気になるが今日くらいいいだろうと席についた。紺色のテーブルクロスが白い建物とコントラストで美しい。店員は丁寧にメニューを説明してくれた。どうやら今日のオススメはブイアヴェースというスープらしい。この海で取れた新鮮な魚介を使っているらしく、マユキはそれを頼むことにした。ヘレーナは、キャベツで具材を包み、レモンクリームのソースを掛けたものを注文した。そしてチーズの蜂蜜掛け、サラダにイカの唐揚げも注文した。デザートにはヘレーナがオススメだというヨーグルトを注文した。飲み物にマユキはライムやミントの入ったお酒を頼み、ヘレーナはオレンジジュースを頼んだ。


マユキ「沢山頼んでしまったわね。ギリシャヨーグルトなんて2000年振りだわ。」


ヘレーナ「あ!昔食べたことあったの!?」


マユキ「えぇ、昔はなんでもあったからね。ヘレーナの故郷にヨーグルトはなかったの?」


ヘレーナ「似たものはあったよ。でも、この街のヨーグルトは全然違うの!」


マユキ「それは気になるわ。味もきっと昔とは違うでしょうしね。」


 海を眺めながら、色々な話をしていると飲み物とサラダが運ばれてきた。グラスを手に取り乾杯をした。サラダはとても新鮮で葉がシャキシャキとして美味しい。飲み物もとっても料理に合っている。サラダを楽しんでいるとメインの料理も運ばれてきた。ヘレーナは早速ナイフをいれている。マユキはスープから楽しんだ。ヘレーナは早速一口目を口にし、目を輝かせている。


ヘレーナ「これすっごく美味しい!!マユキも食べてみて!!……はい、あ~んして!」


マユキ「い、いいわよ。」


ヘレーナ「ほら、冷めちゃうよ!早く!」


マユキ「もう……。」


 マユキは小さくヘレーナのフォークに口を付けた。ヘレーナはどう?とマユキに顔を傾けている。


マユキ「うん、凄く美味しい。ソースはさっぱりしてるけど、味は濃厚ね。ヘレーナも、このスープ飲んでみる?」


ヘレーナ「やったあ!!飲む!」


 ヘレーナはまた大袈裟にその美味しさを表情で表現する。感情が顔に全て書いてあるのは、兄と同じようだ。二人で食事を楽しんだのは、なんだかんだ初めてだったが、そんな感じはしなかった。メインの料理を楽しみつつ、チーズやイカもつまんでいく。どの料理もとても美味しかった。全て食べ終える頃には満腹でしばらく動けなかった。飲み物をゆっくり飲みながら、景色を楽しむ。お腹が落ち着いた頃、店を出て街を散策した。石畳の地面に白い花が飾られた白い街、そして海が広がるこの街は、ただ歩いているだけで楽しい。ヘレーナが過去に訪れたアクセサリー屋にも寄ることにした。


アクセサリー屋「いらっしゃいませ〜。ん?君、前にもここに来たことがあった?」


ヘレーナ「うん、昼光貝を持ってきたよ。」


アクセサリー屋「やっぱり!髪色変わってたから別人かと思ったよ。今日はお姉さんと一緒?」


ヘレーナ「うん!二人で来たの!また見て行っていい?」


アクセサリー屋「勿論だよ!お姉さんも、きっと気に入るものがあるよ!」


マユキ「ありがとう。」


 アクセサリー屋の中には綺麗な飾りが沢山あった。特に貝殻やガラス細工のアクセサリーが多く、夕日に照らされて本当に綺麗だった。ヘレーナも耳飾りをあれやこれやと自分の耳に当てて試している。マユキは窓のそばに置かれた硝子細工の耳飾りに惹かれた。それをじっと見ていると、アクセサリー屋に声を掛けられた。


アクセサリー屋「それ、綺麗だろ?私の自信作なんだ。夜の星をイメージして作ったんだけど、お姉さんの瞳によく似てる。」


マユキ「そう……、とても素敵ね。」


 ヘレーナは気に入ったアクセサリーを決めたようだ。その耳飾りはステンドグラスの様なデザインで繊細なデザインだった。


ヘレーナ「私これにする。これください!」


アクセサリー屋「はいよ!!お嬢さん前に昼光貝沢山くれたから安くしとくね。」


 ヘレーナは喜び、受け取ってすぐ耳に着けた。ヘレーナの金髪によく映え、とても綺麗だった。


マユキ「綺麗よ、ヘレーナ。」


ヘレーナ「ほんと!?嬉しい!マユキは?どれにするの?」


マユキ「そうね……。でも、私はいいかな。誰に見せるわけでもないし。」


ヘレーナ「何言ってるのよ!自分のために買うの!自分の好きな物着けて、自分の好きな物を食べて、自分の好きな所に行くのはすっごく楽しいよ!マユキは、もう何にも縛られてないの。自分のために、自由に生きなきゃ!」


マユキ「ヘレーナ……。そうね、私も、もう何も気にしなくていいのよね。」


ヘレーナ「それに、誰かが必要ならイレネーがいるじゃない。」


マユキ「イレネーはエルダーナの復興で忙しいし、私がいたら邪魔になっちゃうわ。でも、自分のためにっていうのはいい考えね。これ、私も頂くわ!」


アクセサリー屋「うん!きっと似合うよ。はい、サービス!!」


 アクセサリー屋はすぐに着けるか聞き、どうせならと今の飾りと着け変えることにした。新しいアクセサリーで気分が上がり、店を出る頃にはすっかり日が暮れていた。夜の街は明かりが灯され、また幻想的だった。街並みと海が見渡せる花に囲まれたベンチに座り、ゆったりとした時間を過ごしていた。今夜一晩ミコノスに泊まり、明日にはまた日常に戻る。どこか寂しいような気がしていた。


マユキ「なんていうか、素敵ね。女二人旅も。」


ヘレーナ「すっごく楽しかった!私初めてだし!マユキは?こういうことある?」


マユキ「一度だけね。昔の世界で行ったわ。同い年の、ヘレーナみたいに明るい子。私はもう年を取りすぎてしまったから、あなたの事をかわいい妹みたいに思ってしまう。だけど今日は、仲間として、大切な友人として、あなたと話せた気がするわ。」


ヘレーナ「なんか照れちゃうな。……ねぇ、これからマユキはどうするの?」


マユキ「そうねぇ。またしばらくは神の国にいるじゃないかしら。巫女では無くなっても、神の国の長であることは変わりない。早急に世代交代したいけれど、まだ出来そうにないわ。それに、イレネーが拾ってきたアブニールの面倒もみないといけないしね。今アカツキが暇だし、しばらくはアカツキに任せようかしら。」


ヘレーナ「本当ならエルダーナで面倒見てあげたかったんだけど、あそこには何もないしこれから忙しくなるしで、とてもね。でも、連れて帰って大丈夫だって思える場所だったの。私も、アブニールを拾った張本人だし、しばらく神の国にいようかな。」


マユキ「それは助かるわ。また美味しいもの用意しないとね。」


ヘレーナ「やった!!」


マユキ「さ、そろそろ冷えてきたし宿に行きましょうか。温かいお湯に浸かって疲れを癒やしましょ。」


 二人が泊まる宿はテラスを乗り越えればすぐに砂浜に辿り着けるのが魅力の宿だった。宿はとても綺麗で温かいお風呂に浸かった後少しだけお酒を飲みながら波の音を二人で聞いた。ヘレーナがマユキに微笑みかけると、マユキも少し頬を緩めた。そろそろ寝ようとベッドに入るが、女子会はまだ続いた。明かりを消しても尚、話は続く。


ヘレーナ「ねぇねぇマユキ、イレネーのどこが好きになったの?」


マユキ「まったく、どうしていつの時代も旅行の夜はこういう話になるんだか。どこって言われてもねぇ。」


ヘレーナ「じゃあ、いつ好きになったの!?」


マユキ「秘密よ。」


ヘレーナ「えぇー!いじわる!」


マユキ「そのほうが、ずっと魅力的でしょう。そういうヘレーナはどうなの?好きな人がいたことは?」


ヘレーナ「う〜ん……、まだよく分かんないのよね。」


マユキ「セオドアは?そういう感じではないのは分かるけど昔から全くなの?」


ヘレーナ「うん、セオドアもお兄ちゃんって感じ。お兄ちゃんとずっと一緒にいたし、セオドアも家族だったから。」


マユキ「そう、でも分かる気がするわ。私も、恋をしたのは久しぶりだったし。良いものね。」


ヘレーナ「今寂しくない?」


マユキ「……ちょっと…………寂しいかもね。」


 ヘレーナはニヤニヤとして毛布の中で肩を震わせている。マユキはため息をついてヘレーナに背を向けた。


マユキ「ほら、そろそろ寝なさい。」


ヘレーナ「うん、おやすみ。」


 ヘレーナはマユキの気持ちが聞けて満足したのか目を閉じた。マユキもベッドに身を委ね、眠りへと落ちていった。


 明るい朝日がさんさんと窓から降り注ぐ。その眩しさに目が覚めた。


マユキ「ヘレーナ、朝よ。起きて。」


ヘレーナ「う〜ん。おはよぉ。」


 エルダーナにいたときはすぐに起きられたのに、ここではまだベッドにいたいと思った。もう少しだけ、と再び毛布を被る。マユキは仕方ないと思い、朝のコーヒーをいれた。テラスへ行き、海の音やかもめの鳴き声を聞きながらコーヒーを飲む朝は、格別だった。今日はもう国に戻る。国に戻ればやらなければならないことも沢山あり、こんなふうにまた何も考えずただ楽しむことができるのはいつになるだろうかと想像するだけでため息が出る。


 だが見ることがないと思っていた新たな時代を、この目で、この身体で生きることができるのは本当に嬉しいことだ。やっと起きてきたヘレーナと共に朝食を食べに行く。搾りたてのオレンジのジュースは本当に美味しかった。


 最後にアカツキや村の皆、そしてセオドアやイレネー、レオンにお土産を買っていった。港では既にヤンが二人を待っている。ヤン自身も観光を楽しむことが出来たようだ。船が出発し、海の広がる何もない場所まで来たあとは、マユキに残されている巫女の力を使って神の国まで飛んだ。


 海岸に船を留め、国に帰る。アカツキのおかえりという声が妙に懐かしさを感じた。そして、アブニールが四つん這いになってこちらにやってくる。赤子の成長に驚き、ヘレーナは駆け寄った。マユキはアカツキに微笑み、ここが帰るべき場所だと心から思った。


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