エルダーナ復興大作戦3
エルダーナ復興第3弾です!
エルダーナ城の地下には、獣に追われ逃げこんだ若い女性の遺体と、その赤子がいた。赤子はイレネーを見て更に泣き喚いた。
イレネー「あああ、すまない……。えっと……」
イレネーは子供を泣き止まそうとしたが赤子は全く泣き止まない。なにをどうしていいのか全く分からずただあたふたすることしか出来なかった。段々と赤子は泣きつかれて眠ってしまった。ホッとしてしまったイレネーはとりあえずこの塔を出ようとそっと女性と赤子を抱き上げた。塔を出ると外はすっかりと暗くなり、今日の仕事を終えた男たちが城へと戻ってきていた。中庭ではヘレーナが夕食を作っているようだ。レオンがこちらに気づき、駆け寄ってきた。
レオン「なんだそれ。浮気か?」
イレネー「……。彼女はもう亡くなっている。この子を……。」
レオン「どこにいたんだ?しかも赤ん坊まで。」
イレネー「西の塔の地下牢だ。この赤子を頼む。私は彼女を埋めてくる。それがこの者にとって正しいのかは分からないがな。」
レオン「地下牢の冷たい石の上よりはマシだろうさ。よく分かんねぇけど、気持ちの問題だろ。」
レオンは母親の遺体に抱かれた赤子を取り上げた。
レオン「よく寝てるな。今のうちに対応考えねぇと大変だぞ。」
イレネー「あぁ、そうだな。」
レオンは赤子を抱いてヘレーナのもとへと向かった。いつまでもこの赤子を抱いているわけにもいかないし、なによりいつからこの赤子は食べていないのかもわからない。まずは温かい寝床を用意しなければとヘレーナに話す。
ヘレーナ「そうね、今は眠ってるしレオンが預かってて。あと皆、枝をたくさん集めてきてくれない?」
ヘレーナはアルベルトの手下たちに頼んだ。彼らはヘレーナの指示を喜んで聞き入れた。ヘレーナはお礼を言って夕食の仕度を続けた。これだけたくさんの料理をするのはかなり大変だったが楽しかった。夕食が出来上がったころ、手下たちも戻りたくさんの枝が集まった。イレネーもこの赤子の母親を埋葬し終え、中庭へと戻っていた。皆に夕食を配り、ヘレーナとイレネーは城の中で風をしのげる場所へ移動した。ヘレーナは手下たちの集めた枝に魔法をかけ、揺りかごを作り上げた。毛布や枕を敷き詰めそこに赤子をそっと置いた。
ヘレーナ「これでしばらくは両手も空くわね。でもいつまでもここに置くことはできないと思う。皆忙しいし、とりあえずこの子は一度神の国に連れて帰る?マユキが戻ってるか分かんないけど、アカツキがいるし。」
イレネー「そうだな。それが良い。私達はまだここに残って復興を進める。ヘレーナすまないが、明日一度この子を連れて行ってくれるか?」
ヘレーナ「いいよ。私ならすぐに行き来できるし、二人がいればここは大丈夫だよね。またしばらくしたら戻ってくるわ。セオドアも来たがってるし、世界の旅から戻ってたら連れてくるよ。」
イレネー「何もかもありがとう。本当に君には助けられてばかりだ。」
ヘレーナ「いいの、それに私はイレネーに恩返しができて嬉しいよ。命の恩人だからね。でもなんだか不思議。今は私の知ってるイレネーだ。でも、ここで戦ってるイレネーも本当のイレネーだから。きっと、それだけ本気なのね。」
イレネー「今は君だけだから、気張る必要がない。意識してるつもりはなんだが、つい変わってしまう。ここにいると、昔を思い出すよ。その記憶も、不思議だな。ついこの前まで失っていた記憶だ。だから、まだマユキここに連れて来たくはないんだ。」
ヘレーナ「見せたくないの?」
イレネー「嫌われてしまいそうだからな。あんなに余裕のない姿は見せられない。」
ヘレーナ「へ~。でもイレネー、マユキのことだと結構余裕ないけどね。それに、マユキはそんなこと気にする人じゃないし、なによりイレネーが一番分かってるんじゃないの?」
イレネー「そうかもしれないな。でも、何か違うんだ。彼女に対してと、この国に対しては。」
ヘレーナ「そっか。難しいよね。きっと言葉には言い表せないこと。たまには神の国に戻ってきてね。」
イレネーは微笑んで頷いた。その時、レオンが部屋を覗いてきた。
レオン「ヘレーナ、飯まだあるか?あいつらまだ腹減ってるらしいんだけど。」
ヘレーナ「今行くわ!イレネーのご飯無くなっちゃったかな。また作るから皆は赤ちゃん見て待ってて。」
イレネー「ありがとう。」
中庭に戻ると見事に鍋が空っぽになっていた。手下たちはまだ足りないといった様子で食事を求めている。ヘレーナも想像以上に無くなっていて驚いている。
イレネー「仕事したら食事の提供をすると約束した。君たちが満足できるまで食べるといい。今から作るから、少し待っていてくれ。」
食材は大量に持ってきていた。神の国を発つときにアカツキから大量の米を持たされ、シュウからも神の国の食材を持たされていた。それらはヘレーナの魔法で圧縮して持ち歩いていた。10日は持つと考えていたが、この調子ではすぐになくなってしまいそうだ。手下たちは自らヘレーナに手伝うと声を掛けに言っていた。ヘレーナは手下たちに野菜の皮むきや煮込みなどの仕事を任せていた。
若い手下「ヘレーナさん、これどうしたら!」
ヘレーナ「火弱めなきゃ!吹きこぼれちゃう!」
痩せた手下「ヘレーナさん、手切った~。」
ヘレーナは料理以上に彼らの相手に忙しそうだ。段々湯気が立ち、野菜や肉が煮込まれている。へレーナは鍋に数種類のスパイスを入れていく。ヘレーナはシュウから教わったスパイスの効能などを手下たちに説明しながら鍋を混ぜている。手下たちは興味津々で鍋を覗き込んでいる。手伝おうとしていたイレネーやレオンは遠くでその様子を、赤子を持たされたアルベルトと共に並んで見ている。
レオン「……大人気だな。」
イレネー「俺達よりヘレーナの方が彼らの扱いは上手そうだ。」
アルベルト「俺も顔負けだよ。あいつらの顔があんなにいきいきとしてるのは始めてだ。」
イレネー「彼女は誰にでも平等に接する。それは彼女もそれを求めているからなのだろう。」
アルベルト「彼らも皆、理由があってここに逃げ込んできた者達だ。自分が苦しんだものを、他人にぶつけるような野郎は、ここにはいねぇ。」
イレネー「お前は、なぜガストからここに来たんだ。まだガストは健在だろう?」
アルベルト「初めはエルダーナへの調査でここに来た。俺はお前と、死闘を繰り広げたかった。大陸最強と謳われたお前と本気で戦いたかったのだ。お前のことを忘れることはなかったからな。生きていると分かっていた。ここに居ればいつか戦えると思っていた。だから国を捨てた、それだけだ。」
その話が本当か嘘かは分からないが、少なくともすべてが嘘ではないだろう。ここに来た者達をまとめ上げ、外れた道でも生き方を教えていた。彼に生かされた者達は、今笑顔を見せている。
イレネー「彼らを思うなら、ここで正しい生き方を教えてやってくれ。その赤子は、こちらで預かるが、今そうして抱いているお前は父親に見える。」
アルベルト「そうか。……本当に、エルダーナ人は嫌になる。」
レオン「いい国だったろ、ここは。」
アルベルトは何も言わなかった。かつての仇敵だった者同士でも、互いに話をすることができたのは良かったと思っている。ヘレーナと話していなければ、こうして向き合う事もなかっただろう。やがて新たな料理の良い匂いが漂ってきた。
イレネー「さ、食事も出来たようだ。話せてよかった。」
イレネーが立ち上がるとアルベルトの腕の中で赤子が泣き出した。どうやら起きてしまったらしい。
アルベルト「そろそろ腹も減っただろう。ヘレーナ殿、何か赤子が食べれるものはあるか。」
ヘレーナ「用意しておいたわ。この子預かるわね。料理もできたから皆は食べてて。お茶も用意したから飲んでね。」
イレネー「私が食べさせるよ。食事の用意ありがとう。君はずっと働き詰めだ。どうか休んでくれ。アルベルト、仲間の元へ行ってやってくれ。彼らも不安はあるだろう。」
ヘレーナ「うん、たしかにちょっと疲れたかも。じゃあ、お願いしてもいい?」
イレネーはアルベルトから赤子を受け取り、ヘレーナの作った離乳食を与えた。子供は段々と泣き止み、笑顔を見せるようになった。レオンが見たイレネーの背中は、とても小さく見えた。
レオン「イレネー、お前の分だ。茶もここに置いとくぞ。」
イレネー「あぁ、悪い。ヘレーナは?」
レオン「あいつなら飯食って寝ちまった。よっぽど疲れてたんだろうぜ。」
イレネー「随分無理をさせてしまったな。」
レオン「そうだな。……お前も、平気か?」
イレネー「あ、あぁ。どうした急に。」
レオン「いや、別になにもないならいい。コイツもう寝てるぜ。あっちで寝かせて、お前も飯食えよ。」
イレネー「そうだな。」
赤子を抱いて揺りかごのある部屋へ連れていく。すやすやと眠るその姿は、なんとも愛おしかった。誰かがそばにいなければならないと、イレネーとレオンはそこで夜を明かすことにした。イレネーもやっと食事に手を付け、料理を味わった。すっかり冷めてしまっていたが、人の作った料理は温かみを感じる。
レオン「そういや、こいつの名前どうする?」
イレネー「名前?そういえば考えていなかった。そもそもこの子に家族はいないのか?もし家族がいるならその者たちに返すべきでもある。」
レオン「でも名前がないと不便だろ?それに神の国に連れてくなら尚更だ。ここに置くよりその方が良いのは確かだ。家族がきたら、その時引き渡せばいいじゃねぇか。少なくとも母親らしき女は死んでたんだからよ。」
イレネー「そうだな。名前か……。」
レオン「そもそもこいつ男なのか?女なのか?ちょっと失礼。」
レオンはそういうと赤子を包む毛布を少しずらして確認した。ぱっと見たあとすぐにまた毛布を掛けてその身体を優しく叩く。
レオン「男だ。何がいい?」
イレネー「名前か……。考えたこともなかった。……難しいな。」
レオン「城の地下……暗い。ダメだな、陰湿になりそうだ。」
イレネー「なら、アブニール、というのはどうだ。」
レオン「未来か……いいじゃねぇか。良かったな〜アブニール。」
アブニールは幸せそうに寝息を立てている。エルダーナの城の中で、レオンと二人で夜明けを待つのは久しぶりだ。また新たに護るべきものができてしまったようだ。
並行して別作品書いてると、なんとなくその時の自分のブームとかが分かったりするなと思いました。




