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華言葉の呪い -Freya-  作者: 衣吹
華言葉の呪い
10/24

【白き朝は闇を携え】

更新に1ヶ月近くかかってしまいました!最近出すごとに1章あたりの文字数の量を更新している気がします……

 長かった夜は明け、東の空には陽が昇る。今日は遂に光の精霊ローダンセとの戦いを控えている。陽が昇る瞬間、西の空はまるで闇のようだった。ヘレーナは縁側でその眺めを見ている。空が少しずつ割れていく。やがて空は真っ青に染まり、冬の冷えた空気が心地よい。誰よりも早くに起きたヘレーナは宿の者も驚かせた。そして温かいお茶を入れてくれた。熱い湯のみを抱えて空を眺める。身体の内側から温められ、気持ちも穏やかになった。寝ぐせのついた頭を掻きながら、兄とセオドアも起きてくる。


セオドア「おはよ、早いな。」


ヘレーナ「うん、なんか起きちゃった。」


ヨハンネス「怖い夢でも見たのか?」


 ヨハンネスは馬鹿にしたような顔で聞いてきた。ヘレーナは無視して続ける。


ヘレーナ「今日の朝ごはんはね、サイキョウ焼きだって。よく分かんないけど美味しそうな良い匂いしてきたね。」


 男たちの腹の虫が共鳴しながら鳴く。どっと笑いあっているとレクイエが宿に来た。


レクイエ「おはよう、皆。昨夜はゆっくりできた?」


セオドア「ああ。珍しいな。どうしたんだ?」


レクイエ「私も、西京焼きが食べたくなったのよ。」


ヨハンネス「そりゃ重大事項だな。なんだかんだ言って、ここで皆一緒にご飯食べるの初めてじゃないか?」


セオドア「そっか。レクイエ神殿にばっかりいるもんな。」


レクイエ「悪かったわね。さ、行きましょ。イレネーはレオンの部屋に寄ってから行くそうよ。」


 皆で食堂に向かった。食堂に近づくにつれていい匂いが強くなる。給仕の者達に案内されそれぞれ席につく。目の前に御前が出され、山盛りの白飯と大きな鳥の西京焼き、鮮やかな緑のお浸しにお新香、出汁の効いたお味噌汁がのっている。この国が拠点のようになってから食事にも慣れて今では大好物になっていた。たまにスパイシーで味の濃い物を食べたくなるが、レクイエが描いてくれた陣のおかげでどこにでもすぐに行ける。イレネーも遅れてやってきた。ご膳の前に正座で座る。そして、この国での食事の挨拶も今では当たり前のように定着していた。両手を合わせて言う。


「頂きます!!」


 口いっぱいにご飯を頬張る。まどろんだ目もすっきりと覚める。仲間と食べるご飯はさらに美味しい。朝から楽しい話を沢山出来た。ずっとこの時間が続いたら、幸せだと誰もが感じていた。食事を終えれば船に乗って光の精霊のもとへと進む。ごちそうさまと言い、部屋を後にして最後の準備に取り掛かった。出られるようになったら船で集まろうと言って別れる。ヤンはこの瞬間を楽しみに前日から整備に船で寝泊まりしている。セオドア、ヨハンネス、ヘレーナの三人は準備を終え、トリイをくぐり船へ向かう。海岸へ着くとイレネーとレクイエが先に着いていた。見送りに来ていたアカツキや村の人々もいる。


レクイエ「さ、揃ったわね。じゃあ行きましょうか。」


セオドア「よっしゃ、最後の精霊だ。」


ヨハンネス「あぁ、気合い入れて行こうぜ。」


 アカツキからコートを受け取って船に乗り込み、ヤンが帆を開く。レクイエは甲板から手を振る人々と笑顔で別れた。その姿を寂しそうにアカツキとイレネーは見ていた。光の精霊を倒せばアールヴヘイムへの門が開き、女神に会う事が出来る。そして女神を倒せばレクイエは消え、アカツキの呪いも解ける。二人の永遠はここで終わるのだ。本人達と、知っている者にしか分からない感情が起る。船で北へと進んで行く。しばらく船で揺られていた。


ヘレーナ「北か……。故郷は今頃極夜が来る頃かな。」


セオドア「前回は暑かったのに、今度は寒いんだな。にしてもこのコート、凄く温かいな。」


ヨハンネス「なんの毛だろうな。あ~さっき朝ごはん食べたばっかりなのにもう腹減ってきた。」


セオドア「ちょっとわかる。……そういえばさ、いつからだと思う?あの二人。」


 一瞬空気が凍った。全員が聞きたいし知りたかったことだがなかなか切り込めない話だ。ヘレーナが思い出してまた顔が赤くなっている。


ヨハンネス「本当にびっくりしたよな。ああいうのってすぐわかるもんだと思ってた。イレネーの完璧フェイスはそっちでも有効だったわけか。いや、完璧フェイスしてたのはレクイエもだな。」


ヘレーナ「でも良かったよね、二人が愛し合ってたからレクイエに掛けられた呪いも解けたわけだし。あの時ちょっと感動しちゃった。」


セオドア「へ~、羨ましかったか?」


ヘレーナ「ちょっとね。……いつか私にもあんな人が出来るのかな。」


 ヨハンネスがなんとなく微妙な顔をしている。ヨハンネスは少々妹に過保護なところがある。どこの馬の骨かも分からない変な男を連れて来たりでもしたら殴りかかるかもしれない。


セオドア「ヨハンネス、落ち着けって。」


ヘレーナ「もう、お兄ちゃんに心配されるような人好きになったりしないわよ。」


ヨハンネス「べ、別にそんなんじゃねぇって。……セオドア!!一戦やらないか?」


セオドア「はは。いいぜ、時間はたっぷりあるし本気でやるからな!」


ヘレーナ「じゃあ私は中にいるよ。寒いしお茶でもいれようかな。」


 ヘレーナが船内に入った瞬間大きな衝突音がした。きっと外では激しい戦いが繰り広げられているだろう。中も冷えたがヘレーナが気温を過ごしやすい温度に上げた。レクイエとイレネーが中で座って静かに過ごしている。レクイエはただ静かに座っていただけだがイレネーはいつものように武器の手入れをしていた。


レクイエ「ヘレーナ、流石ね。」


ヘレーナ「温かいけどコートだと動きにくいから。お茶いれるけど二人も飲む?」


レクイエ「ええ、頂くわ。」


 イレネーも頷き、ヘレーナは全員分のお茶を用意することにした。大きなバッグからいくつかの瓶を取り出す。小さなポットで混ぜ合わせ熱い湯を注ぐ。今回はサンフラワーというオレンジの花をメインに使った。ハーブの優しい香りが部屋に拡がっていく。お茶を呑みながらまた一息ついた。


イレネー「思えばこうして船の中でよく3人でお茶を飲むな。二人はいつも外で戦って、私達は中でのんびりしていることが多い。」


レクイエ「若いと血が騒ぐんでしょ。よく飽きないわよね。」


ヘレーナ「そういえばあの二人最近武器の手入れしてない気がする。あれだけ力強く衝突してるし刃こぼれとかしてるんじゃないかな。」


イレネー「それは危険だけど、本人たちも気が付くだろう。戦士にとって武器は自分の一部だからね。大切にしなければ痛い目を見る。」


ヘレーナ「イレネーはしっかり手入れしてるよね。いつ見てもピカピカだもん。」


イレネー「この槍は特別だからね。もっとも、騎士団時代最初の仕事は武器の手入れだったから、体に染み付いているのかもしれないな。」


レクイエ「そのうち磨き過ぎて、擦り減るんじゃないの。」


 3人の間では和やかな空気が流れていた。時が経ち、レクイエはアカツキの陣を察知した。未だに戦っていたセオドアとヨハンネスを一度止め、船をその地点まで飛ばす。まだ海上だったがそこには氷山があちこちに浮いる。セオドアとヨハンネスは肌を刺すような寒さに脱いだコートを走って取りに行く。ヘレーナも船の中へと走って戻った。


セオドア「なあ!なんか故郷より寒い気がするぞ……!!」


ヨハンネス「は、はは……気のせいだろ……!?意味分かんねぇ……!!あー、耳凍る!ちょっと外そ……セオドア、持っててくれ。」


セオドア「あぁ、いいよ。」


 ヨハンネスは耳飾りの金属で更に耳が冷え、ついにセオドアに託した。自分の腕を摩りながらヘレーナがブツブツと何か呟いている。


ヘレーナ「温かい温かい温かい………!んー無理!!」


レクイエ「あら、ヘレーナが寒すぎて想像出来なくなってるわ。突然温度が急降下したから尚更寒いのね。大丈夫よ、次期に慣れるわ。」


ヘレーナ「ねえ見て、イレネーのまつげ凍ってる!」


イレネー「頼む……冷えるに関係する言葉を発さないでくれ……。」


 レクイエの言うとおり、段々と寒さにも慣れてヘレーナの魔法によって過ごしやすい温度に感じられるようにしてくれた。レクイエはヤンに道筋を指示し、船は氷山に当たらないようにゆっくりと進んでいく。やがて景色は霧と光の結晶に包まれていった。


ヘレーナ「綺麗……」


セオドア「世界にはまだこんなところがあったんだな……。」


レクイエ「さぁ、もう少しで陸に上がるわよ。ヤン気を付けて。」


ヤン「かしこまりました……!」


 船を横向きに変え、衝撃なく陸に着ける。ヤンの船の操縦は完璧だった。氷河で出来た大地に足を下ろすと、とても滑る。レクイエは船の上から氷河に陣を書き、ヤンを神の国に送り返した。数秒で氷河に戻ってくると盛大に滑り尻餅をついてしまった。レクイエは生まれたての子鹿のようにふらふらで立ち上がろうとするが、また滑ってうまく立てなかった。それに対し、セオドアやヨハンネス、ヘレーナは安定して立っている。イレネーも少し足元がおぼつかない。三人は笑いながら手を貸し、ヘレーナは二人の靴に氷の上で安定できるよう魔法を掛けてくれた。


レクイエ「あ、あなた達よく平気ね。」


セオドア「冬は毎年こんな感じだし。」


 余裕の表情を浮かべる北欧育ちにレクイエはあたふたしながらなんとか立とうとする。


ヘレーナ「ほら、ゆっくり。手握って。」


レクイエの手を取りヘレーナは滑り出す。ヘレーナは氷の上を舞うかのように滑っていく。レクイエのここまで必死そうな顔を見たのは初めてのように感じる。その姿にヨハンネスは呆れて言った。


ヨハンネス「雪で滑ってるようじゃ俺たちの村で暮らしていけねぇぞ?」


レクイエ「別に、あなた達の村で暮らそうなんて思ってないわよ!!」


 ヨハンネスの方に顔を向けて威勢を張ると見事にバランスを崩し、転びそうになったところをまたヘレーナに助けられた。イレネーは魔法を掛けてもらってからは問題なく立っている。セオドアとヨハンネスは久しぶりに氷の上に立って気分が高揚し自由に滑りながら競争している。レクイエが落ち着けと叫んでもその声は耳に届いていない。イレネーはその様子を苦笑いで見た。


イレネー「セオドア!!ヨハンネス!!私が今から全力で二人を追いかける。捕まったら大人しく先に進むぞ!!」


ヨハンネス「はっ!!ぜってぇ捕まんねぇし!!やれるもんならやってみろってんだ!!」


 あちこちに飛び回っているとイレネーの槍が一瞬視界に入った。気が付くとまずはセオドアがイレネーに捕らえられていた。


イレネー「まずは一人。」


セオドア「いてて……その技は卑怯だって。」


イレネー「卑怯もクソもあるか。さて、あっちはどうしたものかな。」


 セオドアをポイっと捨て、もう一人のターゲットへ目を向けた。ヨハンネスはセオドアが一瞬で捕まったことから本気のスピードで駆け回っている。この氷の上でよくもまあ転ばないものだ。イレネーはヨハンネスの動きを予測し、数秒後にヨハンネスが通るだろう場所に槍を飛ばし、一瞬で移動した。ヨハンネスは本当にその場所を通ったがぎりぎりの所でイレネーを交わした。


ヘレーナ「惜しい~!!」


ヨハンネス「あっぶね!!」


 イレネーはその場所から動かず、またヨハンネスを視線で追う。イレネーの脳内でヨハンネスの動きを論理的に解析し、二手先の行動地点に槍を飛ばして丁度突進してきたヨハンネスを捕らえることが出来た。


イレネー「まだまだ若いな。」


 ヨハンネスを降ろすとイレネーも一息ついた。若者たちは全力で身体を動かし、すっきりとした気分だった。落ち着いていられないレクイエを裏腹に笑顔が見える。


レクイエ「もうすぐ夜ね。やっぱりここは日の昇っている時間が短い。まぁ今日は十分進んだわ。もう少し進んだところで休みましょう。」


 イレネーに負けたことで大人しく進む二人も連れ、氷河をレクイエの案内で進んでいく。完全に日が落ち、今夜のキャンプ地を決めた。ヘレーナが障壁を張り、その中で一晩を明かす。中はとても快適で、温かく過ごしやすい。食事の準備をしようとレクイエは鞄を漁った。


レクイエ「これは……。」


 レクイエの手が止まっている。どうしたのかと鞄の中を見ると村の人々が用意してくれた食事が入っていた。それぞれの好きなものが沢山詰まったお弁当だ。イレネーは震えるレクイエの背を撫でる。


イレネー「とても、良い人々だな。」


レクイエ「えぇ……私にはもったいないくらい。」


 障壁の中で温かい気持ちの詰まったお弁当を食べる。ヘレーナが少し温めてくれた。卵焼きにミニトマト、小さめに作られた肉団子が全員に入っている。そしてセオドアには豚肉を濃い味でのたれで絡めたステーキを、ヨハンネスには鶏肉を油でカリッと揚げたから揚げを、ヘレーナには鮭を一口サイズに切り分けフリットにしたものを、イレネーにはすき焼きを、そしてレクイエには豆腐を大葉と豚肉で巻いた一品が入っていた。どれもショウが一度出したことのある物で、特に表情が良かったものを選んで入れてくれたらしい。アカツキからの手紙でそう添えられていた。お弁当にはおにぎりもついている。沢山のそれはきっちりと形よく握られたものから小さな手で握ってくれたであろうまばらな物もある。レクイエはお弁当をかみしめる。本当に大事に一つ一つをゆっくりと食べた。


ヘレーナ「レクイエ、泣いてる?」


レクイエ「な……泣いてないわよ。でも、美味しくって。」


ヘレーナ「帰ったらまたお腹いっぱい食べようよ。今度は本当の出来たてでさ。」


レクイエ「えぇ……そうね。」


 レクイエはヘレーナに微笑んで言った。ヘレーナもその笑顔に応じて笑いかける。その表情にどんな意味があるのか分かっているのはイレネーだけだった。セオドアやヨハンネスもお弁当を心から美味しそうに食べている。村の人々も綺麗に空になった弁当箱を喜んでくれるだろう。食後にヘレーナの入れるお茶を飲んで、和やかな時間が訪れる。


セオドア「そういえば、光の精霊はまだ先なのか?」


レクイエ「いいえ、明日の昼にはこの空間を抜けるはずよ。今は私達の住む世界と女神の住む世界アールヴヘイムの挟間にいるの。光の精霊はこの場所を抜けたところに新たな空間を作って住んでいる。炎の精霊もそうだったでしょう?そしてその地にアールヴヘイムへ繋がる扉があるの。」


ヨハンネス「じゃあほんとにあと少しなんだな。」


レクイエ「えぇ。あと少しで、大切な人を忘れない世界に戻せる……。」


ヨハンネス「あぁ。もう、最後だな。」


セオドア「明日光の精霊を倒して、女神のもとへ行く。本当に終わるんだな……。なんか、短かったな。」


へレーナ「そうだね。私も、この日々は一瞬だった。毎日本当に楽しくて、苦しい事もあったけど、全部皆と乗り越えられたから。」


レクイエ「皆。本当に、ありがとう。とっても、楽しかったわ。」


セオドア「なんだよ、もうすぐって言ってもまだ先は長いんだぜ。」


レクイエ「そうね。さぁ、もう休みましょ。ここは日が出てるの短いんだから。」


 何事もなかったかのように片付け、寝床を用意する。若者たちは散々走り回ったからかすぐに夢の中へと落ちていった。長い夜も短く感じる。イレネーはレクイエに一度だけキスをしてお互い眠りについた。朝日が昇るのも遅いこの地で起きた時にもまだ真っ暗だった。ヘレーナが障壁を外し、外気に出るとその寒さによってしっかりと目が覚めた。


セオドア「やっぱり寒いな。」


レクイエ「精霊のもとに着けば気温はまた変わるから、もう少しの辛抱よ。」


ヨハンネス「じゃあ早くいこうぜ。……どっち!?」


 レクイエの案内でまた氷河を進んで行く。朝日が昇ってくるとその美しい景色に圧倒された。真っ白な大地に輝く太陽はあまりに眩しい。そして太陽が完全に昇りきったころ、景色は氷の大地ではなくなっていた。いつ変化したのかも分からないほど突然で、目の前に広がるのはあまりに美しい花畑だった。


ヘレーナ「ここって……!?!?」


 雲一つない青がどこまでも広がり透き通ってとても明るい。咲いている花は様々で、同じ種類が原生しているわけではなそうだ。しかし、その花をよく見てみるとその異常性に気が付いた。


イレネー「全て死華か。」


レクイエ「この地には華が集まると聞いていたけれど、これほどとはね。」


??「当たり前だ、ここには2000年の華が咲いている。」


 背筋が凍り、後ろから心臓を握りつぶされるような緊張感が走った。視線の先には光の精霊であろう男が浮いている。表情は光に隠れて良く見えない。


セオドア「あれがローダンセ……!!」


ヨハンネス「へっ、今までとは桁違いだな。」


ローダンセ「クロユリが趣味に拘らずにレクイエをしっかり囚えておけば良かったものを。他の精霊達も、まんまと人間共のクズにやられるとは……。我々精霊も堕ちたものだ。」


ヨハンネス「ならお前も降りてこいよ。クズの力見せてやっから。」


ローダンセ「見るまでもない。さっさと華になるといい。」


 精霊は手を一振りするとヨハンネスに攻撃を放った。ヨハンネスは攻撃をしっかりと避けたが、攻撃が当たった大地は深くえぐれている


ヨハンネス「これは、思ってたより大変そうだな。」


レクイエ「ローダンセ、この星にもうあなた達精霊は必要ない。自然はあなた達がいなくても、もう充分生きていける。大人しく消えなさい。」


 レクイエの飛ばした刃はローダンセに真っ直ぐ向かっていったが当たる前に消滅した。ローダンセはその攻撃を何倍にもしてセオドア達に放った。それはヘレーナが前に出て障壁を張って受け流しに成功する。ヘレーナの魔法でセオドアとヨハンネスを浮かせ、空中で自由に戦えるようにした。イレネーも槍を以て飛び上がり、精霊を攻撃した。レクイエも風を操り、彼らの攻撃をサポートする。セオドアの斬撃を受け止め地に叩き落とし、ヨハンネスの突拍子もない攻撃を避けて反撃を与える。だが二人が作った隙きをイレネーは見逃さない。光の精霊に一撃与えることが出来た。それでも大したダメージを与えることは出来ず、小回りの効かない空中で捕まったイレネーは顔に強烈な一撃を食らった。地に落ちながらもしっかり体制を立て直し、着地することでダメージを最小限に抑えている。


ヘレーナ「イレネー!!大丈夫!?」


 イレネーの額からは血が垂れていた。ヘレーナは魔法で瞬時に傷を塞ぎ、痛みを軽減させた。セオドアとヨハンネスも一度地上でローダンセに睨みを効かせている。ローダンセは見下しながらその目を睨み返す。その背後には何か光るものが見えた。


セオドア「なあ見ろよ。あれが扉か?」


レクイエ「そうよ、あれがアールヴヘイムへの道。」


ヨハンネス「へ~、そこだけ歪んで見えるな。なら早く倒して進もうぜ。」


ローダンセ「話は終わったか?さあ処刑を再開しよう。」


 ローダンセの攻撃は地面を削り仲間達の足元を割いた。その攻撃を避ける事に集中していると精霊は姿を大きく変えていた。それはあまりに大きく、自分たちはその爪の先程度の大きさになってしまった。


レクイエ「無駄に大きくなった所で、的が広がっただけよ!」


 レクイエは風に乗り、舞うように刃を飛ばす。ローダンセは今度は避けることなくその刃を受けた。


ローダンセ「愚かな。こんな攻撃が効くとでも思ったのか。」


レクイエ「愚かなのはどっちかしら。ヘレーナ!!」


 ヘレーナは顎を引いて杖を向けた。腹に力を入れ、魔力を集中させる。そして、細かく沢山刺さった刃を巨大化させた。


ローダンセ「くっ……!!」


 体制を崩した瞬間、男達は飛び上がり精霊の核を突く為に攻撃を繰り返す。ヨハンネスとイレネーの猛攻に対応するローダンセの核を、今なら突けると踏んだセオドアはその腹に刃を突き立てた。しかしレクイエの刃は深く刺さっておらず、大したダメージにはなっていなかったようだ。ローダンセは罠に掛かったと不敵な表情を浮かべた。


ローダンセ「馬鹿め。」


 セオドアの胸が鮮血に染まる。傷は深くつけられ、痛みに悶えた。そして身体中に熱が奔る。


ヘレーナ「セオドア!!」


 セオドアの口から血が溢れ出る。胸と口を抑えながら、止まらない出血に混乱した。


イレネー「毒か……!」


 イレネーとヨハンネスもセオドアの方を見る。


ローダンセ「この状況でよそ見をするとは……悲しいな。」


 先に攻撃に気が付いたイレネーはヨハンネスを庇い左肩を砕かれた。そこはレオンにも一度破壊されている為、イレネーの一番弱い部位だった。槍を飛ばせず、イレネーは地に落ちる。


ヨハンネス「てめえ……」


 ヘレーナがセオドアの傷を癒やしていた為、イレネーにまで手が回らない。レクイエの治癒の術では完全回復にまでまだ時間がかかりそうだ。何より、ヘレーナの魔法も毒には効かなかったようだ。


セオドア「大丈夫……、もう動ける……。ゲホッ……。」


ローダンセ「あまり無理をするな。その毒はすぐに全身に回ってお前の身体を蝕んでいく。長い時間を掛けて、最期まで苦しむ事になるだろう。」


イレネー「レクイエ、セオドアを……君の術で。」


 レクイエはその言葉からイレネーの傷を塞ぐだけに留め、苦しむセオドアの額に触れ術を掛けた。突然身体が楽になった。しかし出血は止まらない。


レクイエ「あなたの感覚を鈍らせた。痛みを感じないのは危険なのだけれど、今はそれどころじゃない。この毒は彼の魔法。倒せば消えるわ!!」


セオドア「あぁ……助かった、ありがとう!」


 セオドアは立ち上がり、剣を構える。すると、ヨハンネスが隣に降り立った。小さな声で作戦を耳打ちされる。互いに頷き、セオドアは飛び上がる。ヨハンネスはヘレーナにもその作戦を伝えた。ヘレーナも分かったと頷き、イレネーにも浮遊の術を掛けた。イレネーはヨハンネスの動作とアイコンタクトで全て察し、片腕で飛び上がった。ローダンセをイレネーとセオドアで攻撃を繰り返し、気を引き続ける。ヨハンネスは弓に持ち替え、クロユリの城から回収した闇の力の残った矢を弦に掛けた。ヘレーナも魔法の準備をし、レクイエは矢を助けるために周囲の風を操る。ヨハンネスが弓を引き、精霊の核をめがけて矢を放った。空気を切り裂きながら矢は見事ローダンセに命中した。しかし、やはり刺さりがあまくローダンセは消えない。セオドアがその矢をつま先で蹴り、押し込むことで深く突き刺す事が出来た。


ローダンセ「この程度で小さな矢で倒せると思ったのか……?」


 ヘレーナが魔法を発動させる。矢の先を大きく広げ、ローダンセを深く切り裂いた。巨大化していたローダンセは苦しみから大声を上げながらもとの大きさに戻った。セオドアとイレネーも地上に戻る。


ヘレーナ「やった……!!」


ヨハンネス「よし!!これで最後だ!!」


 膝をつくローダンセにヨハンネスはナイフに持ち替えて攻撃に飛び掛った。しかし、それはローダンセに跳ね返されてしまった。


ヨハンネス「なにッ!?」


セオドア「核を破壊したはず……!うぅっ……」


ヘレーナ「セオドア、血が……!」


 セオドアもついに膝を着き、過呼吸に陥っていた。口や鼻からダラダラと血が溢れる。骨が脆く、地面に手をついただけで崩れた。関節も動かなくなり、爪も根本から割れていく。ヘレーナが治癒魔法で支え続け、なんとか意識を保っていた。


ヘレーナ「しっかり!!セオドア!!」


 痛みや苦痛は無いのに、体を支えることが出来ない感覚に恐怖を覚える。ヘレーナの魔法の暖かみも、感じることはなかった。


ローダンセ「残念だったな……。少し油断していた。お前達の強さを侮っていた……。認めよう、君達は強く、知恵もある。だが、もう許しはしない。」


 ローダンセは背後にその手を向けた。そして強力な力を放つ。その導線にあるものをレクイエは真っ先に気が付いて悲痛な叫びを上げた。


レクイエ「ダメ……!!!!」


 その力はアールヴヘイムへ繋がる扉に命中し、大きな唸りを上げて消滅してしまった。唯一の女神のもとへ行くすべは、ここで消されてしまった。


レクイエ「そんな……………。」


ローダンセ「もはや、一人一人確実に華にするのが最も早そうだな。……まずはお前からだ。」


 動けないセオドアに対して、ローダンセは巨大な光の刃を放った。イレネーが駆け寄ろうとするが間に合いそうもない。セオドアは、目を瞑って死を覚悟した。もう一度、その目を開けるまで現実よりかなり長い時間経っているような気がした。光は、セオドアに当たらなかった。顔を上げると、ヨハンネスの胸を光の刃が貫いている。刃は胸から滑り落ち、ヨハンネスも倒れた。理解出来なかった。友の身体は指先から消えていく。痛みを感じないはずなのに頭痛がする。過去の全てが崩れていく。何も分からない。


 今まで誰と共にいた……?旅に出る前、誰と狩りを共にしていた……?自分は、誰と共に育った……?誰と共に生きた……?彼の名前は……、なんだったか。目の前には、一輪の白き彼岸花が咲いている。寸前の記憶もない。突然そこには、純白の華が咲いた。そうとしか、思えなかった。頭の中は空っぽになった。何も考えられない。何も感じない。もう目の前は闇に等しい。理解が追いつき、やがて感情が戻ってきた。悲しいとか、怒りはあまりない。ただ今までのどんな時よりも心臓が重い。この華はきっと仲間だ。そして、自分を護って死んでいったのだ。


 名もわからぬ戦士に、今はただ、精霊の死を以て弔おう。身体は動いていた。立ち上がれば膝が砕けた。でも誰かが修復してくれている。なら、戦えるじゃないか。自分はただ、あれを殺せばいい。それしか、分からない。でも、それだけは分かる。誰の声も、音としての情報しか聞こえない。何を言っているのか分からない。飛び上がって相手を切り裂く感触も、あまり覚えていない。あの時の事は、ほとんど分からない。


 目が覚めたら、見覚えのある天井があった。そしてぼやけながらも、ヘレーナの心配そうな顔が見える。


ヘレーナ「……ドア!!……セオドア!聞こえる!?」


 だんだんと彼女の声が聞き取れた。


セオドア「ここ……、なんで……。精霊は!?」


 セオドアは起き上がろうとするがヘレーナに動くなと止められた。精霊は倒したと、セオドアが倒したとのだ伝えられた。光の精霊は核を2つ所有しており、それは頭部にあった。セオドアが斬った後、精霊は形を崩しながら最期まで道連れにしようと図った。セオドアは巨大な爆発に巻き込まれそうになったところをイレネーに救出されたという。彼女の顔を見ると、また頭痛がする。どこかで、別の誰かと似ている気がした。その顔を思い出すことは出来ない。ベッドに沈み、ヘレーナは治癒を続けてくれた。全身が毒に侵された為に治癒には時間がかかっている。


セオドア「なぁ……。俺達、イレネーに会う前、二人で旅してたか?」


ヘレーナ「う〜ん……。多分、違うと思う。ついこの前までの記憶も、あやふやだもの。」


セオドア「そっか。……やっぱり、そうだよな。扉も……、破壊されたんだよな。」


ヘレーナ「大丈夫。きっと、大丈夫だよ……。」


 ヘレーナの癒しの魔法が掛けられる。目だけ閉じて、その魔法を受け入れた。目を閉じていれば、ヘレーナは気を使って話しかけてこない。誰とも、もう話したくない。この感情が収まることはあるのだろうか。忘れてしまったんだ、何もかも。思い出のほとんどがぼやけている。自分の心に空白が襲いかかる。しばらくそのままでいると、部屋のドアが開く音がした。ゆっくりと目をまた開くと、入ってきたのはイレネーとレクイエだった。イレネーの肩はヘレーナの魔法で完全に治癒が終わっていた。それほど長い時間眠っていたようだ。本当は誰にも会いたくないし、話もしたくない。だけど何とか取り繕った。


イレネー「怪我の具合はどうだ?」


セオドア「助けてくれたらしいな、ありがとう。レクイエも。」


レクイエ「ごめんなさい、あなたをこんな目に遭わせて……。」


 レクイエは壁に寄り掛かって俯きながら話す。


セオドア「謝るなよ。それより、今後どうする。」


レクイエ「それを話したくて来たの。とりあえず、アールヴヘイムへ行く道は閉ざされた。門を新たに開ける方法を私は知らないの。でもね、イレネーが少し心当たりがあるみたいで。」


イレネー「いつか、アルバディアでヘレーナに唄った詩を覚えていないか?世界を渡り、全ての秘宝を得られたならば、また天へと導く英雄の道が開くだろう……。その秘宝は、石、本、刀、そして装身具、どれも僅かな事しか分からない。幅が広すぎて何が秘宝なのか。この詩が何を表すわけでもなかったとしても、少し気になるんだ。」


ヘレーナ「そうね、天へと導く英雄の道か……。確かにアールヴヘイムへの道な気がするね。この石が、秘宝だったりするのかな。」


イレネー「ヘレーナの首飾りの石は確かに美しい。勿論秘宝の可能性はあるよ。」


セオドア「イレネーはその話を誰から聞いたんだ?」


イレネー「詩人の師匠からだ。だがこれは詩人の中では有名な英雄譚だとも聞いている。」


ヘレーナ「そっか〜。」


レクイエ「まあ、今はなんでも手掛かりがほしい。まずはこれからやってみましょう。私ももう少し情報を探すわ。だから、今はゆっくり休んで。」


 レクイエは背を向け、部屋を出ようと戸に手をかけた。


セオドア「なぁ……。レクイエは……絶対人の目を見て話してたよな。なのに、なんで一度も俺の方を見ないんだ。」


 レクイエは答えなかった。レクイエは、昨日まで神殿に籠もり誰とも会おうとしてくれなかったという。アカツキや、イレネーすらも受け入れなかった。化粧でうまく隠しているが目は腫れている上に、肌も少し荒れていた。


セオドア「レクイエは、……死者の事を覚えていられるんだろ……?」


レクイエ「…………。えぇ、そうよ。」


セオドア「じゃあ、……あの日死んだのは、誰なんだ?白い彼岸花は……、誰なんだ……!!」


レクイエ「……あなたの、親友。相棒。家族。どれをとっても足りない位、強い絆で結ばれていた人。あの花は……あまりにも彼らしい華よ。」


 レクイエは出ていった。その顔は暗く、また閉じこもってしまいそうだった。部屋の外でレオンとすれ違った。彼はほとんど様態が回復し、今では問題なく村の中を過ごせている。その彼が自ら声を掛けることはほとんどなかったが、今日始めて声をかけられた。


レオン「あいつ、死んだのか?」


 レクイエは驚いて振り返った。ああそうだったと思い出す。レオンは精霊の力を引き継いだ事で死者の記憶が存在していた。


レクイエ「ええ……。皆には言わないで……。この旅はまだ、終わっていないから。」


 レオンは鼻を鳴らして去った。その態度は信じても良いように感じた。自分だけではない、彼のことを忘れられないのは、私だけではなかった。セオドアのいる部屋では静寂が訪れていた。イレネーはセオドアの心境を察して早々に部屋を出て行った。ヘレーナは出て行けと言われても行かないと断言されてしまった。彼の様態を見るためでもあったが、何より自分が離れたくなかった。互いに自分を形成する何かを失った代償は大きく、時間とともに少しずつ心が崩れ落ちていくように感じていた。ただただ辛い。胸が苦しい。今すぐ全てから逃げたい。日が沈み、皆が寝静まった後でセオドアはベッドを抜けた。ヘレーナもついていながら、長時間の看病に疲れて眠ってしまった。ベッドをヘレーナに譲り、外へと飛び出す。この場所は優しすぎる。真っ暗な村の中を進む。身体が痛むが、歩ける。船に行けばヤンがいるはず。行きたい場所がある。彼のことを、少しでも知りたい。あの地に帰れば、何か分かるかもしれないから。村の出口で誰かに呼び止められる。この声は、イレネーか。


イレネー「その身体でどこに行くつもりだ?」


セオドア「放っておいてくれ……。」


イレネー「……。苦しいのは分かる。君にとって、あの華の者が思い出のほとんどだったんだろう。だけど、ヘレーナを置いていくのか?ヘレーナも、共に同じ人生を歩んで来た者ではないのか?彼女を一人にするのか。」


セオドア「……。俺は、彼女の顔を見られない。その顔を見たら、また胸が苦しくなる。頭も痛い。身体の中がぐちゃぐちゃになる。どうしても、ダメなんだ。俺は……。」


イレネー「そうか……。なら好きにすればいい。どうせ死ねば忘れ去られる存在だ。」


 セオドアは黙って走り去った。イレネーは止めなかった。深い夜の森を抜け、海岸沿いにたどり着けば船がある。ヤンがすぐに自分のことを見つけ出し、船へと迎えてくれる。


ヤン「セオドアさん!も、もうお体は大丈夫なのですか!?」


セオドア「行きたいところがあるんだ。頼む。魔法の泉まで行きたい。」


ヤン「皆様は、ご一緒では無いのですか!?」


セオドア「俺一人だ。皆は……来ないよ。」


 ヤンはしばらく悩んだ。そして答えを出してくれた。


ヤン「私は……、誰かに船の操縦を教えた気がするんです……。誰かに、食事も頂きました。その人が誰か、分からなくなってしまいましたが、あなたはいつもその人の側にいました。私を、仲間として扱って下さったのは、皆さんだけです。特にセオドアさんと、その方は特別でした。……分かりました。行きましょう。だから、本当の目的地を仰って下さい。魔法の泉からでは、どこに行くにも地の便はあまり良くありませんので。」


 セオドアはヤンにお礼を言った。そして、目的地を故郷の村だと話した。そこに行けば、彼の軌跡が分かるかもしれない。何か一つでも彼のものが残っているかもしれない。名前も、顔も、声も、思い出も、何も分からないがそこで共に人生を歩んできた誰かがいたということだけは分かる。あの家に、何かまだあるかもしれないから。船が出発し、甲板に書かれた陣を消した。これで、追いかけては来れない。セオドアの身体は完治していない。苦しくなってきて、船の中のベッドで目を閉じる。次に気が付いたら時、自分の顔をかなりのしかめっ面で覗き込んでくる顔があった。ヘレーナだ。


ヘレーナ「おはよう……、セオドア。」


セオドア「なんで……!?」


 セオドアが飛び起きるとヘレーナに杖を向けられる。


ヘレーナ「一人で行くなんてずるいよ。私だって、あの人の事知りたいのに。しかも船の陣まで消したでしょ!もうしばらく魔法掛けてあげないから。」


セオドア「そこまで分かってたんだな……。記憶は全部消えてしまった。戻っても何も無いと思う。ただ、あそこでじっとしていることは出来なかった。逃げ出したかった。それに、君は……。君の顔を見ると、苦しいんだ。」


ヘレーナ「きっと、私とよく似てたのね。兄妹だったのかな。レクイエは、全部知ってるはずなのに、何も教えてくれないもの。」


セオドア「やめてくれ、何を言っても彼のことを思い出すわけじゃない。記憶も、あの人の物も、あの人も、何も戻りはしないんだ!!俺はもう……、戦えない……。また頭に空白が出来るのが、怖いんだ……。思い出を、失いたくない……。頼む、もう……構わないでくれ。」


 ヘレーナは真っ暗なセオドアを強く抱きしめた。


ヘレーナ「思い出は消えてなんかない!私達がここにいるじゃない。歩んで来た道は、一つだって消えてない。私、嬉しかった。私の作ったお茶、いつも飲んで、美味しいって言ってくれたよね。私が作った薬も、不味いって言いながらいつも使ってくれた。私の事を心配して、何度も護ってくれた。ずっと昔から、子供の頃から。私は、セオの笑顔を覚えてる。その笑顔がもう一度見たい、それだけで私はまだ戦える。この先も、道はちゃんとある!それを…思い出すために、戦おう。大好きよ、セオドア。」


 ヘレーナはセオドアの背を優しく叩く。幼い頃はよく、家族で抱き締め合っていた気がする。歳を重ねるごとに、恥ずかしくなって、しなくなってしまった。セオドアはクロユリを倒してから明らかに大きな闇を抱えている。以前のように心から笑えなくなっている。笑顔をみせれば、自分が助けられなかった人達の事を思い出してしまう。ヘレーナに抱き締められると、不思議と心が安らかになる。これは魔法か、それとも彼女の本来の力か。何もかもダメになって、身体を預ける。今までのどんな魔法より暖かかった。すぐに変化はなくても、きっと意味はある。

故郷までの船旅は長い。ヘレーナの魔法を使えばすぐだろうが、ここまでの旅路を二人で振り返ってみるのには、いい機会だった。思い出せる一番古い記憶のその日から、何があったのかを少しずつ振り返った。暖かいお茶をいれ、ゆっくりと話していく。やはり、思い出せない所は多い。その穴を想像して、少しでも塞ぎ合う。長い時間を掛けて、故郷近くの海に辿り着く。二人で砂浜に足を降ろし、懐かしい故郷の空気を吸い込んだ。


ヘレーナ「海って結構近くにあったんだね。」


セオドア「あぁ、そうだな。本当にあの頃は何も知らなかった……。村へ、行こう。今から歩いて夜になれば、誰に会うこともなく家に行けるかもしれない。」


ヘレーナ「誰にも会わないの?」


セオドア「君は父さんと母さんに会ったほうがいい。俺は、部屋にしか用はないから。」


ヘレーナ「そっか……。まだ気にしてるの?」


セオドア「……。誰かにも同じことを言われた気がするよ。」


 海岸から森に入り、暗い道を歩んでいく。歩き慣れたその道は、光が無くても分かる。懐かしい気持ちが、また胸を締め付ける。しばらく歩けば村の明かりが見えてくる。近くの水路も、工事が終わっている。自分達が引き起こした水害によって工事が遅れていたものだ。村にこっそりと入る。家までは入り口からは少し遠かった。建物に隠れながら進む。家に着けば、ヘレーナはそのまま玄関から入った。元気な声で、ただいまと。


母さん「ヘレーナ!?!?どうしたんだい……!いや、まずはおかえりだね。よく帰ってきてくれたよ。セオドアは?」


 母はヘレーナの変化した姿に驚いたが、すぐに受け入れてくれた。ヘレーナも、少しだけ緊張していたため、安心した。


ヘレーナ「セオドアは……、来てないよ。私だけ帰ってきたの。」


母さん「そうかい、じゃあ二階には新種のネズミでも入ってきたのかな。」


 セオドアは飛び上がり、自分の部屋の窓から侵入を試みていた。窓の鍵を破壊したのはかなり昔のことだったか。案の定、窓は壊れたままだった。部屋に入っても、昔と変わらない景色だと思っていた。だが所々物足りない気がする。ベッドはきちんと2つあるし、棚や机もそれぞれ置いてあった。だが、やはり物足りないように感じる。セオドアはそれでも彼の痕跡を探そうと自分の棚や同室の誰かの棚も探した。棚の中には服が数着入っているだけで、特に収穫は無かった。やはり何も無いのかと自分の机を開ける。


セオドア「……。こんなの、持ってたか……?」


 机の引き出しには真赤な石の小さな耳飾りが片方だけ入っていた。サッと、無意識に自分のポケットに手をあてがった。しかしそこには、何も入っていない。誰かから、耳飾りを片方預かった気がした。それはまさに、この片割れだったのではないか。そうだ、そうに違いない。この耳飾りは、幼い頃に彼から貰った物だ。


セオドア「絶対に……、護ってやる……。」


 耳飾りと共に受け取った言葉を思い出した。幼い頃の記憶ですっかり忘れていた。自分はあの時、しっかりと言葉とその証を受け取っていたのだった。だから覚えていた。彼が生きていた証拠は、ここに残されていた。その耳飾りを胸に抱いて、やっと涙が出た。声も溢れた。こっそりと忍び込んだのに、これでは台無しだ。階段を上がる音がする。セオドアは窓から飛び出し、家の屋根に移動した。


ヘレーナ「お母さん……。」


母さん「セオドア……、あの馬鹿息子。今夜はシチューだよ!!お腹空いてるんなら降りてきなさい!具材もいっぱいで暖かいし、焼き立てのパンもあるんだから!」


ヘレーナ「私達の分用意してるの?今までずっと?」


母さん「いいえ、ここ3日位だけよ。夢に男の子が出てきてねぇ。見覚えがあるような無いような子だったんだ。そしたらなんとなく、アンタ達が帰ってくる気がしてね。そしたら本当に帰ってきた。沢山作っておいて良かったよ。あの子は、誰だったんだろうねぇ」

母は寂しそうな顔で言った。きっとこの部屋のもうひとりの住人だと気が付いているけれど、分からないもどかしさに暮れている。皆同じだ。


ヘレーナ「じゃあ私セオドアのこと呼んでくる。久しぶりにお母さんのシチュー食べたいもん!」


 母は頼むよとヘレーナを送り出した。セオドアが既に屋根にいないことに気が付くと、船に侵入したときのようにセオドアのもとまで魔法で飛んだ。セオドアは既に村を飛び出し、森の中にある小川にいた。膝に顔を埋めて動かない。


ヘレーナ「シチュー食べないの?」


セオドア「腹減ってない……。」


ヘレーナ「あの部屋に、何かあったんだね。」


 セオドアは小さく頷いた。そして、少し迷ってから赤い石のついた耳飾りをヘレーナに見せた。ヘレーナも、瞳に涙を浮かべた。そしてその手をギュッと握り、セオドアに顔を向かせた。


ヘレーナ「彼の生きた証、ちゃんとあったね。」


セオドア「あぁ……。しかも、あいつは約束を……護ったんだ。俺は忘れてたのに、あいつはずっと覚えてたんだ。大馬鹿野郎だ……、本当に。」


ヘレーナ「そうだね。私もそう思う。」


セオドア「でも分かったよ。……俺は、彼を思い出す。それが、彼の為だと思うから。そのためにアールヴヘイムへ行って、女神を倒して呪いを解く。絶対に、やるよ。」


ヘレーナ「そうしよう。私も、思い出したいから戦う。ねぇセオドア……。この旅をやり遂げた未来では、また笑ってくれる?」


セオドア「……、分からない。でも、今よりはきっと……笑えると思う。」


ヘレーナ「うん。じゃあ少しでも、いい未来を一緒に作ろう。」


 ヘレーナはセオドアの手を取りながら立ち上がった。セオドアもその手に引かれて立ち上がる。


セオドア「俺、ヘレーナに酷いこと言ったよな。きっと君と彼の面影を重ねていたんだ。辛く当たってごめん。」


ヘレーナ「いいの、セオドアだって苦しかったんだから。……、じゃあ鮭のシチュー食べに行こうか!」


セオドア「あぁ……!行こう。」


 村にまたこっそりと戻り、家に帰った。今度は玄関から。ただいまと言って。


母さん「あぁ、おかえり。シチュー出来てるよ。早く手を洗っておいで。」


 暖かい家だ。分かっていた。でも、認められなかった。自分はこの家の子ではない。認める必要なんてない、ただその喜びを受けていいのなら。自分が認められなくても、皆が認めてくれている。20年掛かって、やっと分かった。席に座り、暖かいシチューと焼き立てのパンを出される。ヘレーナは母を手伝い、新しいお茶も煎れていた。


ヘレーナ「お父さんまだ仕事?」


母さん「うん、狩りの主力がいなくなったからね、男手が足りないのよ。」


セオドア「そりゃ悪かったな。でも文句なら村長に言ってくれよ。」


母さん「その通りだね。さ、温かいうちに食べな!」


 旅は長いものだった。久しぶりに食べるその味は懐かしく、心まで温まる。本当に美味しかった。シチューはたくさんおかわりした。鍋が空になるまで、パンも全部食べ尽くす。母はこうなることを見越して父の分は先に取り分けておいていた。美味しくて仕方なかった。食事を終え、ヘレーナの煎れたお茶を家族で飲んでいた。


母さん「今、何してるの?風の精霊は、もう倒したんでしょう?」


ヘレーナ「うーん、まだ内緒。でもね、世界って凄いんだよ!美味しいもの沢山食べたし、きれいな景色いっぱい見れたんだ。仲間もできたの。悲しい事とか大変な事も沢山あったけど、いい旅だよ。まだ、途中だけどね。」


母さん「そっか。大変な旅だろうけど、アンタ達の信じた道だ。母さんは、遠くから応援しているよ。」


ヘレーナ「うん。嬉しい……。もしね、出来たら世界が変わるの。きっと、いい方向にね。」


母さん「そっか。大きな事をやろうとしているんだ。じゃあいつまでも引き止めていくわけにもいかないんだねぇ。」


セオドア「……か、帰ってくるよ。また、さ。」


 母はそれを聞いてニッコリと笑ってセオドアにいった。


母さん「あぁ、いつでも帰っておいで。温かいご飯用意して待ってる。」


セオドア「ありがとう……、母さん。うん、ごちそうさま。もう行くよ。」


母さん「うん、じゃあ行ってらっしゃい。」


 母は笑顔で送り出してくれた。明かりを、背にして村を出た。初めて村を出たときのように胸を張って歩く。夜闇に紛れても、その足取りはしっかりと感じる。集落の外に出ると、聞き慣れた声で呼ばれた。


レクイエ「収穫はあったようね。」


 そこにはレクイエやイレネー、そしてレオンやアカツキもいた。


セオドア「レクイエ……。皆、ごめん。もう飛び出したりしない。彼の事を思い出す為に、俺はまだ戦わなくちゃいけないんだ。」


イレネー「戻ってきてくれて良かった。あの時は私も言い過ぎた。すまなかったな。」


セオドア「いや、イレネーは間違ってないよ。全部俺が悪かったんだ。でも、道は決まった。もう迷ったりしないから。」


レクイエ「ありがとう、セオドア。」


 レクイエはセオドアを抱き締めた。セオドアも、その細い体を抱き返した。そしてまた、仲間と共に歩むことを決意した。


ヘレーナ「ところで、なんでアカツキとレオンがいるの?」


アカツキ「私は道案内です。この辺りもかなり昔に調査いたしましたので。レクイエ様が描いた陣で最も近い地点まで飛び、そこからは徒歩でしたので。あの山脈を越えることになるとは思いませんでしたが。」


セオドア「前から気になってたんだけど、アカツキって……、何者?普通この当たりの山越えられないと思うんだけど。」


アカツキ「さぁ、何者でしょうかね。」


ヘレーナ「教えてくれないの?残念……。」


レクイエ「アカツキは、もはやアカツキとしか言いようがないからね。それで、レオンの方だけど……。」



レオン「出来た穴はデカいんだろ?どうせ暇だからな、ついてってやる。だからエルダーナに寄れ。」


セオドア「なんで命令……。いや……助かるよ、ありがとう。でもエルダーナで何するんだ?」


イレネー「城に、レオンの剣が残っているかもしれないと思ってね。彼の剣も特殊で、相当な大剣だったから他では手に入れにくいんだ。」


レオン「そういう事だ。アレじゃないと手に馴染まないからな。」


ヘレーナ「じゃあ、次の目的地はエルダーナだね!アカツキも来る!?ここからエルダーナに行く途中にある宿屋のご飯すっごく美味しかったよ!」


アカツキ「いえ、私はここで失礼致します。また、神の国で皆様のご帰還をお待ちしておりますから。旅のご無事を、お祈り致します。」


レクイエ「送っていくわ。陸は渡れても海は大変でしょう。遠慮しそうだからすぐ行くわよ。皆もちょっと待ってて。」


アカツキ「……お手数お掛け致します。」


 レクイエが足でサッと陣を描いてアカツキの手を取り消えた。瞬きをするうちにレクイエだけが戻ってきた。


レオン「適当かよ。」


レクイエ「時間を優先しただけよ。さ、行きましょ。エルダーナは少し遠いから。」


セオドア「あ、ちょっと待って。」


 セオドアは赤い耳飾りを右耳についた自分のものと付け替える。みんなのもとへと小走りで追い掛け、再びエルダーナへと向かう。イレネーとレオンは7年ぶりの故郷だった。山道を歩きながら話している。


ヘレーナ「そういえば、今のエルダーナには獣やら盗賊やらが多いみたいだから気を付けないとね」


イレネー「そうだったのか……。まあ、あの惨状だ。ガスト国すら手を引いたか。」


レオン「そういやガストは今どうなってんだ?」


イレネー「南への侵攻を諦めて今は西を攻めているよ。やっていることはエルダーナの時と変わっていない。」


レオン「へ〜。よく飽きねぇなあいつら……。」


ヘレーナ「ガスト国って話してた隣国のこと?」


イレネー「そうだ。私は顔が広まっているからガスト国には立ち寄れなくて、現状の詳しい事は分からないんだがな。」


セオドア「そんなに有名人なのか?イレネー。」


レオン「戦場じゃ有名人だからな。一騎当千の実力に国民を想う優しい性格と人望、それに加えてこの面だ。男でも惚れるさ。」


イレネー「やめろよ、昔の話だ……。」


ヘレーナ「へー!気になる!イレネー全然昔の話してくれないんだもん!」


レオン「おう、イレネーのあんな事やこんな事全部教えてやるよ。その代わり嬢ちゃん……」


 レオンが何か言おうとしたところイレネーから鉄拳が下った。溶射のない一撃により、レオンは撃沈する。


レオン「って〜……。なにすんだよおっさん!!」


イレネー「………………。オッサン……?お前も大概だろうが!!」


レオン「残念、俺はよ〜く寝てたおかげで若々しいまんまなんだよ。」


 確かにレオンは7年間年齢を重ねることが無かった為、イレネーよりずっと若く見えた。


イレネー「ヘレーナ、もしレオンに何かされたら気負わず、すぐに言ってくれ。俺が責任持って締める。」


ヘレーナ「うん!分かった!!」


セオドア「はは……、絶対分かってないだろ……。」


イレネー「お前の女癖が悪いのは直ったと思っていたが……。本当に懲りないな。」


 レオンは騎士団時代、休日のほとんどを沢山の女性ととっかえひっかえ遊んでいた。そのせいでレオンは何度か痛い目を見ている上に、レオンを通して騎士団が狙われたこともあった。その時は、たった一人でその団体に乗り込み犯人達を捕えてた功績により、なんとか減給で済んでいた。それでも、イレネーに次ぐ実力から主力部隊の隊長も務めていた。レオンは手をヒラヒラと振り、おどけてみせる。レオンとイレネーは長い付き合いなだけあって互いのことを良く理解していた。その二人の姿を見ると、少し寂しく、羨ましく思えた。だけど、その楽しさに少し空虚を忘れられた。


レクイエ「レオン、聞いてるからね。私達がいない間に、随分うちの国の女達に手を出してくれたそうじゃない。次やったら、ただじゃおかないわよ。」


レオン「こっわ、その顔イレネーに見せんなよ?フラれるぜ。」


レクイエ「ったく……。助けたこと後悔させないでよね?」


イレネー「レオン、そろそろ怒るぞ。……、随分歩いたな。」


セオドア「このあたりじゃまだ宿はないから野宿かな。もう少しいけば少し開けたところがある。そこで夜を明かそう。もうだいぶ夜が更けてるし、獣は冬眠してて、進めないことは無いけど寒いからな。」


 広場に辿り着き、野宿の準備をする。歩き疲れて、準備を放り投げセオドアは広場に寝そべる。一番サボりそうなレオンはなんだかんだ仕事をしている。空にあったのは満天の星だ。一瞬自分の隣に同じ空を見上げる青年が見えた気がした。昔は、きっとこうして自分の隣に友がいたのだろうと思った。そしてレクイエに扇で叩かれ、準備を手伝う。夕飯は簡単にスープとパンだけにした。セオドアとヘレーナは家で満腹になるまでご飯を食べていたので、スープを少しだけで食べた。食事の後は焚き火を囲んですぐに眠った。ただでさえ寒いこの地での夜は本当に苦しい。ヘレーナの魔法が無ければ、全員で凍えることになりかねない。夜中暖かいおかげで、朝の目覚めもスッキリとしていた。朝ごはんには目玉焼きとベーコンのトースト、そしてコーヒーを楽しんでエルダーナへの道を進んだ。山を超えた後は、平坦な道が続く。そこから更に3日程は歩き続けた。やがて以前泊まった宿屋へまた着いた。しかし、以前に比べて全員体力がついたこともあり、以前ほど野宿で疲れることはなかった。そのため通り過ぎようかとも話した。しかしヘレーナがチーズパン食べたいと駄々をこねたため、夕食だけ食べようかと寄ることにした。店主はセオドアとヘレーナを覚えていた。仲間を連れてきてくれたことに感謝し、以前のようにテーブルに案内される。これは奢りだと最初にぶどう酒を振る舞ってくれた。ヘレーナには山で採れた新鮮な果物を使ったジュースを。料理は以前のようにこんがりと焼けたパンに溶けたチーズがのせられた物が最初に提供されヘレーナが喜んでいる。その後も豪華な料理が続き、大満足だった。以前は蒸かし芋だった副菜もホワイトソースと炙ったチーズのグラタンになっている。暖かい料理は、身も心も温まる。エルダーナに近いこの宿はイレネーやレオンにとって懐かしい味だった。食事に満足したあとはすぐに宿を発った。明日にはエルダーナ王都に着くだろう。前回は通り過ぎただけのその場所に違う視点から足を踏み入れる事になるとは、想像出来なかった。日の出と共に、エルダーナを見下ろせる丘に着いた。丘には沢山の草花が自生している。そこには美しいアンランジュが咲いていた。


イレネー「ここは……。」


レオン「……俺も、サラマンダーに見せられてたから知ってる。早く行こう。あの華、しんどいだろ?……俺も、見たくねぇ。」


 イレネーは何も言わなかったが、少し目線が合わない。そういうときは自分の心情を隠している時だ。レオンもそうだ。自分の信念に従い、精霊とともに街を破壊したのは事実だ。正解のない選択で、後悔はしていない。それでも、奪った命の分だけ重さはのしかかる。いっそのことみんなと同じように忘れられたら、そう思うこともあった。


セオドア「そっか……。行くのはエルダーナ城だよな。えっと丘を下る道は……。」


イレネー「案内するよ。せっかくなら、エルダーナの美しい街並みを見てほしかったな。」


 イレネーは少し道を探した。7年の間に道も植物に塞がれていたのだ。ゆったりとした丘を下っていく。


ヘレーナ「私達も、最初は大きな街のエルダーナを目指してたんもんね。」


セオドア「そうだったな〜。あの宿屋で現状を知ってびっくりしたんだ。あの時は、ガスト国にやられたって話だったけどな。」


イレネー「あの場に居て、まだ生きているのは私とレオンだけだからな……。さぁ、もうすぐ街に入るよ。」


最後に出口を塞いでいる蔦を避けると、城下町に入った。


セオドア「城下町は一度通ったけど、なんだか全然違うな。」


イレネー「攻めにくい地にするために、少し作りが紛らわしいんだ。城まで行くのにも、直線に見えてそうではない。」


レオン「こっちに来てしばらくの間は迷子になりまくったな。イレネーに何回迎えに来させたか。」


ヘレーナ「そっか、イレネーは街出身の街育ちって言ってたっけ!?」


イレネー「あぁ、私は生まれも育ちもこの城下町だからね。散々遊び回ってたから、誰よりも詳しい自信があったよ。」


 幼い頃のあやふやな想い出を語り合いながら植物に覆われた街並みを進んで行く。チラチラと人の気配がすることに気になっていた。やはり盗賊などのならず者が住み着いているのかと考えつつ、奥へと歩んでいく。やがて城に到着し、錆びた門を開いた。庭は荒れ、獣が住み着いている。美しかった城も一度は火に包まれたものの、未だかつての形の基礎を保っていた。でもやはり、あの頃の景色は見る影もない。中に入ると煤とホコリだらけで咳き込む。足元にはガラスの飛び散った破片等もあるため、イレネーはレクイエの手を取り支え、気を付けて進んだ。


レオン「俺の剣動かしてないだろ?」


イレネー「あぁ、でもここにいる者達に動かされているかもしれないな。」


レオン「そう簡単に扱えるもんじゃねぇよ。ま、持てるなら結構なやり手だ。」


セオドア「その剣、この城のどこにあるんだ?」


レオン「俺達が最後に戦ったとこだ。……どこだっけ?」


レクイエ「覚えてないの?」


イレネー「あれは、王の部屋の前だ。場所しか分からないが……ここからなら、中庭を通るのが早い。」


 城の中の造りも複雑で、離れ離れになったら二度と会えないのではないかと思うほどだった。城には要塞の役割もあり、城下町も含めて本当に守りに強い街であったにも関わらず一夜で陥落したとはとてもやりきれないものだ。人々の記憶を失くしても、ここに自分がいたという場所の記憶は残るのだ。イレネーの案内の元中庭にたどり着く。かつての美しい庭園を思い出すが目の前に広がるのはまるで密林のようだった。見通しの悪いこの場所で、人の気配を感じる。


セオドア「誰かいる……。」


レオン「おいチビ、早く倒して来いよ。」


セオドア「だれがチビだよ!」


 レオンはセオドアの頭を掴み、くしゃくしゃにして笑っている。レオンとはそれほど身長は変わらないが確かに少しセオドアの方が低かった。緊張感がほぐれるが、少しだけ腹立たしい。セオドアは気配のする方向を感じ取り、飛び上がる。さっそく一人発見し、刃を向けた。


セオドア「誰だ?」


若い男「わわわわ!!えっと、み、皆!!!」


 逃げ出そうとする男をセオドアはしっかりと捕まえる。仲間のもとへ連れていくと武装した者達に囲まれている。盗賊団だろうか。


ガラガラ声の盗賊「動くな。そいつを離せ。」


セオドア「何してんだよ。」


レクイエ「見ての通りよ。」


セオドア「いや、倒せよ。」


ヘレーナ「一応?まだ悪い人だと決まったわけじゃないし。」


セオドア「悪くない人だったら剣向けられてないと思うけどな。」


ガラガラ声の盗賊「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ。こいつらがどうなってもいいのか!?」


イレネー「セオドア、とりあえず放してやってくれ。君たちも、話がしたいんだ。剣を降ろしてくれないか?」


威勢のいい盗賊「喋るな!!侵入者め……」


レオン「侵入者はどっちだか……。そっちに話聞く気がねぇならやるまでだ。覚悟はできてんだろうなぁ?」


 レオンはその手から火の球を出現させ、刃を向けていた盗賊たちに放った。それを皮切りに盗賊団の武器を奪い、相手に突きだす。


イレネー「話がしたい。いいかい?」


 優しい声でイレネーが言った。だが目が笑っていない分尚更恐ろしく感じる。


ガラガラ声の盗賊「な、何者だ……、お前ら……。」


イレネー「昔、ここに仕えていた者だ。」


 イレネーのその一言に盗賊団の後方から大男が現れた。きっと彼がボスなのだろう。


盗賊団のボス「どこかで見覚えがあると思ったよ。副長。」


イレネー「……、あなたは!」


 イレネーはその男に見え覚えがあったようだ。すぐに目付きが変わり、その男を睨みつけた。


イレネー「堕ちたものだな。アルベルト将軍。」


アルベルト「お前こそ、一騎当千を謳われた男が国一つ守れずどこで何をしていた。」


イレネー「……彼は、ガスト国の将軍だ。」


セオドア「将軍がなんで……。」


レオン「言わゆる旧敵ってやつだな。お前もここで燻ってるって事は、将軍はクビになったのか?」


アルベルト「あぁ。互いに仕えるものを失っている同じ穴のむじなというわけだ。」


イレネー「一緒にするな。私達はお前と違って盗賊なんていう下衆な事はしていない。だがお前がここの長なら話が早い。私達の目的はここに放置されているレオンの剣の回収だ。そして、この城から出ていけ。」


アルベルト「7年ずっと放棄していたこの城をか?取り返してどうする、エルダーナは戻らぬぞ。それに、お前からエルダーナを奪ったのはそこにいる旧友ではないのか?」


イレネー「何も知らないお前が、知った口を聞くな!!」


 イレネーはアルベルトに槍を向ける。アルベルトはその槍先をしっかりと握りこみ、イレネーを睨み返した。その手からは鮮血が流れている。レクイエはその間に入り、二人を離した。


レクイエ「双方引きなさい!!アルベルト、ここはあなたのいる場所ではない。ガスト国に帰りなさい。もしくは、ここに住もうと言うなら盗賊なんて辞めてこの地を復興なさい。将軍として、人々を導く力があるのなら、その力を正しく発揮しなさいよ!イレネー、あなたも落ち着いて。取り乱すなんてらしくないわよ。」


イレネー「……。すまない。」


 イレネーは槍を降ろし、アルベルトに背を向けた。少しだけ顔をアルベルトに向けて言い放った。


イレネー「もともと、今回は剣を回収するのが目的だ。今すぐに立ち退けと言っても難しいだろう。次に私がここに戻るまで猶予をやる。もしまだここにいるようならば、その時は斬る。」


アルベルト「ほぉ、副長は慈悲深いと見える。逆に言えばお前が死ねばここを望むものは誰一人いなくなる。お前の死を待つのも悪くはない。だがここは、この勇気ある美人の姉ちゃんに免じて引くとしよう。行くぞお前ら。奴らに手を出すな。」


 アルベルトは盗賊団を引き連れ、去っていった。最後までその背を見つめ、見えなくなるまでその場に留まった。


レオン「なぁ、イレネー……。」


イレネー「どうした?」


 レオンはしばらくイレネーを見たあと、目線をそらしてやっぱりなんでもないと伝え、奥へと進んでいった。イレネーは怪訝そうな顔をしたがすぐにあとを追った。その後もしばらくは人の気配を感じていたが襲ってくることはなかった。やがて王の部屋に辿り着く。窓を破って侵入した蔦に絡まったレオンの剣を発見した。蔦を剥ぎ取り、剣を引き抜いた。7年も放置したためやはり剣は錆だらけになっていた。


レオン「やっぱりこうなるか……。」


ヘレーナ「いいよ、綺麗にしてあげる。」


 杖をかざすと剣はたちまち錆が取れ、毎日しっかりと整備をしていたように美しくなった。


レオン「へぇ〜、嬢ちゃんやるじゃねぇか。助かったぜ。」


ヘレーナ「でしょ!」


 嬉しそうにヘレーナは笑ってみせた。


イレネー「さぁ、用は済んだ。行こうか、ここにはもう何もない。」


セオドア「いいのか?イレネー。」


イレネー「あぁ。でも、また来なくてはな。エルダーナは無くなっても、ここは美しく残したい。必ず取り返す。」


セオドア「そうだな。手伝うよ、俺も見てみたいから。」


イレネー「ありがとう。」


 イレネーは嬉しそうに言った。そのまま特に寄ることもなくエルダーナを出た。丘の上まで戻ると、イレネーが声を上げた。


イレネー「皆、1箇所行きたいところがあるんだが、いいか?」


セオドア「全然いいけど、どうしたんだ?」


イレネー「前に世話になった人の所に少し行きたいんだ。エルダーナのここからは近くだから。」


 イレネーに連れられて辿り着いたのは木造の小さな酒場だった。扉を開けると賑やかな店内が広がっていた。


イレネー「カイルさん、お久しぶりです。」


 カイルと呼ばれたその店の店主は口許に無精ひげを生やした男だった。イレネーに気が付くと目を丸くし、嬉しそうにやってきた。


カイル「おおお!!イレネー!!久しぶりだな!!元気だったか!?そっちはお仲間さんか!?ゆっくりしていってくれ!イレネー、ちょっと待ってろよ、ハーレイも来てるんだ!」


イレネー「え!?ハーレイも来てるんですか!?」


カイル「あぁ!まあ待ってろ!」


 カイルはドタドタと店の裏に行くと中年の男を連れて戻ってきた。


イレネー「ハーレイ。……久しぶり。」


ハーレイ「おう、イレネー。」


 ハーレイはイレネーの足元から顔を順番に見た。更に後ろにいたレオンにも気が付いた。


イレネー「紹介するよ、こちらはハーレイ。私の詩人としての師匠だ。」


 セオドア達はそれぞれ挨拶をした。ハーレイはカウンターの席に座った。


ハーレイ「イレネー、久しぶりにちょっと話そうか。ほら座れ。」


イレネー「あ、あぁ。カイルさん、皆を頼む。支払いは俺が持つから。」


カイル「久しぶりにお前が帰ってきたんだ。気にすんなよ。さ、仲間の皆さん。こちらにお座りください。カイルの特性のカクテルをご用意しましょう。」


 ハーレイとイレネーにも酒を出され、二人は話し始めた。


ハーレイ「半身に炎の烙印を捺されたあの男……。どうやら目的は、果たせたようだな。」


イレネー「あぁ。旅の中で仲間と出会えたから叶ったんだ。もっとも、この道に進むことが出来たのはあなたやカイルさんのおかげだ。……私の友は助かったが、仲間を一人失った。」


ハーレイ「そうか……。それは残念だったな。だが、見たところお前もあいつらも大丈夫そうだな。にしてもいい顔付きになったなイレネー。それで?今は?」


イレネー「旅をして、女神の巫女である彼女と出会って世界の過去を知ったんだ。昔は、死者のことを記憶出来たらしい。その世界を取り戻すために、今は戦ってる。そのために精霊は全て倒したんだ。でも、道は閉ざされてしまって今新しい方法を探しているところだ。」


ハーレイ「閉ざされたって……。なんだよ、あの詩を忘れたのか?」


イレネー「古の英雄譚の事か?やっぱり、あれが女神のもとへ行く方法だったのか?」


ハーレイ「そりゃそうだろ、あんなにはっきり言ってるじゃねぇか。それで?秘宝は集まったのか?」


イレネー「秘宝ったって、何が秘宝か分からないじゃないか。」


 ハーレイはグラスに入った酒を一気に飲み干し、大きな声を上げた。


ハーレイ「馬鹿野郎、お前の目は節穴か。ほら、秘宝4つ言ってみろ。」


イレネー「石、本、刀、装身具……。」


ハーレイ「それらに心当たりはないのか?ほら、あの若い嬢ちゃんを見てみろ。」


イレネー「ヘレーナの首飾り、あれがやっぱり秘宝なのか!?」


 イレネーは大きなため息をついて目を手で覆い、仰け反った。


イレネー「彼女達と初めて会った時からそんな気はしてたさ。刀はエディで受け取った小刀か?」


ハーレイ「そうそう!そうだよ。それで、あとの2つは?」


イレネー「書物……。まさかアルバディアの国王が持っていた物か?」


ハーレイ「よしビンゴだ。さ、あと一つ。装身具はなんだ?」


イレネー「心当たりが……。」


 イレネーが考え込むとハーレイはイレネーの胸元を見た。7年前あんなに大事に持っていた指輪が無い事に気がついた。


ハーレイ「……ん?お前指輪どうした。」


イレネー「あぁ、あれなら彼女に……。装身具は……愛の記し……。いやまさか……。」


ハーレイ「へ〜、お前のタイプはあぁいう子なのか。やるじゃねぇか。それで、もう3つはあるだろ?」


イレネー「あまりに、うまく行きすぎていないか……?どれもたまたま手に入れた物だし、もし


 私達が出会っていなければ知ることもなかった。それに……、なぜそんなに詳しいんだ?」


ハーレイはカイルに新しく注がれた酒を少し口に含んだ。


ハーレイ「その詩を作ったのは俺だ。運命とは、これ程力強く引き寄せ合うんだな……。旅の中で、真の名という言葉を聞いた事があるはずだ。」


イレネー「知っているのか、真の名について。」


ハーレイ「少し長い話をしよう。仲間も一緒にな。」


 イレネーとハーレイはセオドア達のいるテーブルへ行った。すぐに迎えられると、簡単にイレネーから秘宝について説明し、ハーレイは大きく息をついた。


ハーレイ「さて、どこから話そうか。」


レクイエ「あなた……、一体いくつなの?」


ハーレイ「巫女様の大体半分位だな。俺は……古の英雄の仲間の一人だった。俺の仲間は一人以外全員死んだ。真の名を持つものとは、女神から選ばれた古の英雄達の、その更に生まれ変わりの者達の事だ。それぞれの名前はフレイヤから聞けばいい。俺達は、世界中を旅していた。世界のすべてを知るためにな。その中で、たまたま光の精霊と遭遇し倒した。だがお前たちのように殺すことは出来なかった。だから光の精霊には核が二つあるんだ。どっちにしろ、門が開いてアールヴヘイムへの道を進んだ。俺達はそこで世界の真実を知ったんだ。フレイヤは、自分に打ち勝つ者を待っていた。試練を乗り越えられる強い人間を待っていたんだ。自分を倒せば人は人を忘れない。私に打ち勝てと言われた。だが、俺達は……人間という生き物を信じられなくなっていた。仲間は、人間に殺されたんだ。全ての人間を憎んでいるわけじゃないと言えたら、また違う未来だったかもしれないな。俺達は、人への恨みからフレイヤの要求を拒んだ。そして、一人は未だアールヴヘイムで人間を恨み続けてる。つまり俺達は、試練に負けたんだ。だからもう一人は、地上に戻った。新しく世界の全てを知ろうとする者が、どんな困難に打ちのめされようとも、アールヴヘイムへの道が閉ざされない為にな。だから仲間達から託されたそれぞれの宝物で、扉が開くようにした。未来できっと、女神にも打ち勝てる強い者が現れると信じてな。そして世界は停滞から動き出そうとしている。お前達が今時代を変えようと、苦しみながらも前へと進んでいる。俺達と違って、正しく真っ直ぐにな。これが、古の英雄譚の真実だ。質問なら受け付けるぞ。」


セオドア「じゃあ真の名は、俺達皆が持っているのか?」


ハーレイ「さあな。少なくとも巫女の姉ちゃんは違う。彼女はそもそもの存在から特別だ。生まれ変わりと言っても、俺だって仲間の事を忘れちまったんだ。俺には死者の記憶が無いからな。」


レクイエ「私があなた達に気が付けなかったのは、精霊と戦ってきたわけではなかったからなのね。」


ハーレイ「そういうことだ。精霊は女神の力の一部。それを倒さずにフレイヤと会った俺達はどっちにしたって負けてたさ。」


セオドア「イレネーから聞いた話に、こんな真実があったとはな……。それに、女神は倒されるのを望んでいるのか?」


ハーレイ「言わば全ては試練だ。星を滅ぼしかけた人間には決して乗り越えられないが、新しい時代の強き心を持った者を待っていた。まあ、そこんとこの詳しい話は俺から話すべきじゃない。それもアールヴヘイムでフレイヤから直接聞きな。」


イレネー「……そもそもハーレイはなぜ生きていられるんだ。レクイエやアカツキとはわけが違うんだろ?」


ハーレイ「俺は女神の術で魂と身体が分離してんだよ。身体はアールヴヘイムに置いてきた。アールヴヘイムに時間の概念はねぇから言ってしまえば永遠を生きられる。身体がそこにあるおかげで魂の俺は自由自在って訳だ。」


 レクイエは更に聞こうとしたが躊躇した。女神を倒せばその術は解けるだろう。それはこの場で自分の運命について言及することに他ならない。セオドアやヘレーナには言えなかった。


ヘレーナ「まさか、このペンダントが秘宝だったなんて……。エディで貰ったこの小刀も、イレネーの指輪も、全部秘宝だったのね。」


レオン「でも問題はその本だろ。王を証明するための本なんて貸してもらえる訳がねぇ。」


レクイエ「でも手に入れなければ進めないわ。まずはアルバディアに行ってみましょう。」


 仲間達の意見も一致した。


ハーレイ「次の目的地が決まったようで何よりだよ。すぐ行くのか?」


セオドア「そうだな、ハーレイありがとう。逢えてよかった。まだまだ聞きたいことはあるけど、先を急ぐよ。」


 ハーレイは小さく唸って返事をした。仲間達はテーブルを立った。そしてハーレイは最後にイレネーを呼び止めた。


ハーレイ「お前、ちゃんと幸せそうだな。全てに絶望してたあの頃よりずっといい。……安心したよ。」


イレネー「あぁ……。とっても。俺は、本当に恵まれている。」


ハーレイ「その感謝の心を忘れるなよ。これからも、きっと辛い道を進むだろう。でも自分の信じた仲間を信じろ、きっと……上手くいくさ。」


 イレネーは、黙って頷く。そこにすべての意味が込められていた。そして、カイルから一本のボトルを渡された。


カイル「エルダーナにしか咲かない花で作る酒があると言っただろう?お前を見つけたあの日に摘んだ花で作った酒だ。今朝熟成が終わって完成したところだ。これも何かの縁だろう。お前達で飲むといい。試飲はさせてもらったが、味に間違えはねぇよ。」


イレネー「いいのか、貴重な酒だろう?」


カイル「俺にできるのなんてこれくらいだ。戦いが終わったら、また飲みに来てくれよ。」


イレネー「あぁそうする。必ずまた来るよ。皆と一緒に。」


カイル「楽しみにしてるよ。またお前と飲めるのをな。」


 笑顔で送り出され、イレネーは仲間達のもとへと戻った。ボトルを見せ、戦いの前に皆で飲もうと約束した。アルバディアに最短で行くためには神の国へ戻り、船に乗ってミコヌスに飛ぶルートだろう。なにはともあれと、一度国に戻ることにした。セオドアの故郷から山や険しい道を通る旅で宿に泊まることもなく歩き続け、少々疲れも溜まっている。一度帰って眠り、それから出発しようということになった。急がば回れ、レクイエはそういった。国に戻るとまだ昼で突然の明るさに目を細める。


アカツキ「おかえりなさいませ。まずは暖かい湯に使って、ゆっくりお休みください。」


 常に無表情のアカツキが少しだけ、微笑みを見せたような気がした。優しい顔が、脳裏に焼き付く。今はただ彼の言葉に甘え、休めばいい。また明日、戦い続ける為にこの身体を休めよう。

1000PVありがとうございます!!

次回でストーリーは完結になります!!どうしようか考え中ですが、これからもよろしくお願いします!!

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