【新たな道は開かれ】
将来ゲームのシナリオを書きたいと考え、初めて自分の書いた物語をインターネットという広い世界に出します。まだうまく言語化できておらず、そのうえ文章力もないのでこれから沢山書いて精進していきたいと考えています。拙い文章ですがなんとか自分なりに納得のいくものが書けました。よろしくお願いいたします!
昔々はるか遠くの過去、人々は栄え文明の時代を送っていたという。しかし人間の欲望の為に自然は破壊され、星は腐り死んでいった。星を守る女神は6体の精霊をその体から作り出し、星を有るべき姿へと戻す。精霊の強大な力により文明も、沢山の人間も失われ人の時代は終わった。更に女神は、人間による新たな文明の進化を止めるために死者の肉体を華に変え、魂と記憶を閉じ込める器とした。人間はもう死者の事を覚えている事ができなくなり、自分が生きた証を残すことが出来なくなった。女神は人間に最後の情けとして、選ばれた者に魔法を与えた。星は新たな未来へと進んでいく、ただ一人を残して。
陽の光も満足に当たらない深い森、高い木々に囲まれながら獲物を追って駆け回る若者達がいる。彼らは協力して猪を捕えようと森を奔走していた。
ヨハンネス「セオドア!行け!!」
声を上げた者は木の上から矢を放ち、イノシシの足に命中させる。動きが鈍ったところを地上から追っていたセオドアと呼ばれた青年が仕留めた。血を払い、奪った命に対して祈りを捧げる。もうひとりの青年も降りてきて同じようにした。
セオドア「ふー、今日は大物だな。これなら毛皮も高値で売れそうだ。ヨハンネス、そっち持ってくれ。」
散々森の中を走り回ってため息をつき、やっと狙いの獲物を手に入れることができた。手慣れた様子で猪の両手足を縛り、持ちやすいように枝をその間に通した。ヨハンネスは木々の間から傾いた太陽を仰ぎ見る。
ヨハンネス「結構深くまで来ちまったな。早めに帰ろう、日が暮れそうだ。」
セオドア「本当だ。日没が早い、冬が近いな。今のうちに蓄えておかないと。」
二人がかりで獲物を抱え、特にする話もないとお互い無言でスタスタと帰路を歩いていた。前をセオドアが肩で担ぎ、後ろをヨハンネスが抱えていた。突然「あっ」とセオドアが止まるのでヨハンネスは枝に鼻をぶつけてしまった。赤くなった鼻を抑えながら犯人を責める。
ヨハンネス「なにすんだよ!急に止まりやがって!」
セオドア「いや、これ見ろよ。多分死華だ。」
ヨハンネス「……。本当だ。ここで誰か死んだのか?なんで?ここは人通りもそこそこだぞ?」
セオドア「獣だろう、最近森が荒れてる。時期的にも冬眠の準備に入るだろうけど、他にも何かあったのか。」
ヨハンネス「まぁ、自然の中で生きてりゃ無い事じゃない。気にしてたってしょうがないだろ。狩るか食われるかしかないんだからよ。」
その後もしばらく歩き、開けた場所に出ると集落があった。彼らの家だ。集落では作物を育てたり、家畜を飼ったり、それらを加工して新たな物を作ったり、森や山で取れた動植物などを集めたり、様々な生業をする人々が集っていた。ついた頃にはもう日が完全に沈み、月が顔を出している。集落の壁にある松明の明かりを頼りに、人々は皆忙しそうに仕事をしていた。
へレーナ「おかえりなさい!これ二人が?よく仕留めたね!今アンナさん達が捌いてるからあっちに連れていこ!」
ヨハンネスの妹であるヘレーナが出迎えてくれた。ヘレーナは集落内で医者として沢山の人を助けている。それはこのセオドアとヨハンネスも含まれる。二人は日中基本集落内に居らず、山や森で狩りをしている。その為怪我も多く、いつもへレーナの手当てを受けていた。彼女の案内で集落を進んでいく。ヘレーナが今日あった事について聞いてくる。雑談をしながら歩いていた。
ヨハンネス「そうだ、森の道中に華が咲いていた。あと獣たちが凶暴化してる、一人で村の外を出歩くなよ?」
へレーナ「そうなんだ、道で襲われるなんて珍しいね。それなら明日町に薬を売りに行くんだけど一緒に来てくれない?村長にお使いも頼まれて、荷物が多くて一人じゃ持てないの。今の話的にも一人で行くのはやめておきたいから。」
セオドア「あぁ、いいよ。明日、日の出位に出ようか。」
へレーナ「そうね!そうしましょ!」
猪をアンナに預け、軽くなった二人は伸びをしながら集落内を家に向かって歩く。何気ないいつも通りの日常だった。
ヨハンネス「ハァー疲れた。さ、飯だ飯!!今日はなんだ?」
へレーナ「今日はシチューだよ!私も手伝ったの、早く帰ろう!」
セオドア「それは楽しみだ。」
集落の外れにある小さな家の扉を大胆にヨハンネスが開け、大きな声で「ただいま!」と言う。奥からは母親の返事が聞こえてくる。ヘレーナもつづき、セオドアもただいまと言った。
母「おかえり、ご飯できてるよ。」
セオドアはこの家の子供ではなかった。両親の顔も、どこにいるのかも知らない。覚えていないと言う事は、既に亡くなっているのかもしれない。この家に引き取られ、今日まで暮らしてきた。家はとても暖かい場所だ。自分の子ではないのに本当の家族のように接してくれる。それでも自分がここにいていいのだろうかと常に悩んでしまう事が悩みだ。もちろんヨハンネスは気にするなと言ってくれる。これはあくまでセオドア自身の問題なのだ。
母「さ、冷めないうちに食べて。」
ヨハンネス「あ、母さん明日ヘレーナを連れて町に出るよ。」
母「助かるよ、ヘレーナ一人じゃ不安だったんだ。セオドアも行ってくれるのかい?」
セオドア「うん、俺も行く。」
母「ありがとうね。さ、まだまだ沢山あるからいっぱいお食べ!」
へレーナ「お父さんはまだ帰らないの?」
母「あぁ、皆川辺の工事さ。水路が壊れちまって不便だからね。今日は遅くなるって言っていたよ。」
へレーナ「そうなのね。……さ、私もご飯食べて街に行く支度をしなくちゃ!」
和やかな夕食を終え、出発の準備をする。と言ってもヘレーナがほとんど済ませておいてくれたのでセオドアもヨハンネスも自分の武器を少し手入れして荷物を担ぐだけだった。用意を終えて床につく。そしてまだ朝日が昇る前に起床し、身支度をした。
セオドア「さ、行くか。」
ヘレーナは頷き、持っていたランタンに手をかざして火を着けた。もうすぐ夜明けだがまだ外は暗い。ガラス戸の中の炎が輝いて見える。彼女は魔術師だった。医者として魔法を使い、傷や病を癒やすこともある。しかし、村の外に出ると魔法での治療を嫌がる人もいると教わり、薬草等を使った治療法も身に付けている。これらは町に住む薬屋から教わった。お使いには毛皮や塩漬けの肉、木の実や薬草、作物等があるが町で訪れる場所は薬屋一つだけだ。薬屋に届けた後は知らない。薬屋がそれぞれの店に届けてくれるらしい。自分達ときちんと会話してくれるのも薬屋だけだ。
ヨハンネス「魔法便利だな〜。俺にも使えりゃな。」
セオドア「魔法は生まれ持った才能だ。使えないやつは一生掛かっても使えないからお前には無理だ。」
ヨハンネス「分かってるって。なんか腹立つな。」
へレーナ「私も、便利な力だなって思う。だからこそ、皆のために使わなきゃ。」
セオドア「そうだな。君が魔法の使い手で良かった、少なくとも君の兄よりは。…さ、薬屋に行こうか。」
ヨハンネスにとんでもない顔で睨まれたがその顔が面白くて一瞬の静寂の後また笑い合った。村を出て山道を登っていく。集落を出たときはまだ暗かったが、段々と東の空が赤く染まってきた。森の中は危険が沢山潜んでいる為、セオドアとヨハンネスは細心の注意を払いながら軽くない足取りを前へ進めた。山を越え麓にたどり着くとすっかり日が昇っていた。やっとついた所で町の門をくぐる。薬屋は町の門から一番手前にある。薬屋の親父は外で花の手入れをしていた。
へレーナ「おじさん!来たよ!」
薬屋「おお、ヘレーナ。それにお前らも来たのか。お使いご苦労様だ。荷物はそこに置いておいてくれ。後で皆に届けるよ。さ、中に入って。簡単なものだが軽く飯食べて行きな。」
ヨハンネス「いいのか?そんな事して。」
薬屋「何言ってるんだ。遠慮することじゃないぞ。さ、中に入って。お茶を入れよう。」
薬屋の家に招かれテーブルについた。かなり急いで山を越えていたのでお腹はペコペコだった。薬屋は温かい紅茶、目玉焼きとトースト、リンゴを出してくれた。4人で朝ごはんの食卓を囲み、町での出来事を話していた。
薬屋「最近町も物騒でな。なんでだか分からんが、人が減ってるんだよ。」
セオドア「減ってる?どういうことだ?」
セオドアの手が止まる。真剣な眼差しで薬屋を見ている。
薬屋「さぁな。分かるのは数が足りないってことだけだ。覚えてないって事は皆咲いちまってるんだろう。原因も分からねえし、どうしたもんかねぇ。」
へレーナ「何か変わったことはあったの?」
薬屋「う〜ん、まず獣が凶暴になったな。落ち着きがないというか。穏やかな森だったのに、最近よく町人が襲われるよ。あとは〜、町が浸水したな。」
ヨハンネスは窓の外を見てつぶやく。
ヨハンネス「浸水?別に大雨も無かったよな。」
薬屋「それも原因不明でなぁ。突然水路から水が溢れ出て来たんだよ。浸水が収まったあとに調べてみたんだが、どこにも異常は無かったとよ。」
ヨハンネス「不思議なもんだな。」
薬屋は困ったように首を傾げていた。セオドアは思いついた!と言わんばかりにヨハンネスの方向を見る。
セオドア「ねぇこの町の水、確か森の奥の泉から引いてるよね?ヨハンネス、調べに行ってみない?」
ヨハンネス「なんで。」
セオドア「だって気になるし。行ってみようよ。」
ヨハンネス「わかったよ。行くよ、俺が行かねぇって言っても一人で行きそうだし。」
セオドア「へへっ、まぁね。」
ヨハンネスはため息混じりに乾いた笑いをした。
へレーナ「じゃあ私も!」
ヨハンネス「いや、ヘレーナは待ってろ。何があるか分からん。旦那、こいついいか?」
へレーナ「そんなぁ…私の魔法が役に立つかもしれないよ!?」
セオドア「大丈夫だよ、君の魔法が必要になるような事にはならないって。頼む。」
薬屋「あ、あぁ勿論。君たちが戦いなれているのは分かるが危ないと思ったらすぐ逃げるんだぞ?」
へレーナ「分かったよ。じゃあ、二人共。あんまり無理しないでね。」
ヨハンネス「おう。」
薬屋「じゃあヘレーナは俺と薬茶でも作るか。今大量に発注が入ってて大変なんだ。ちょうど持ってきてくれた葉や実なんかも必要そうだからな。」
へレーナ「うん、手伝うわ!」
朝食を終え、それぞれの仕事をしに向かう。森へ入ったセオドアとヨハンネスは何度も獣に襲われた。獣を倒し、奥へと進む。
セオドア「本当に荒れてるな。これは明らかにおかしい。」
ヨハンネス「何があると思う?」
セオドア「なんだろうな。あんまり変なのが出てきても困るけど、とにかく行ってみよう。」
森の最奥には泉がある。その泉の周りには美しい華が沢山咲いており、水は恐ろしい程透き通っている。泉のほとりには沢山の華が咲いており、木々は生い茂っていた。ここは開けていて空もよく見える。今日はとても天気が良い。太陽に照らされ、土も乾いているのかと思えば湿った匂いがする。この美しい景色とは裏腹に、それらの光景はまやかしの物だった。
セオドア「これは…全部死華か…。」
ヨハンネス「こんだけ咲いてれば、減ってるって気が付くわな。…おい、あれ見てみろよ。水の中にまで咲いてるぜ?」
セオドア「ホントだ。……でも水の中に咲く花なんてあったか?」
ヨハンネス「確かに…聞いたこと無いな。見てみようぜ。」
二人が泉のそこに咲く華を見つめていると、突然真っ青なドレスを着た少女が水中から現れた。二人は驚き、その場に尻餅をついた。
ナニカ「また人間が来た…。せっかく素敵な夢を見ていたのに。」
ヨハンネス「な、なんだ!?は!?」
ナニカ「私?私は水の精霊ウィンディーネだよ。シルフにいじめられて、やっと落ち着ける場所を見つけたのに、人間が沢山邪魔しに来る…。」
セオドア「シルフ?」
ウィンディーネ「そう、風の精霊。私は水で、あの子は風。でもいじめられて逃げてきたの。」
セオドア「君が来てから、この森が荒れてるんだ。ここ咲いている華も、君がやったのか?」
ヨハンネス「お前よく普通に話せるな…」
ウィンディーネ「私ね、綺麗なものが好きなの。だから泉の周りに沢山お華が咲いて嬉しい。君達はどんな華を咲かせるのかな。」
ヨハンネス「全然聞いてねぇし…。でも、犯人はこいつなんだろうな。」
ウィンディーネ「楽しみましょう、素敵なお華畑を作るの。いつかの夢に見たような。」
セオドア「あぁ、そうみたいだな。…くるぞ、構えろ。」
水の精霊はその名の通り泉の水を操った。セオドアは剣を引き抜き、弾のような攻撃をはじきながら精霊に斬りかかる。しかし水圧の高い水は剣を欠けさせていた。
セオドア「ちょっと、キツイな……」
ヨハンネス「集中しろ、気抜いたら一瞬で殺される。」
ヨハンネスは弓での攻撃を諦め腰に隠していたナイフを二本携えた。片方のナイフをおとりに投げ、隙を作って飛び掛かったセオドアに斬らせた。残ったナイフでヨハンネスは精霊の頭を突き刺す。精霊は手足から形を崩していいた。
ヨハンネス「はぁ…はぁ…倒せた…のか?」
セオドア「いや、まだだ……」
水の精霊「ヒドイ…ヒドイよ……。私死んじゃうの…?いや、いやだよ……。寂しいよ……。なら……死んじゃうなら……華と一緒に。」
水の精霊は最後の力を使い、泉や周囲の水を暴走させた。二人は避けることが出来ずに水に飲み込まれた。水の力は町まで及び、水路から水が溢れるだけでなく大きな波が迫っていた。
薬屋「そう、この葉を加えることで気分を落ち着かせる効果を出せるんだ。飲んでみるか。」
ヘレーナ「うん!」
薬屋はキッチンで沸かしていたお湯をポットに注いだ。調合したハーブを蒸らし、温かいハーブティーが完成した。
薬屋「さぁ、召し上がれ。」
ヘレーナ「頂きます。……うん、温まるな〜。なんだかほっとする。」
薬屋「どこにでもある植物から作れるから、覚えておくといいよ。……、地震か?」
突然地面が激しく揺れた。窓の外を見ると水路が破壊され、水が溢れてきている。
ヘレーナ「な!?どういうこと!?」
薬屋「ヘレーナ、ここは水に浸かってしまうかもしれない。広場は少し高台だ、避難しよう。」
ヘレーナ「わ、分かったわ!」
町の人々も広場に避難していた。道はすでに浸水を始め、家は見る見る間に沈んでいった。更に、森から大きな波が押し寄せついに町を飲み込んでしまった。町の人々は怯え、絶望した。子供の母を探して泣き叫ぶ声が聞こえる。既に広場の近くまで水はきている。引く様子はなく、人々は逃げ場を失ったのだ。
町の人1「も、もうおしまいだ……」
町の人2「いったいどうして……!!」
ヘレーナは二人の心配をしていた。森の方から水は押し寄せてきている、水源はあの泉なのだろう。泉に向かった二人は無事なのだろうか、と。狼狽えるヘレーナに一人の中年が声をかけた。
町の人3「おい、あんたの仲間はどうした。男が二人いただろう?」
ヘレーナ「え?」
町の人4「俺、見たぞ!こいつの仲間が森に行くのを!」
ヘレーナ「そ、それは!この町の異変を調べようとして…!」
町の人3「まさかお前らの仕業なのか…?」
薬屋「やめろ!これは誰の仕業でもない!前々から異変はあっただろう!?」
町の人4「どうだか、少なからずここまでの被害はなかった。お前ら蛮族が来たから、泉の主が怒ったんだよ!」
ヘレーナ「そんな……」
町の人々の目が変わった。確実に私達を敵に見ている。広場にいる人の中で私の味方をしてくれるのは薬屋だけだろう。しかし薬屋も結局はこの町の人間だ。最後まで私の味方をすれば、彼もここで暮らせなくなる。
ヘレーナ「……。私たちは何も知らない、でも分かったわ。ここは食い止めて見せる。」
ヘレーナは集中し、魔力を溜めた。そして押し寄せる水を操りせき止めた。水は勢いを失い、泉へと戻っていった。美しかった水は泥や瓦礫を飲み込み、淀んでしまった。大量の魔力を消費し、ヘレーナは膝をつく。
ヘレーナ「はぁ、はぁ、はぁ……」
薬屋が駆けつけてくれたが、他の人々の目は変わらなかった。それどころか魔法を使ったことにより、更に敵意を向けられている。命を助けた人々でも、固定概念は簡単には覆せないようだ。
町の人5「やっぱり、魔術師なんて信じちゃだめなんだ。全部自作自演だ。こいつらが、犯人だ……!」
ヘレーナ「どうして……」
町の人6「私達への憂さ晴らしにこんなことしたんだろう!?」
薬屋「なんでそうなるんだ!!皆落ち着いて!彼女が水を抑えてくれたおかげで水は引いたんだぞ!?」
町の人6「出てってよ…。この町から出てって!!」
薬屋「お前ら……!」
ヘレーナ「いいの…。もう…いいの。ありがと、薬屋さん。」
ヘレーナは立ち上がり広場を後にした。ゆっくりと森へ向かう。二人の記憶は鮮明だ、まだ生きている。でもこの町にはもう居られない。この町と交易をするあの村にもきっと居られない。これからどうしようという重荷にヘレーナは涙を浮かべていた。湿った地面が足を捕らえて歩きにくい。森は今までのような静けさを取り戻していた。この森に住む動物達は無事だったようだ。凶暴さもなく、ただあるがままに生きていた。やっとの思いで泉たどり着く。その畔で二人が倒れているのを発見した。
ヘレーナ「お兄ちゃん!セオドア!!」
へレーナはヨハンネスを勢いよく叩く。彼は目を覚ました。
ヨハンネス「うっ……いってぇ………。なにすんだよヘレーナ。」
ヘレーナ「大丈夫そうね。心配させないでよ!」
ヨハンネス「はぁ…起きろ、セオ!」
ヨハンネスはため息をつきながら起き上がり、セオドアの背をヘレーナより強く叩いた。八つ当たりである。
セオドア「ケホッ…ケホ…、あれ…?どうなったっけ…」
セオドアは体を起こし、あたりを見渡した。泉に咲いていた華を探すが見あたらない。ぼーっとする頭を掻きながらなんとか立ち上がった。
セオドア「元通りって、感じだな。」
ヨハンネス「町は?」
ヘレーナ「それが……」
ヘレーナは町で起こった事を、二人に話す。
セオドア「俺達が犯人になってる訳か。まあ刺激したのは俺達と言えば俺達だけど。でも、行こうって言ったのは俺か。悪い、お前らまで巻き込んで…。」
ヨハンネス「いーよ、あんな町。なんにせよ、俺達は敵みたいだし。村にも戻らない方が良いだろ、あそこはこの町と交易しないと成り立たなくなる。」
セオドア「お前らはそれでいいのかよ、母さんが心配するんじゃない?」
ヘレーナ「うん…。」
ヨハンネス「なんでそこに自分は居ないんだか。そういうとこだぞ、セオドア。まぁ、一旦戻るか。この町であった事を話せばどうせ追い出される。そうすりゃ堂々と出られるだろ?」
ヘレーナ「そうだね。その後はどうするの?」
ヨハンネス「じゃあ、のんびり世界を旅でもしようぜ。昔よく話しただろ、いつか村を出て旅をするって。夢が叶って良かったじゃねぇか。」
セオドア「あの、水の精霊だったか。風の精霊にいじめられたとか…。あんなのが他にもいるって事じゃないか?」
ヨハンネス「おいまさか、風の精霊探すとか言うのか?なんのために?」
セオドア「旅するなら目的がないと。」
ヨハンネス「聞いてたか?のんびりっつたろ、確実にハードな旅じゃねぇか。それに、また周辺の町に被害がでたらどうする。」
セオドア「あいつらが周辺にいる方が危険だろ、今度はきっちり止めを刺すさ。」
ヨハンネス「まあいいや、どうせ失うものは何もない。叩きのめしに行くか。」
ヘレーナ「ふふ。なんか凄く不安だったけど、ちょっと安心したな。」
セオドア「そりゃ良かったよ。さぁ、怒られに帰るか。大丈夫、3人でいればなんとかなるよ。」
三人は泉を離れ、村への帰路についた。その後姿は、往路に比べて背筋が伸びているように感じる。ヨハンネスは両手を頭で組み、セオドアはポケットに両手を突っ込んで歩いた。ヘレーナもその傍らに立ち、その歩みは軽やかだった。
村につくと人々が慌ただしく動いていた。ここでも異変があったということはすぐにわかった。ヨハンネスが声をかける。
ヨハンネス「おい、なにがあったんだ!」
アンナ「修理してた水路がまた溢れたんだ。それでここまで水が流れてきちゃってね。もうすぐ汲み終わるところだよ。」
ヘレーナ「こんなところまで被害があるなんて…」
セオドア「じゃあ、修理にあたってた人はどうなったんだ!?」
アンナ「大丈夫、すぐに離れたからみんな無事だよ。華もまだ見かけてないし、多分ね。早くお母さんのところに行ってあげな。村長への報告はその後でもいいと思うよ。」
セオドア「いや、すぐ村長のところに向かうよ。きっと辛くなるだけだからな。俺達は無事って伝えてくれ。しばらく戻れないから。」
アンナ「そう…?なにかあった?」
セオドア「なんにもないよ。じゃあアンナさんまたね!」
三人は村長の元へと向かった。村長の居るところは山に近く、少し高くなっているため、水の被害を免れたようだった。村長に会い事の顛末を話した。
村長「なるほど、話はよく分かった。お前達が故意に引き起こした事態という訳ではない。しかし、お前達が今後町に近づけばきっと今以上の仕打ちを受ける。もしやこの村からもな。一度、この地から離れたほうが良いだろう。真犯人である風の精霊を倒して来れば皆も納得しよう。」
村長と話が終わり村を出た。持たされたのは旅に出るために必要な最低限の物だけだった。
ヨハンネス「見事な厄介払いだったな。」
セオドア「そりゃそうだろ、こんな大災害起こすようなやつを村にとどめておけないって。」
ヘレーナ「じゃあ、言われた通り風の精霊倒しに行こっか。計画通りだね。」
ヨハンネス「すっかり元気だな。さっきまでのどんよりした顔はどこに行ったんだよ。」
ヘレーナ「だってもう心配事ないもん。むしろせいせいしたわ。」
セオドア「無理するな。本当に母さんに会わなくていいのか?」
ヘレーナ「ううん、本当に大丈夫。会うなら、風の精霊倒して堂々と帰ってきたあとよ!で、どこにいるの?風の精霊。」
空気が氷る。水の精霊は風の精霊の居場所を一切言っていなかった。
セオドア「とりあえず南西の方角に進んでみようか。今から北に進んだら冬を超えられずに死ぬだけだ。たしか大きな街があったはずだ。寄って話を聞きながら進もう。」
ヨハンネス「長い旅になりそうな。気楽に行こうぜ。」
小説家の方の凄さを知りました。自分の頭の中ではキャラクターは動いてくれているけれど、それをきちんと伝わる文章にすることがとても難しかったです。それでも、楽しんで書くことが出来ました。ペースはまだ未定ですが、第2章も出したいと思っていますのでよろしくお願いいたします!