あなたがくれたものは(7)
数週間後、俺はカメラを首から下げてアルバムを片手に、またあの星の見える場所に足を運んだ。今じゃここは俺のお気に入りのフォトスポットだ。
どうやらあの日で神様とも本当にお別れだったらしい。あれから、また突然現れるんじゃないかと警戒しながら待ち構えていた。しかし、神様が俺の前に姿を現すことは一度もなかった。
ベンチに座り、鞄の中からキャンプ用のランタンを取り出し、明かりを灯すとあたたかさを含んだオレンジ色の光が静かに俺を包んだ。
「柑奈に見えるかな」
柑奈が隣にいたころよりも厚さを増したアルバムのページをゆっくりとめくり、一番最新の写真が貼ってあるページを開く。
「もう夏も本番だから、大学の近くに出来たかき氷屋さんに行ってみた。すごく美味しかった。写真も美味しそうに撮れてて、羨ましいだろ」
苺のシロップのかかったかき氷の写真を指さして、そのまま人差し指を横にスライドさせる。
「こっちは、大学の友達とバーベキューをした時の写真。皆も楽しそうだし、景色だけの写真もけっこう綺麗に写ってると自分では思ってる」
俺はたまにここに来て、柑奈に話しかけるように写真を見ている。返事はないけれど、こうしていると、夜空の星になった柑奈が楽しそうに一緒に笑っているような気がした。
こんな俺を見たら、周りの友達や知り合いは柑奈を失った悲しみでおかしくなったとでも思うだろうか。だけどまあ、俺は別にそれでもいいんだ。柑奈と思い出を作り続けていくって決めたんだから。
「あれから、本当に神様が見えなくなったんだ。急にいなくなるなんて本当に勝手な神様だよなあ。見た目からして神様っぽくないし、無理とか言うし……でも本当に感謝はしなきゃな」
神様に出会えなかったら、俺は今頃どうしていただろう。それこそ、おかしくなって毎日抜け殻のように何もない日々を送っていたのかもしれない。
立ち上がり、星空の写真を一枚撮った。
「今日も綺麗だ」
しばらく見つめたのち、俺はランタンの明かりを消して、荷物を持った。
「さて。次の場所に行くか」
もう一つ、俺には行かなきゃならない場所が出来た。
歩いてしばらくかかってしまうけれど、その時間や体力を使ってでも行かなきゃならない場所だ。
到着したのは、神様と出会ったあの小さな神社。
「今日も長い道のりだったよ」
あの日のように鳥居を見上げる。それから一礼し、神様の世界に行く。
拝殿の前までたどり着くと、勉強してきた作法でお参りをする。
ゆっくりとお辞儀をし、お賽銭を入れる。神様は文句を言っていたけれど、五円を入れた。それから二礼二拍手。
「神様。今日はそこにいるのか? 俺だよ、裕太。あれから何度もここに来てお参りしてるけど、一度も姿を見せてはくれないね。お賽銭が五円だからか? それともまた、神様の都合か気まぐれってやつか?」
話しているうちに思いだしては、笑ってしまう。きっと神様も笑っているだろう。
「俺、柑奈と神様に、裕太の写真が好きだって言われて、写真が好きになったんだ。今もたくさん写真を撮り続けているよ。また神様が俺の前に姿を現したくなった時にでも、見せるよ」
どれだけ話しかけても、期待をしても、やはり神様の声は聞こえてこない。
「神様。俺の願いを叶えてくれて、本当にありがとうございました」
最後に一礼をして、顔を上げる。
失って気づいた。柑奈が、大事な人がいつも隣にいてくれるのは当たり前じゃないこと。
神様との不思議な出会いによって俺の人生は大きく変わったと思う。この出会いも巡り合わせなのか。それとも気まぐれなのか。どうだったとしても、俺は本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
柑奈と神様がくれた今の俺の世界。
俺は大事に生きていくよ。終わりがくるその時まで。