表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の気まぐれと都合  作者: 卯月晴
21/25

それは確かに愛でした(6)

「はい?」

 思わず口から出てしまった言葉だった。

 私が神様の先輩だったとは、何を言っているのか。

「だから、あなたは僕の先輩だったんですって。つまり、この神社の元担当神様」

「私が……神様? 何をおかしなことを……見ての通り人間です」

「今はそうですね。すっかり記憶もリセットされて、しっかり人間をやってらっしゃる」

 神様の口から出る言葉の意味が一つも分からない。

 私の理解力の無さに呆れた顔で神様は深めのため息をついて、「まあ無理もないか」と呟いた。

「やっぱり手っ取り早く一部を見てもらおう。はーい、それではこちらをご覧くださーい」

 そう言って神様は右手をスッと空に向かって上げ、伸びていた指をグッと一気に折り曲げた。まるで何かを掴んだかのように力強く、握りこぶしを作る。

 その瞬間、私と神様の身体全体が透けてしまった。

「えっ?」

「あ、そこはリアクション無しで大丈夫です。僕の力なんで。それより、こっちを見ていてくださいね」

 神様が指した方向に目を向けると、突然神社に人が二人現れた。

 一人は、今現在、私の横にいる神様。同じ格好に、同じ顔をしている。大昔なのに、若さも今と変わらない。これで本当に私より生きている年数が上なのか。

 そして、もう一人。

「……私?」

 目の前の大昔の景色の中で、楽しそうに神様と会話をしていたのは若かった頃の私だった。顔も雰囲気も、私そのものだ。

 隣にいる神様の方を勢いよく見ると、神様は自分の口の前で人差し指を立てて「しーっ」とウィンクをした。

 耳を澄ませてみると、その会話が聞こえてきた。


「いい? 後輩くん。神様だからって決して(おご)ってはいけないのです。神様だからこそ誰かのために動くのです」

「先輩。その話、もう耳にタコです。それに先輩は神様なのに、ルール破りすぎて怒られてばっかりいるじゃないですか。全然先輩の話に納得できません」

 先輩と呼ばれる結実に、後輩くんと呼ばれる神様はわざとらしくうんざりとした様子を見せた。

「確かに私は怒られてばかりいる。だけど! だけれども!」

 結実は力強く、拳を握って自分の胸の前に掲げた。

「誰かのために破るルールは悪くない! その誰かを大事に想っている証拠だと思うの!」

「はあ……」

 アツい結実の演説に後輩くんは気の抜けたような返事をする。

「だってそうじゃない? だってその誰かのために何かしてあげたいっていう気持ちが積もりに積もって、ルールを破ってしまってるんだから」

「だからって、僕が上に嫌味を言われたときとかは立ち向かわないでいいですから。我慢していれば済む話なんです」

 言い聞かせるように後輩くんが言うと、結実は「それは無理」ときっぱり拒否した。

「私の可愛い後輩が嫌味を言われたら、居ても立ってもいられないんだもん。つまり、私は後輩くんを大事に想っているということ。分かる?」

「それは……僕のためにというのは、ありがとうございます。でも、人間のためにルールを破る必要はないと思います。本当に人間というものは……僕らのようにいつまでも生きていられない、命という時間制限があるのにいつも大事なことに気が付けない。隣にいる大事な人を大切にもできない。失ってから気づくんだ。僕からしたら、馬鹿にしか見えませんよ」

 後輩くんは今の神様とは雰囲気も違い、悪態ばかりついている。

 そんな後輩くんに結実は言った。

「そんなひどいことは言わないで。失って気づけたんだから、いいじゃない。そのまま一生気づけないことのほうが問題だわ。隣にいる人が、当たり前の日常が、奇跡であることに気づける人間を一人でも増やしていきましょう。私達にはそれが出来るだけの力がある」

「それって驕ってるみたじゃないですか?」

 その鋭い突っ込みをする後輩くんの頭に結実は思いっきりチョップを喰らわせる。

「驕ってるんじゃない。想ってるんだ」

 にっこりと笑った顔が今現在を生きる結実にそっくりだった。

 後輩くんは納得していないような顔で「上手いこと言ったみたいにして……」と呆れている。

「大事に想われるにはまず、大事に想わなきゃ。私もこれは教えてもらったことなの。その人は私を想ってくれた。神社だってほらこんなに綺麗にしてくれてるでしょう」

「……分かりました。でもそろそろ本当にやばいですよ。ルール違反も程ほどにしてくださいね」

「うん。大丈夫。後輩くんのことも大事に想っているよ」

「何を言っているんだか……」

 結実は後輩くんの小言を聞かないように自分の耳を両手で塞いだ。

「あー分かった分かった。これからはちゃんと上の都合も気にしつつ、ルール違反も控えていくから。ね。もし後輩くんが怒られたら、神様の気まぐれですってことにしといて」

「いつもいつも気まぐれって言い訳してるじゃないですか……全くついていけない」

 言葉は呆れた雰囲気を出していたけれど、後輩くんは嬉しそうに笑っていた。きっと結実に大事に想われていることが嬉しかったのだろう。


 そこで目の前にいた二人が消えて、神様が「ね?」と私に声をかけてきた。

「あなたは僕の先輩で、神様だったでしょう? 目で見たものくらい信じてもらわなきゃ」

 確かにこの目で見たのは、若かりし頃の自分そのものだった。声や話し方までも、あの頃の私と何ら変わらない。

 そして、そんな私が後輩くんと呼んでいたのは今、隣にいる神様だった。

「じゃあどうして私は今、人間なのでしょうか?」

 仮に私が神様だったとしたら、何故私は今、結実という一人の人間なのだろうか。

 神様の話によれば、神様は人間と違って命という時間制限は無いように思えた。それならば私は今も神様であるはずだろう。

「それは、先輩が重大な違反をしたからですよ」

「重大な違反?」

 神様の表情は後輩くんの表情と声色と全く同じだった。

「あれほどルール違反は程ほどにと言ったのに……ああ、記憶のない今の結実さんには説明をしないといけませんね。ではまず、僕のお話からしましょう。ある年、僕は新人として神社に配属されることが決まりました」

 神様はゆっくりと私の周りを歩きながら説明し出した。

 新人として配属だなんて、まるで人間の会社みたいだ。

「しかしながら、どこの担当の神様も僕を受け入れてはくれませんでした。邪魔になるだとか、使い物にならないだとか……まあ当時の僕は無愛想極まりなかったですし、ここまで力もなかったですからね。それでも相当、落ち込みましたけど。そんな僕を快く受け入れてくれたのが」

 神様は私の目の前で足を止め、私に向かって手を差し伸べた。

「私?」

「そう。怒られてばかりいて、ルール違反を重ねるという噂を持ち、上からの評判がすこぶる悪かった先輩でした」

 昔の私はそんなにも評判が悪かったのか、と少しショックを受ける。

「一度も言ったことはなかった。というか、恥ずかしくて僕は言えなかったのですが、拾ってくれたことが本当は嬉しくて仕方がなかったんです。そんなこんなで僕は先輩と一緒に神社で人間の願いを叶えるために日々、動いていました。まあ、先輩のルール違反のおかげで僕が上から怒られることがほとんどでしたけど」

 さっきの様子と口ぶりから確かにそんな光景が目に浮かぶ。

「私はそんなに違反をしていたのね……」

「ええ。封筒に手紙以外の物を入れてお届けしたり、能力を使って幸せを分け与えたり。手紙だけだって言っているのに……違反した理由を聞くたびに、気まぐれって言っていました」

「そうだったのね」

 ふうっと神様は息を吐いて、「ここからが結実さんの知りたいことです」とにっこりと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ