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神様の気まぐれと都合  作者: 卯月晴
19/25

それは確かに愛でした(4)

 正義さんが亡くなった経緯を私は神様に一通り説明した。

「まだまだ治療薬もない感染症で分からないことが多いでしょう。人が死んでしまってもウィルスは死なないかもしれない。感染力が強いのかしらね。一度も対面出来なかったわ」

 重症肺炎に苦しんでいる間も、この世を去ってしまった後も、一度も正義さんに会わせてはもらえなかった。

 私だけではない。親族も友人も、誰も正義さんの最期を看取ることは出来ずに、あの人は一人で息を引き取った。

「大切な人が側にいないと寂しいものね。まだまだ一緒に居られると思ってたのに、こんなにも突然いなくなってしまうなんて……思いもしなかったわ」

「結実さん……」

 私が空を見上げるともう完全に太陽が姿を見せていて、眩しく輝いていた。

「太陽……正義さんはね、太陽みたいな人なの」

「太陽?」

 神様は首を傾げて太陽を見上げた。眩しそうに目を細めて、彼はもう一度「太陽……」と呟いた。

「ええ……ごめんなさいね。こんな話に付き合わせて。年寄りの私の話なんて……」

 ふ、と我に返って、ずっと話に付き合わせていたことに気づき、なんだか申し訳ない気持ちになってしまったが、神様は微笑んだ。

「聞かせてください。聞きたいんです。人間のあなたのお話。それに、人間の結実さんよりも僕はずっと長く生きているから、僕の方がお年寄りなんで」

 彼は優しく、それでいて可愛い笑顔で私を見た。

「じゃあ……聞いてもらおうかしら」

 私は誰かに話を聞いて欲しかったらしい。神様の優しさに簡単に甘えてしまうほどに。

「正義さんはね、ここで私にプロポーズしてくれたの」

 この神社で私たちは結婚を決めた。

 街の風景は変わっても、この二人で将来を誓った場所だけは変わらない景色だった。

「普通に出会って、普通に恋をした。その中で、特別に想えないと結婚なんて出来ないでしょう」

「そうなんですか。僕にはよく分からないけれど」

 神様は難しい顔をしながら言った。

「まあ、みんながそう思うわけではないかもしれないけれど、私はそう思ったの。だから、探してみた。正義さんの特別」

「ほう。ズバリ、それは?」

 私は少し間を置いて、もったいぶるように「それはね」と口を開く。そんな私の目を神様はじっくりと見つめる。

「笑顔だったのよ」

「笑顔、ですか」

「あの人が笑うと私も笑っちゃうの。面白いテレビや面白い話なんかも、その話自体に笑顔になるっていうよりは、正義さんが笑っているのを見て笑っちゃう。面白い顔で笑うからとかじゃないわよ」

 神様は「え、違うんですね」と冗談っぽく、大げさに驚いたような表情を見せた。

「正義さんの笑顔はね、温かいの。それでいて、優しく輝く。日向ぼっこをして心地よくなる感覚と一緒。それに気づいたとき、照れくさいけど、この人は私の太陽なんだって思ったの」

「素敵な人だったんですね。結実さんとお似合いだ」

「ふふ。ありがとう。私も素敵ってことかしら」

 神様はにっこり笑って「はい」と頷いた。

「結実さんは僕の尊敬する先輩によく似ている。その方もとっても素敵な人だった」

「神様にも先輩がいるのね。人間の世界みたいだわ」

 バサッと近くの木から音がして辺りを見回すと、鳥が一羽、空へ飛んで行ったのが見えた。

 その鳥は遠く、高く、どこかへ飛んでいく。

「……どうしていいか分からないわ……」

 鳥が飛び立ったのと同じくらい唐突に、私の目から涙が流れた。

「最期に……最期に一度でいいから、せめて顔が見たかった。声をかけてあげたかった。手を握ってあげたかった。送り出してあげたかった。でもどうしたって……時間は戻らないのよね」

 神様は黙って私の手を握りしめていた。その瞳に涙を浮かべながら。

「感染症って……恨む相手もいないしねえ……恨むとしたら、あの時旅行に行くことを止めきれなかった自分かしら……」

 ずっと誰かの前で泣きたかったのかもしれない。

 止まらない自分の涙に私はそう思った。

 一番大事な太陽を失ってしまったら、私の世界は光を失くして真っ暗になってしまう。

 あなたが照らしてくれなければ、私は笑えない。

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