それは確かに愛でした(1)
毎日、隣にいたあなたが突然いなくなった。
最期は二人で静かに過ごしたい。そう話していたのに。
あなたが笑えば、私も笑う。
私から見たあなたは太陽のような人。
あなたは私と生きて、幸せでしたか。
あなたは最期、何を思っていましたか。
晴れた空を見上げると、あのプロポーズの日を思い出して何度も嬉しくなる。でも今は少しだけ、切なさと悲しさを混ぜたような気持ちになってしまう。
私の一日の始まりは年齢が進行するにつれて早くなった。
朝、五時前には自然と目が覚める。それから冷たい水で顔を洗って、朝食を二人分作る。包丁で食材を切っているトントンという音、立ち上る湯気に添えられた香りで正義さんが起きてくる。
いつもならば。
「……二人分作ってしまった」
間違えて家にいない夫の朝食を作ってしまい、今日の昼食は朝食と同じメニューになってしまうなと一人ため息をつく。
朝食を終えると、家事に手をつける。洗濯に、掃除。時間はあっという間に過ぎてしまう。
特にお腹が空いているわけでもないけれど、十二時になったら食事を取る。満腹にならない程度が今は丁度いい。
食器を片付けて、少しぼんやりとする。庭を見渡しながら、また一つ、ため息をつく。
そして私は毎日、マスクをして散歩に出かける。家から少し歩いたところにある神社に行き、毎日お参りをする。
「どうか。どうか正義さんが無事に家に帰ってきますように」
神様にそう託して、一通り神社の周りに落ちている枯れ葉を竹箒で掃いて掃除する。
この作業は正義さんがいるときから、何年もずっと行っている。
今はお願い事が違うけれど。
掃除を終え、もう一度手を合わせてお辞儀をしてから神社を後にすると、ここ最近神社に出入りしている女の子とすれ違い「こんにちは」と挨拶をする。前には二人で歩いていたのを見たことがあるけれど、しばらくあの子は一人で歩いている。あの女の子はどんなことを神様にお話ししに来ているのだろう。
家に帰ると、また夕食の準備をする。今度は一人分を用意した。
「食材がなかなか減らないわね。まだ買い物には行かなくて良さそう」
冷蔵庫の中身を確認するとまだ食材が入っていて、一人分少ないだけでこんなにも違うのかと痛感させられる。
正義さんはどうしているだろうか。
そう考えながら食事の席に戻って箸を持つと、電話が鳴った。
急いで受話器を取ると、病院からの連絡だった。
「はい。そうです……え? はい。はい……分かりました」
受話器を一度、元の位置に戻し、すぐに娘たちに連絡をしようと思った。けれど、なかなか指が動かない。
『秋川正義さんがお亡くなりになりました』
その言葉と正義さんが帰って来ない現実に、涙がこぼれてしまった。
ついにあの人は独りで逝ってしまった。せめて側にいたかった。
「正義さん。まだあなた六十六歳じゃない……ちょっと早すぎるわ」
新しい年が始まってからまだ一か月と少し。寒さは増して、夜はかなり冷え込む。
何より、あなたが隣にいなくなってから、ひどく寒い気がしてならない。




