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神様の気まぐれと都合  作者: 卯月晴
16/25

それは確かに愛でした(1)

 毎日、隣にいたあなたが突然いなくなった。

 最期は二人で静かに過ごしたい。そう話していたのに。

 あなたが笑えば、私も笑う。

 私から見たあなたは太陽のような人。

 あなたは私と生きて、幸せでしたか。

 あなたは最期、何を思っていましたか。


 晴れた空を見上げると、あのプロポーズの日を思い出して何度も嬉しくなる。でも今は少しだけ、切なさと悲しさを混ぜたような気持ちになってしまう。

 私の一日の始まりは年齢が進行するにつれて早くなった。

 朝、五時前には自然と目が覚める。それから冷たい水で顔を洗って、朝食を二人分作る。包丁で食材を切っているトントンという音、立ち上る湯気に添えられた香りで正義さんが起きてくる。

 いつもならば。

「……二人分作ってしまった」

 間違えて家にいない夫の朝食を作ってしまい、今日の昼食は朝食と同じメニューになってしまうなと一人ため息をつく。

 朝食を終えると、家事に手をつける。洗濯に、掃除。時間はあっという間に過ぎてしまう。

 特にお腹が空いているわけでもないけれど、十二時になったら食事を取る。満腹にならない程度が今は丁度いい。

 食器を片付けて、少しぼんやりとする。庭を見渡しながら、また一つ、ため息をつく。

 そして私は毎日、マスクをして散歩に出かける。家から少し歩いたところにある神社に行き、毎日お参りをする。

「どうか。どうか正義さんが無事に家に帰ってきますように」

 神様にそう託して、一通り神社の周りに落ちている枯れ葉を竹箒で掃いて掃除する。

 この作業は正義さんがいるときから、何年もずっと行っている。

 今はお願い事が違うけれど。

 掃除を終え、もう一度手を合わせてお辞儀をしてから神社を後にすると、ここ最近神社に出入りしている女の子とすれ違い「こんにちは」と挨拶をする。前には二人で歩いていたのを見たことがあるけれど、しばらくあの子は一人で歩いている。あの女の子はどんなことを神様にお話ししに来ているのだろう。

 家に帰ると、また夕食の準備をする。今度は一人分を用意した。

「食材がなかなか減らないわね。まだ買い物には行かなくて良さそう」

 冷蔵庫の中身を確認するとまだ食材が入っていて、一人分少ないだけでこんなにも違うのかと痛感させられる。

 正義さんはどうしているだろうか。

 そう考えながら食事の席に戻って箸を持つと、電話が鳴った。

 急いで受話器を取ると、病院からの連絡だった。

「はい。そうです……え? はい。はい……分かりました」

 受話器を一度、元の位置に戻し、すぐに娘たちに連絡をしようと思った。けれど、なかなか指が動かない。

『秋川正義さんがお亡くなりになりました』

 その言葉と正義さんが帰って来ない現実に、涙がこぼれてしまった。

 ついにあの人は独りで逝ってしまった。せめて側にいたかった。

「正義さん。まだあなた六十六歳じゃない……ちょっと早すぎるわ」

 新しい年が始まってからまだ一か月と少し。寒さは増して、夜はかなり冷え込む。

 何より、あなたが隣にいなくなってから、ひどく寒い気がしてならない。

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