とある夏の一幕編 夏だ!
皆さまお久しぶりです!
こちら、くろひこうきが久しぶりに書いた短編を揺井さんに添削してもらうという普段とは違うスタイルでお届けする夏短編となっております!
白くんを取り巻くちょっと困った夏の一幕、ぜひお楽しみください!
※こちら、時系列的には想術師連続殺人事件編の前となっております。
ややこしくて申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
――――じりじりと照り付ける日差し。入道雲。
そして――――キラキラと光る青い海!
『夏だーーーーー!!』
大きな笑い声と共に、青春が海に飛び込んだ。
白い飛沫を立てながら波を蹴り、手ですくった水を掛け合う彩と理子。それを見つめるメガネがキラリと光る。
「いやぁ、絵になりますね」
背中にタンクを背負い、巨大な水鉄砲を担いだ明智圭が二人に歩み寄る。
圧縮ポンプで水を圧縮し、勢いよく噴射する。楽し気に悲鳴を上げた彩と理子は、水に塗れた顔を手で拭い、圭に攻撃対象を移す。
「バッカみたい……」
――――なんともまあ、暑い光景だ。
銀滝白は、目を細めて遠くの三人を見据える。
じりじりと照り付ける夏の日差しに目がくらむ。体がとろけそうなほど暑い。動きたくない。白は大きなパラソルの下へ座椅子を広げ、死んだように寝転がっていた。
「ほらよ。せっかくの海なんだから元気出せって! かき氷ブルーハワイ味大盛りな」
白の顔の傍に、冷たい気配が舞い降りる。山のように盛られたふわふわのかき氷から冷気が出ている。白はゴクリと唾を飲み込み、先がスプーンになったストローでかき氷を頬張る。
美味しい。だが、キーンと頭が痛い。
「――――っっ!!」
「一気に食いすぎだって」
白の目に光が戻ったのを見た店員――――│功刀風牙が呆れたように笑う。
こめかみを押さえて悶絶する白の声を聞いた三人が、パラソルの傍まで戻ってくる。
「あー! 白くんだけ抜け駆けずるい!」
「私も食べたいな~!」
「おう! お前らの分も作ったから食べろ食べろ」
白い手ぬぐいを頭に巻き、紺色のエプロンをした風牙は、それぞれ味の違うかき氷を三人に手渡した。
どこからどう見ても屋台の店員だ。それが違和感となって白の目にありありと映る。
違和感。そうだ――――なんで、こうなったんだっけ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数日前のことである。
連日35℃を超える猛暑日が続く東京都内。夏休みという名の怠惰な生活を送っていた白は、クーラーの効いた事務所に入り浸っていた。
ここ一週間ほどは仕事もなく、夏休みの宿題もゲーム感覚で早々に終わらせてしまった。そのせいで生活リズムが乱れ、少々夏バテ気味だ。
「やあ」
ソファに寝転がった白を覗き込んだのは、水戸角アイサだった。
「お早う、銀滝隊員。今日も最高に怠惰な夏休みを送っているね。平常運転じゃないか、羨ましいよ」
「……それ、日本語間違ってない?」
「これまで私が間違ったことがあったかな? 休みというのは自堕落かつ無為に過ごすべきだと、私は本気で思っているのだよ。にしても暑そうじゃ無いか、得意の想術でどうにかしないのかい?」
「……想術で冷やしても良いんだけど、疲れるんだよね」
いつもなら多少なりともツッコミを入れる白だが、今日はソファで溶けたまま一切動かなかった。そんな様子に、アイサは冷ややかな視線を送る。
「これは重症だな」
「何が?」
「いいや? 優貴が懸念していた通りになった」
「だから、何が」
アイサはポケットから一枚の紙きれを取り出し、白の眼前でひらひらと動かす。
「ほ~ら、見たまえ」
「……あ、それ」
掴もうとした白の手をサッと躱し、アイサは白から距離を取る。
「少しはやる気が出たかね? 今日はこれを渡す為に、せっかくの休日を押してわざわざ来てあげたんだ。ありがたく思いたまえよ」
アイサは恩着せがましく言いながら、指に挟んだチケットを揺らす。白の目に光が宿る。
(チケットってことは、もしかして)
『レトロゲームフェスinスーパーサマー』。
一年に一回だけ行われる、日本最大級のレトロゲームイベントだ。博覧会兼競技会のようなイベントで、過去に廃盤となった筐体が勢ぞろいし、実際にプレイもできるという、ゲーム好きにはたまらない祭りである。今年は、白の大好きなゲームが勢ぞろいするとあって、馬崎にお願いして連れて行ってもらう予定にしていたのだ。
「ユーキが渡しといてって言ったの?」
「そうだよ。ただし、条件がある」
白は顔をしかめる。これは嫌な予感がする。この妖怪が条件なんていうものを提示するときは、決まってろくなことがない。
「嫌だ。おれはやんない」
白はアイサから条件を聞く前に耳にヘッドホンをかけ、再びソファに寝ころんだ。
「おや、流石は銀滝隊員。察しが良いじゃないか。だが駄目だ、君に拒否権は無いよ。これは仕事でもある」
「仕事?」
「そう。夏休みを利用して、君が大きくなるための重要な仕事だ」
「大きくなるとか余計なお世話だっての」
アイサはチケットと資料を一緒にして白に渡す。
それはレトロゲームフェスのチケット――――ではなく、リゾート宿泊券だった。
「正式な任務だからね。必要な人、モノ、機材、すべて私が準備しておいた。感謝したまえよ、銀滝隊員」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
必要な人――――デートに行ったカップルを除いた、田共高校の同級生三人。
鹿島彩、住吉理子、そして――――誰だっけ?
「明智圭だよ! 一緒にボラ部の部室に行っただろう?」
「そうだっけ?」
「……頭が暑さに当てられてるんじゃないかな、白くん」
必要なモノ――――水着に浮き輪にビーチパラソルに、その他もろもろのイベント用品。
「つまり、これってさ」
そう。青春の権化、夏の海を満喫することである!
ここは人っ子一人いないシーザイドリゾート、桶螺海岸海水浴場。
東京から所要時間三時間半。ここまでの交通費や宿泊費はアイサが用意していてすべてタダだ。
そして四人が寝泊まりするのは、コテージのような外観の海の家だ。〈オッケー〉という屋号が書かれたボロボロの看板は、ねじが外れかけているのか少しずれている。本日は貸し切りということで、客は田共高校一行しかおらず、料理や宿泊をすべて独り占めであった。
「よいしょっと」
ビニール袋を両手に抱えた少女が、海の家に戻って来た。
「おー、ありがとな咲夜」
「オーナーさんが色々と買ってきてくださって助かったわ。はいこれ、夜のバーベキュー用のお肉ね」
「めっちゃいい肉じゃねーか! 楽しみだな」
白はポカンと口を開けたまま、居酒屋店員のような恰好の二人組を見つめる。
功刀風牙と浄霊院咲夜。先日のくねくね事件で共闘した想術師なのだが――――。
「なんでいんの?」
「だーかーら、さっきも説明したろ? 夏期限定のバイトだって」
「なに、無職なのあんたたち」
「ちげーわ。フクギョーだフクギョー」
白いタオルを頭に巻き、変なキャラクターが書かれたTシャツ、紺のエプロン。そのファッションがやけに様になっている風牙を見て、白は確信する。
(なんかよく知らないけど、大変なんだな)
かき氷を食べ終わり、三人が再び海へ向かう中、白だけパラソルの下でうずくまっている。
「あのな、俺らのことはいいから、遊んで来いよな」
「別に、あんたたちのこと考えて泳がないわけじゃない」
「せっかく来たんだから行けって」
風牙は白の頭の上からすぽんと浮き輪をかぶせると、体を軽々と持ち上げる。
「うわっ!! おい、やめろって!!!」
「そーらいけ!!」
投げられた白の体は、三人の頭上を越えて海に落ちる。
しばらくして浮き輪ごと浮上してきた白の頭には、ワカメが乗っていた。
「し、白くん……テンプレ」
「頭にワカメが乗ってる!!」
三人に大笑いされた白は、不貞腐れたまま、茹蛸のように顔が赤らんだ。
わかめ白くんかわいい(●´ω`●)