逃げる。
「李玖君の駄目なところは自信が無い事!でも、それ以外は本当に凄いんだから、自信持って!」
「水無瀬は、俺の昔の姿を知ってる?」
「金髪の……かな?知ってるよ……勿論。だって、その頃から李玖君は超有名だったんだから!」
「俺が、有名……?」
俺は以前にも聞いたことがある言葉を耳にする。俺が有名なのは悪名高い事でだろうな……他に考えつかない。
「そう、有名だったんだ。李玖君はね、見た目凄い不良だったのに、困った人を放っておけなくて、歩道橋で困っている大荷物を抱えたお婆さんを助けたり、男達に絡まれている女子生徒を助けたり、川で溺れている子供を助けたり……。 本人は当たり前だって顔をしてたけど、皆は違ってた。凄すぎて真似なんて出来ないよ……。」
水無瀬が話した出来事は、俺が中三の時にしていた事だ。何で水無瀬がその事を知っているのか分からないけど。
「だから私、高校生になって李玖君と同じ学校に入れて嬉しかった。李玖君は目立たない様に地味な格好を自ら進んでしてたけど、私の心が変わる事は無かったよ。だって、外見は変わっても、優しい内面は変わってなかったから。だから、好きになったんだ。」
俺は水無瀬がこんなにも見てくれていた事が、そして評価してくれた事がとても嬉しかった。
そして、俺はついに決断する事にしたのだ。
「数日間、俺はこの環境下から……逃げる! 水無瀬、一緒に来てくれるか?」
「勿論です!一緒に逃げましょう!」
水無瀬も発案者だけあり、ノリノリで返事をしてくれた。
俺も水無瀬も学業成績はトップクラスなので、殆ど勉強の必要も無かったのだが、俺は会社の規模をでかくする為に逃亡中も経営学の勉強だけはする事にした。
そんな時、俺は以前水無瀬が話していた言葉を思い出していた。
『何って……李玖君は、優しくて、几帳面で……。』
『一年生で初めて会った時、私はあがり症でうまく自己紹介出来なかった。でも、李玖君はそんな私の自己紹介をしっかり聞いてくれて、拍手してくれた。だから……。』
雪菜から、俺の何を知っているのか聞かれた時のこの言葉は、彼女なりの思いやりから出た言葉だったのかも知れない。
『私、人を好きになった事、今までで一度しかないんです。小さな頃に仲良くなった男の子。それ以来、ずっといなかった。 でもね、高校に入ってから、ずっと李玖君の事が好きだったんです。 でも、中々言い出せなくて……つい、偽の恋人なんてコトを理由にして、彼氏にしちゃってました。』
雪菜とキスした時の、この言葉は本心だったのかも……等と都合良く頭の中で並べながら。
やはり、隅々まで見てくれていたのは、水無瀬なんだと気付いた。




