夢ならば覚めて。
「俺と付き合うって……何考えてんの!?俺なんかと付き合ったら、二人の評判ダダ下がりだよ!絶対にだめ!」
それからも二人はしつこく交際を迫ってきたが、俺はヒラリヒラリとかわしてのけた。
それから暫くして、滞り無く授業は進んでいったが、明智が帰ってきたのは次の授業も終わろうかという時だった。明智は教室に入って来るなり、数学の先生には目もくれず、そのまま水無瀬の席の前まで来ると、深く頭を下げて来た。
「水無瀬さん、さっきはすみませんでした!」
明智は水無瀬に対して頭を深々と下げて謝罪してくるが、水無瀬はどうやら無視しているようだ。
「水無瀬……さん?」
「私にもう話しかけて来ないでいただけますか?それに本来、謝る人物は私では無いはずですが?」
当事者でない人物でも、聞いているだけで心臓がえぐられる様な辛辣な言葉を吐き出す水無瀬。
「チッ!」
見苦しい舌打ちをして、明智はそのまま席に着く。今朝の出来事を知っている生徒からしたらヒヤヒヤもんだが、事情を知らない俺の友達で、前の席に座っている「水野徹」が、声を掛けてくる。
「おい、何か面白そうな事になってんじゃんかよ!」
振り向いて俺に声をかけてきた徹は、ニヤニヤしながら俺に経緯を尋ねてくる。
「これってさ、俺達が勉強していた時に、お前と水無瀬と高崎が、生徒指導室に呼ばれていたのと何か関係があるのか?」
さすが徹は鋭いな……。徹は昔から情報通で、噂話なんかも好きだった。小さな頃からの知り合いだが、情報収集癖は治っていないようだな。とまで考えて、俺はようやく思い出した。知ろうとすればするほど、コイツは様々な生徒に根掘り葉掘り聞き回る奴だった事を!
「いや、やっぱり何でもない。気にするな。」
俺はそれでもしつこく絡んでくる徹を無視し、ひたすら板書に徹した。あまり深い事を口走れば余計な誤解を見さらにその誤解が誤解を生む。
ーーーー。
授業も終わり昼休みがやってきた。いつも通り、俺はぼっち飯を堪能する事にした。徹とは一緒に食べるとペチャクチャうるさいから、俺だけで食べているのだ。
基本的にはご飯は静かに食べたい俺は、教室を抜け出して屋上で弁当を広げていた。
「やっぱり一人飯が落ち着くな……。」
鳥がさえずり、木々が風に吹かれてサワサワと音を立てる。セミの鳴き声が遠くから聞こえてくる。
「李玖君も、そう思いますか!?私もこの静かな自然の匂いが好きです。」
不意に後ろから声を掛けられて、俺が振り向くと、そこには弁当箱を手にした水無瀬の姿があった。
「水無瀬か……。いいのか?いつもみたいにクラスの奴らと一緒に飯食ってただろ? 俺なんかと一緒にいたらハブられるぞ?」
水無瀬は俺を追いかけてきたのだろうか。いつもなら、教室でクラスの奴等と一緒に昼飯を食べている筈なのに。
「いいですよ、別に。ハブられても。私も李玖君と同じ、本当はこの場所でお昼ごはん食べたかった。でも、皆で勝手に私の理想像を創り上げちゃって……何か疲れちゃったんです。」
そうか、学校一の美少女も一人の女子高校生。誰かの理想で居なきゃならない、窮屈な生活に耐えられなくなったって事か。
「なら、ここにいればいい。別に俺の敷地でも無いしな。」
水無瀬の気持ちも分からなくはない。逆によく三年間も耐えたな、と関心すらしてしまう程だ。 俺は、水無瀬を俺の座っているベンチの隣へと座らせた。
「なぁ、水無瀬。昼飯時に聞きたくはないんだけど、明智の奴、大人しく引き下がると思うか?」
本当なら昼飯時にこんな話を持ち出したくはないが、他に聞けるときがないんだよなぁ。
「どうなのでしょう……。でも、三年間同じクラスだったけど……諦めが悪いのは事実ですね。」
そう言うと、水無瀬は箸を止め、弁当箱をベンチに置いた。
「ん。」
水無瀬はスマホを俺の前に差し出してくる。
「な、何?」
「交換です、LIMEの交換とか……。」
恥ずかしそうにスマホを差し出してくる水無瀬。状況が状況なだけに、勘違いしてしまいそうだが、恐らくこれは明智や先生に対する情報を交換する為だろう。
「わかった。」
俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、連絡先の交換をしようとしたところで
「ちょっと待ったぁ!」
屋上への昇降口から勢い良く飛び出してくる雪菜。ズンズンとがに股で歩いてくるその形相はまさに鬼だった。
「李玖との連絡先交換は、私がする!」




