挑発。
「最早、貴女と兄さんが付き合っていない事は周知の事実。それに貴女が兄さんに『好き』だと言い寄っているのも知っています。そこで私から提案があります。」
「な、なんですか……?」
「今回は水無瀬さんが水族館デートをしましたよね。では、次回は私が兄さんとデートをします。水無瀬さんは兄さんと付き合っていませんから、これは私としては正当な権利です。」
花凛は腕を組み、フフン!と自慢げに話すが、正当な権利て。
「な、何で……そんな事を!?」
「水無瀬さん、もしかして怖いんですか?私に兄さんを取られるのが……。」
な、何だこの状況は……何かものすごく良くない方向に進んでいる気がする……。
花凛は水無瀬を完全に挑発している。水無瀬がこの話に乗ってくると踏んでいるんだ。
「わ、私は負けません!その話に乗ります!」
水無瀬はまんまと花凛の口車に乗せられたという訳か……。しかし、水無瀬がそんなに負けず嫌いだったとは……。
最終的には、俺と水無瀬で水族館デートを続け、花凛はそのまま帰宅して行ったのだが、やはりさっきの挑発に乗ってしまったのを後悔しているのか、水無瀬はその後浮かない顔をしていた。
水族館を後にした帰り道、俺と水無瀬はお土産を持ちながら、帰り道をゆっくり歩いていた。
「水無瀬、俺から花凛に話しておくよ。さっきの話を無しにしてくれって。こんなの、やっぱりおかしい。」
俺の言葉に、水無瀬はゆっくりと首を横に振ると、ポツポツと話し始めた。
「私、花凛ちゃんの事、ちょっと羨ましいなって感じちゃってて……。あんなに真っ直ぐで、キラキラした瞳を李玖君に向けられて、凄く自分を持ってるんだなって思いました。」
「花凛ちゃんの挑発には、勿論気付いてました。だけど、引き下がれないです。私、逃げたくないですから。」
水無瀬は真っ直ぐ俺の顔を見つめ、強い口調でそう言い放つ。
「花凛ちゃんのさっきの話。私と交代でデートをするって話……なんですけど、李玖君は嫌じゃないですか?嫌でなければ、私は受けて立つつもりです。」
「俺は……水無瀬が嫌じゃなければ大丈夫なんだけど……。」
「私は大丈夫です!」
水無瀬はフンッ!と気合を入れた顔をする。最近になって、色々な表情を見せてくれるようになったな……。
ーーーーそんな事を考えていた、まさにその時だった。
「李玖、水無瀬さん。少し話してない期間があったとはいえ、面白そうな事してんね〜。私もその中に入れてよ〜。嫌とは言わせないから。」
俺達の話を盗み聞きしていたのか、路地裏からスッと姿を現してそう言って来たのは、何と雪菜だったのだ。




