噛み付く。
「まだ水無瀬さんもいたんですね、そろそろ兄さんを返してくださいますか?」
俺を見つけた花凛は笑顔で走ってくるが、それも束の間……水無瀬を見つけるなり、彼女を物凄い形相で睨みつけてくる。
「私はあの後、必死で兄さんを探しに探し回り、やっとの想いで巡り会えたのです!貴女の様な、ぽっと出横槍泥棒猫に兄さんは相応しくありません!」
「ちょっと待って下さい。今は私と李玖君、デート中なんです。邪魔しないで頂けますか? いくら『義理』の姉妹とはいえ、デートまで邪魔する権限は無いはずです。 それに、泥棒猫ではありませんが!? 寧ろ泥棒猫はそちらかと思いますが?」
キッ!と睨み返す水無瀬は明らかに憎悪の塊を言葉に込めたかの様に鋭く言い放つ。
正直、ここまで怒りをあらわにした水無瀬は初めて見たかもしれない。まさか、コレが『氷のいばら姫』たる所以か?
「………学校一の美少女だか何だか知りませんが、兄さんの近くにいる方がそんな野蛮で粗暴な物言いをしてくる方だと、兄さんに悪影響です。 即刻兄さんを私にお返し下さい!」
どの口が言う、どの口が!花凛も十分に悪影響な言葉を発していたと思うが。
仕方無いが、ここは他のお客にも迷惑になるし、外に出るか。
ーーーーーー。
「さて、ここなら他に人も居ない。花凛、この際だからハッキリ言おう。俺は水無瀬と水族館デートに来たんだ。邪魔をしないでくれないか。」
俺にしてはハッキリと花凛に伝えられたとは思う。だが、返ってきた言葉は俺の予想を一回りも二回りも上回っていた。
「兄さん、水無瀬さんに惑わされているんですね!そうでなければ騙されて上手く丸め込まれているか! 兄さんが私にその様な痛烈な言葉を掛けてくる事はありませんでしたから!」
「李玖君、妹さんから絶大な信頼を寄せていらっしゃるんですね……。」
水無瀬のジト目に俺は返す言葉が見当たらなかったが、あくまでそれは妹として見ていたからで……。
「なぁ、花凛。俺は水無瀬と二人で水族館に来ているんだ。花凛だって、二人でデートしている時に、誰かに邪魔されたりしたら嫌じゃないのか?」
「そ、それは…………そうだけど。」
花凛はそう言って俯いてしまった。しかし、ここはハッキリしなければ花凛の為にならないし、何より水無瀬に失礼だ。
「わ、わかりました!で、でも!今度は兄さんとデートするのは私です!」
妹は何も分かっちゃいなかった。




