思い違い。
「李玖君、イケメンですからモテますよ?」
思ってもみなかった水無瀬の言葉に、俺は目が点になってしまう。そういえば、さっきの奴等もそんな事を言ってたな……。
ーーーー俺が、イケメン……? はは、ご冗談を……。
「多分、李玖君は前髪が目にかかっちゃったり、ボサボサだから周りには気付く人も少ないんだけど、さっきの人達……みたいに、気付く人は気付くんだよね……。」
水無瀬は俺に近付いてくると、そっと俺の前髪をさらっとかき上げてくる。
「ほら、こんなにカッコい…………って、ごめんなさい、いきなり! そ、それよりも……さっきは勝手に先走ってすみませんでした!」
水無瀬はババッと手を振ると、勢い良く頭を下げてくる。
どういう事だ……俺がイケメン?クラスの奴等からは散々俺は陰キャブサメンオタクヒョロガリボッチ野郎(長いな……)って言われ続けて来てたんだぞ!
ーーーー前髪をちょっと上げたくらいで、変わるか……?
などと考えていた俺だったが、返事が一向に返って来ない事に不安を感じたのか、水無瀬が覗き込んでくる。
「あ、あの……やっぱり不快、でしたか……?」
「あ、いや?触られた事?全然、何とも!?」
い、いかん!完全にさっきの言葉を意識してしまっている!だからといって、いきなり前髪を上げだしたら『うわ、マジでやってるよ。』とか、軽蔑されるかも………!
ーーーー俺は上擦った声を誤魔化すように軽く咳払いして
「ほ、ほら!まだ見たいものあるんじゃないか……!?い、行こう!」
無理矢理過ぎるエスコートを始めるのだった。
どれ位、水族館の中を見て回っただろうか。普段なら魚が好きな俺としては『嬉しい!』とか『楽しい!』等の感情で心が満たされるハズだった。
だけど、今は少しも目から水族館の情報が取り込まれて来ない。
ーーーー俺は、陰キャブサメンオタク(以下略)だったんじゃないのか!?
としたら、俺と一緒にいてくれる水無瀬は本当に俺の事が『好き』なのか!?お世辞でも何でもなく、本心から……。
ーーーーだとしたら、まさか雪菜も……花凛も、か?
「どうしましたか?疲れましたか?」
さっきから悩みっ放しの俺の顔を見るに見かねたのか、水無瀬が声を掛けてくる。
俺は意を決し、改めて水無瀬に自分の事をどう思っているのか、どう感じているのかを詳しく聞いてみようとした。
「あ、あのさ、水無瀬…………。」
「な、何?り、李玖君…………。」
俺達は互いに見つめ合った。普段ならこんなクソ恥ずかしい事、絶対に聞けないけど、今はキッカケになった話題もある。
ーーーー言え、俺!
「水無瀬、俺の事を………!」
「兄さーーーーん!やっと見つけましたよ!」
俺の言葉は、花凛の登場により呆気なく掻き消されるのだった。




