豪邸。
俺と花凛、水無瀬の三人は案内も兼ねて、久しぶりに豪邸内を探索する。この豪邸はとてつもなく広く、そして入り組んでいる。
豪華絢爛な装飾品が廊下に並び、壁には何処かで見た事のある絵画、そして大理石の床、バカでかい庭にきらびやかな噴水。 中庭には白い丸テーブルとチェア。色とりどりの花々が咲き乱れている。
あの花壇の花は、母親が生前育てていた花々だ。使用人の方々が長い間手入れをしてくれている。
母親は一時期、心労と過労からか病気になり、病院生活を送っていたが、父親が見舞いに来た事は無かった様に思う。
退院してからしばらくしたある日、母親は父親の誕生日プレゼントを買いにショッピングモールに出掛け、発作を起こし、そのまま帰らぬ人となった。 それから暫くの間、父親は仕事も手につかず、酒に溺れ、自堕落な生活になっていた。それでも俺達は必死で生きようとした。
父親が仕事に復帰するまでに、相当の月日を要した。今思えば、父親の苦しみや悲しみは推し量れないものだとは思う。
ーーーーそれでも、俺達は許せなかった。家庭を顧みず、自分の妻の見舞いにもろくに来ず、仕事しかしない傲慢で厳格な父親。悔やんでも悔やみきれないのに……どうしようもない奴だ。
そして俺達は突然、父親に追い出され、今の一軒家に住んでいる。
廊下を歩きながら、俺はいつの間にか水無瀬に全てを打ち明けていた。花凛には止められたが、それでも俺は話し続けた。少しでもこの気持ちを吐き出したかったのかも知れない。
水無瀬は俺の話を黙って聞いていたが、次第に俯き、最後には床にへたり込み、号泣してしまっていた。
「水無瀬、母さんに会って行ってくれないか?」
「え?で、でも……お母様はお亡くなりになられたって……。」
「うん。だから、会ってみてくれないか?嫌で……なければ……。」
俺は、一体何を言ってるんだ……と内心呆れながらも、口や体は別行動を取る。
「は、はい……私で宜しければ……。」
これは世間一般的に考えたら、結婚前に亡くなった母親に挨拶的なアレなのでは!?
今更ながらに、自分のしている事がどれだけぶっ飛んでいるのか自覚した。
いくら何でも順序が色々とおかしい!そもそも、彼女でもない人をいきなり実家に呼んで、亡くなった母親に会わせるとか……どんだけ重くてぶっ飛んでいるんだ!!
アホか、アホなのか俺は!! 仕方無い、ここは陰キャならではのポーカーフェイス、そして平常心で対応すれば、何事も無く終わる。
「こ、ここが母親の部屋ですねん……。」
ほ、ほわあぁぁぁぁぁい! 何、ですねんって、何!?
さっきまでのシリアス感台無しだよ!!
「ふふっ、李玖君のおかげですっかり緊張がほぐれました!リラックスしてお母様にお会い出来ます!」
そっか、水無瀬も俺の母親に会うの、緊張してたんだな。なんか、嬉しいな……。
生きている時に会わせたかったよ……母さん。
「失礼致します。」
水無瀬はそっと襖を開けるとゆっくりと膝を付き、深々と礼をしてから室内に入っていった。
「こちらの遺影写真がお母様ですか?」
「そうなんだ。四十九日後にお焚き上げをしようとしていた父親を三人で制止して、今でもここに飾ってあるんだ。」
「そうなんですね……。あ、あの、李玖君、花凛さん……失礼なのは承知の上で、少しだけお母様と二人にして頂けますか?」
水無瀬は何かを決意したかの様な表情で、ゆっくりとこちらを見つめてくる。
「わ、わかった……。じゃあ、外で待ってるね。」
俺と花凛はなんとも不思議な気分でお互いの顔を見合わせるのだった。




