実家。
「李玖様、お帰りなさいませ。」
数人の使用人が入り口で俺と水無瀬を出迎える。俺は未だにこれが慣れない。
「す、凄いですね……。本当に大財閥の御曹司なんですね……。」
あれ?若干……引いてる? まぁ、仕方無いか。昔からこういう形式じみた家を見ると皆離れて行ったもんな……。 親父の趣味で娯楽といえば、囲碁か将棋だったし、目に悪いからとゲームも買ってもらえなかった。
ーーーーだから、段々友達と疎遠になっていったんだよな……。
俺は水無瀬を連れて、そのままとある一室へと向かう。長い廊下をひたすら歩き、だだっ広い中庭を時折見渡しながら……。
「ここだよ、どうぞ。」
襖を開けると、そこには12畳程の小さめの部屋がある。
「ここは……………?」
「昔、俺が住んでいた部屋だ。見ての通り、もぬけの殻。ガランとしていて何も無い。」
そう、かつてはこの部屋に俺が住んでいた。ガランとして何も無い部屋だが、俺にはこの部屋は、あの時から時間が止まったままの様に思えた。
「ここに住んでらしたんですね。では、今住んでいるあのお家は?」
「あれは親父が買い与えてくれた物なんだ。姉と妹が父親と離れて暮らしたいと言って聞かなくて……。で、甘い父親はあの家を購入し、姉妹に渡した。で、俺も姉妹に連れられてあの家に住む事になったんだ。」
「父親は昔から頑固で、こうと言ったら聞かない人だった。母親は必死で父親を支えたが、過労がたたり、入院を余儀なくされた。 それでも父親は母親の見舞いに姿を見せる事無く……。」
そう、あんな父親のせいで、母さんは死んだんだ。この家に顔を見せる度にあの頃を思い出す。
「李玖君…………。」
「母親が亡くなってからも、俺達には養育費として充分に生活費が振り込まれていたから、困る事は無かったよ。 でも、今でも思い出すんだ、あの時の母さんの痩せ細った顔を。だから、猛勉強して会社を設立したんだ。俺達だけで頑張るって。」
「李玖君は凄いね……。私も頑張らなくっちゃ!」
「水無瀬、敬語、敬語が無くなってる!」
「本当だ…………。自然に話せる!話せるよ、李玖君!!」
そう、水無瀬は昔から敬語ばかりでクラスメイトの女子達からよそよそしいと敬遠されていたらしいのだ。
男子からはお嬢様だともてはやされ、それでもって、学校一の美少女なんだから、クラスメイトの女子達は面白いはずもなく、それを気にして余計に敬語しか話せなくなっていたらしい。
「俺は、どこか水無瀬と自分を重ねていたのかもな……。境遇がどこか似てて、それで俺はこの家を、水無瀬に見せたのかもしれない。」
「そっか………ありがとう、李玖君……。話しにくい事なのに……話してくれて。」
「いいんだよ!でも、俺が城ヶ崎コンツェルンの御曹司ってのは、内緒な!」
俺が口に手を当て、シーッとやると、水無瀬は『ふふっ!』と笑みを浮かべた。
ーーーーそんな時だった。何やら、廊下の方が騒がしくなってくる。
「お嬢様、今は李玖様は………!」
段々とその声は大きくなってくる。使用人の慌てたような声も聞こえてくる。
ーーーー何なんだ、一体……。
すると、スパーンッ!と襖が勢い良く開け放たれた。そこに現れた人物、それは……。
「兄さん、探しましたよ!全然、家にも帰ってこないし、やっぱりここにいたんです……ね……って、何であなたがここに居るんですか、水無瀬さん!!」
俺の目の前に現れたのは、妹の花凛だった。どうやら、ずっと俺の事を探していたらしい。
「この部屋は、貴女が入っていいような場所では無いんです、水無瀬さん!!」
この日の花凛は、いつもと違い、怒りに満ちた鋭い眼光で水無瀬を睨みつけていた。




