亀裂。
「いや、もういいんじゃない?本来の目的はもう達成されてるんだし。 ねぇ、『偽恋人』の水無瀬さん!?」
「お、おい!雪菜、今ここで言う事じゃないだろ!?」
「いいから、李玖は黙ってて。水無瀬さん、貴方……李玖の何を知ってるの?答えてよ。」
いつもの雪菜らしくなく、真剣な面持ちで水無瀬に歩み寄っていく。
「何って……李玖君は、優しくて、几帳面で……。」
水無瀬は下を向いたまま、ポツリポツリと話し始めた。
「一年生で初めて会った時、私はあがり症でうまく自己紹介出来なかった。でも、李玖君はそんな私の自己紹介をしっかり聞いてくれて、拍手してくれた。だから……。」
「そう……。私は以前、学校の帰り道に不良達に襲われそうになっていたところを助けてもらった事がある。その時が李玖と初めて会った時。 でも、それから私は気が付いたらずっと李玖の事を目で追ってた。」
俯く水無瀬のすぐ横で、雪菜はさらに続けて話す。
「ある日、李玖は友達と好きなタイプや嫌いなタイプの事を話してた。 私は残念ながら、嫌いなタイプの人間に入ってたけど、それでも諦めずにずっと話しかけた。 気が付けば、私は李玖の事が大好きになってた。 李玖の笑顔、照れた時に顔を掻く仕草、勉強してる時の真剣な横顔、困ってる時にサッと助けてくれる優しさ……全部好き。」
雪菜の思いがけない告白に周りの生徒達がざわめき始める。それでも雪菜はやめなかった。
「私は李玖が好き、大好き。でも、今は直接告白はしない。李玖が私を見てくれるまで猛アタックするから。 偽の恋人なんかに、私は絶対に負けないから!」
そう強く言い放つと雪菜は隣の席に戻って来る。クラスメイト達はザワザワしたままだが、俺からしたらそんな事はもはやどうでも良かった。
それよりも水無瀬の肩がカタカタと震えている様にも見えたのが心配でならなかった。
「李玖、ごめんね。なんか変な空気にしちゃって。でも、さっき言った事は全部本当の事だから……。」
「うん、ありがとう。クラスの奴等も騒いでるのは今だけだろうし、俺は正直嬉しかったから。」
正直、こんな美少女から好きと言われて嬉しくない奴はいないだろう。しかも、ここまでストレートに告白を(間接的にだが)された事は無いから、心臓はバクバクだ。
ーーーーこんなんで意識しない方が無理だ!
でも、水無瀬は……。わざわざ俺と明智一味が接触するのを避ける為に協力してくれた。 しかし、雪菜の言う様に、もう俺の力量を知った明智からはちょっかいを出される事は無くなった。
だから、もう……ニセコイをする必要は無い訳で……。
「何か難しい顔してんね。大丈夫だよ、水無瀬さんもそんなんで挫ける程ヤワじゃないし。」
雪菜が頬杖をつきながら俺に話しかけてくる。何か水無瀬さんについて深く知っている様な口振りだな……。
ーーーーキーンコーンカーンコーン。
始業チャイムが鳴り響き、霧島先生が入って来る。そういえば、この先生も何か曲者感出してるんだよな……。
「席に着けー。授業を始めるぞー。」
霧島先生の授業が始まるが、何となく俺は水無瀬を見つめてしまっていた。
『気になるの?水無瀬の事……。』
隣から身を乗り出した雪菜が、耳元で囁いてくる。
「うひゃあ!!」
俺は思わず、教室全体に響き渡る程の大声を出して、立ち上がってしまっていた。
「…………………城ヶ崎、やる気だな。じゃあ答えてみろ。」
霧島先生はジトーッとした目で俺を見つめると、少し呆れた様子で俺に答えを求めてきた。 勿論、話を聞いてなかったから、分かる訳がない……。
「…………分かりません。」
俺は正直に霧島先生に白状した。聞いてなかったのだ。自業自得だ。
「城ヶ崎アウトー。 廊下に立ってろ。」
ーーーー俺の一限目は廊下で終わった。




