泥沼化。
俺と花凛はいつもの通い慣れた道を、お互い半歩ほど離れて登校していた。昨日、というか今朝方までお互いに何の意識もして無かったのに、今は気まずさしかないぞ!?
一体どうしたら、このモヤモヤやドキドキが晴れるのか、そんな事ばかりを考えながら歩いていたら、花凛と一言も交わす事無く学校に着いてしまった。
「に、兄さん……じゃあ、私は先に行きますね!」
余りに気まずいのか、花凛は小走りで自分の下駄箱に向かってしまっていた。
「これは気まず過ぎる……この後、雪菜とどんな顔して会えばいいってんだよぉ!?」
雪菜はあの後、俺と花凛がキスした事を知らない。こんな爆弾抱えた状態で雪菜に会って、間違ってポロッと暴露してしまった日には……考えたくない。
「あ、おはようございます!李玖君!」
「うひゃい!? あ、水無瀬か……ビックリしたぁ……。」
後ろから唐突に声を掛けられ、俺の心臓は口から飛び出しそうになる。
い、いかんぞ李玖……。平常心だ、平常心。そう、今この秘密を知っているのは花凛と雪菜だけだ。
「お、おはよう……。水無瀬は今日も元気だな!」
「そう言う李玖君は全然元気が無いね、家で何かあった?」
ーーーーーーギクッ!!
「な、何にもないよ。いつものように花凛のウザ絡みが酷くて困ってるだけだよ。」
平常心。そう、平常心なんだ李玖!! お前なら出来る!この難局もポーカーフェイスで乗り切るんだ!
「……雪菜さんと、花凛ちゃん、どちらかと何かありましたね?」
ーーーーーーギクギクッ!!
あぁ、もう駄目だ。すでに俺のポーカーなフェイスは崩れ去り、化けの皮が剥がれたただの李玖になっていた。
水無瀬はなにか言うわけではなく、只々ジーッと俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「わ、わかった……。話すから。ただ、今はまだ心の準備が出来てないから、放課後に屋上で話さない?」
今の俺にはそれが限界だった。今まで非モテの陰キャですくすく育ってきた俺が、いきなり学校の美少女達に囲まれるとか、キャパオーバーにも程がある。
「わかりました!じゃあ、放課後に屋上で! 先に教室に行ってますね!」
そう言い残し、水無瀬は去っていった。恐らくは水無瀬なりの配慮なんだろう。
「何やってんだろ、俺。かっこわりぃ。」
自責の念にかられ、暫くの間下駄箱から動けずに、水無瀬に対しての対応の不甲斐なさを痛感していた。
ーーーーーー。
あれから気まずかったけど教室に入り、隣の席の雪菜に軽く挨拶をし、席に着いた。
だが、雪菜は俺の緊張とは裏腹に、普段通りに接して来てくれた。
「ね、李玖って水無瀬さんに好きって言われたら、ニセコイやめて本当の恋人になるの?」
唐突に雪菜から発せられた言葉に、心臓が止まりそうになる。今日は俺の心臓に良くない日だ……。
「え、な、何でそんな事を聞くの?」
「いや、だって私達キスした仲じゃん!」
雪菜の余りの声のデカさに、クラスメイト達の視線が一斉に俺達に降り注ぐ。
ただ一人、水無瀬を除いて……。でも、水無瀬は聞こえている筈だ。何故なら、水無瀬よりも遠くにいる奴等が皆こっちを向いているから……。
「雪菜、声がデカい!お前は少し自重しろ!」
ギャルな雪菜は、基本的にハキハキと大きな声で話す、所謂陽キャに分類されるため、声もデカめなのだが、今回ばかりはワザと言ったとしか思えなかった。
「いや、もういいんじゃない?本来の目的はもう達成されてるんだし。 ねぇ、『偽恋人』の水無瀬さん!?」
席を立ち上がった雪菜は、水無瀬の後ろ姿をキッと見つめ、指を指しながらそう言い放った。




