雪菜。
「やっほー、おっはよー!李玖!」
リビングのテーブル席に座っていたのは、雪菜だった。姉は何事も無かったかの様にコーヒーを出しているが、完全に目が笑っていない。
俺には見える……ドス黒いオーラが姉の周りを取り囲んでいるのが。
「李玖ちゃん、私が雪菜さんと初めてお会いする気がするのは、気のせいかしら……?」
やっぱりだ……。今回も怒ってらっしゃる……。
姉はいつも会った事が無い女の人を連れて行くと、警戒心を剥き出しにするのだ。
「李玖ー!こんな綺麗なお姉さんいたんだね、マジで羨ましいわー!!」
雪菜はこれから学校だというのに、完全に寛ぎモードだ。
姉はというと、未だに真っ暗オーラを出しまくっている。
「柚葉お姉ちゃん、完全に雪菜さんを警戒してますね……。」
花凛にもしっかりと姉のどす黒いオーラは見えるようだ。
正直なところ、姉の柚葉は雪菜のようなギャルが苦手……というか嫌いなのだ。更に俺の知り合いという事も相まって、余計に気に入らないのだろう……。
「雪菜、どうしたんだよ、いきなり家に来てさ。」
俺の言葉に、雪菜はキョトンとしながら
「女の子がわざわざ朝に男の子の家に来る理由なんて一つしかないじゃんよ!」
とケロッと答えてくる。その瞬間だった。姉のどす黒いオーラが更に激しさを増した気がした。
「すみませんが、兄さんとは私が一緒に登校する事になっているんです。残念ですが、お引取り下さい!」
花凛も何故か闘志を剥き出しにし、雪菜に噛み付く。言葉こそ丁寧な敬語だが、その発声の強弱から、完全に雪菜を敵視しているのが丸分かりだった。
「へーー、そうなんだねー。李玖の…………シスコンロリペド野郎!」
そう言い放ち、バンッ!とテーブルを叩き立ち上がると俺に向かってツカツカと歩み寄ってくる……。
そして、左手を振り上げ……ヤバい、叩かれる……!
ーーーーチュッ。
目を閉じて叩かれる事を覚悟していた俺の唇に、柔らかな物が当たり咄嗟に目を開けると、目を閉じたままの雪菜の顔が目の前にあった。
ち、ちょっと待て、コレは……もしかして、キ、キ、キスとか言うやつなのでは!?
「キャアァァァァァァァァァ!!に、兄さんの唇がぁぁぁぁ!!」
一人絶叫する花凛。そして、無言のまままな板に包丁を突き刺している柚葉姉さん。
そんな二人の姿がチラッと見えたが、正直俺はそれどころじゃなかった。
ーーーー雪菜から、キス……された?
「こ、これが今の私の気持ち、だから。じゃ、じゃあ先に言ってるからね!」
唇と唇がゆっくりと離れた後、俺と雪菜は暫くの間お互いの顔を見つめ合った。 そして、何やら慌てた様子で雪菜は俺の家から飛び出して行ってしまった。
「に、兄さん…………?」
おずおずと花凛が俺の顔を覗き込んでくる。と、次の瞬間……。
「ん…………………。」
俺は一瞬、訳が分からなかった。だが気が付けば、俺は花凛にキスをされていた。
ーーーーえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
「兄さん…………。上書きですよ、上書き。兄さんの全てを、私は誰にも渡さない。絶対に……。」
花凛はいつにもなく真剣な表情でこちらを見つめてくる。今まで、こんなにも真剣な表情で語られた事があっただろうか……。
「花凛…………。」
「兄さん……………。」
俺達はお互いの瞳を見つめ合う。妹にこんな感情を抱くのはいけない事だと思っている。だから、俺は今まで通りこの感情に蓋をし、無かった事にする。
「学校に、行こうか。」




