そんな訳ない。
ちょっと待て……。少し整理してみようか……。
まず、俺と『偽恋人』をしている学校一の美少女「水無瀬歩乃華」。 彼女は告白してくる男子生徒を片っ端から冷徹にフッていく事から『氷のいばら姫』と称されている。
しかし、偽恋人を始めてから男子生徒達が、彼女に告白している場面に出くわした事は無い。
普段から敬語を使い、身なりもキチッとしている事から、どこかのお嬢様なのかもしれないが、情報通の徹でも分からないらしい。
次に俺の隣の席の美少女ギャル「高崎雪菜」は、これまた学校内では名が知れている美少女だ。ギャルなのに、誰にでも別け隔てなく話しかけ、差別する事の無い彼女は人気が高い。
小麦色の健康的な肌と整った顔立ち、抜群のスタイルも相まって、最近は更に告白される数が増えたのだとか。だが、彼女に彼氏が出来たという話は聞いていない。
そして、俺の妹の「城ヶ崎花凛」だ。高校一年生で、廊下を歩いていると必ずどこかで名前が挙がる程の人気者だが、男子生徒をこっぴどく振る事で有名らしい。
俺から見たら、極度のブラコンで、俺の事は『兄さん』と呼んでくる。クラスメイト達はそんな俺に「代われ」だの「羨ましすぎる」などといった言葉をよく聞く。
最後に紹介するのは最近出会ったばかりの「宮代愛莉」だ。
彼女は視力が余程悪いのか、普段から瓶底メガネを着用しているらしく、三編み姿で一見、地味めな女の子。
徹によれば、いつも大人しく自分から話し掛ける事は殆どないらしい。
お昼はいつも屋上にいるらしいが、彼女から声を掛けられるまで気付かなかったくらいだ。
さて、透の情報も含めて振り返ってみたが、改めて現在の状況を見てみよう。
今俺の真ん前には花凛が上目遣いでくっついてきて甘えている。何故、こんな状況になっているのか。
それは…………。要約すれば花凛が俺の布団の中で寝ていたからだ。確かに昨日は別々の部屋に寝ていたし、そもそも俺の部屋には鍵があり、鍵もしっかりと掛けていたのだ。
だから、自分からドアを開けなければこんな事は起こり得ない。
ーーーーそう思って高を括っていたのだが……。その言葉通り、甘くみて油断していたのだ。
「…………てか、花凛。どうやって部屋に入った。鍵は俺が持っていたはずだ。」
「兄さんの勘違いではありませんか?私は部屋が開いていたから入っただけですが。」
相変わらず花凛は肩をすくませておどけてみせた。
ーーーー花凛のヤツ、合鍵持ってるな……。
まさか合鍵まで持っているとは思いもしなかったが、それならば俺にも考えがある。
「正直に白状し、合鍵を返却しなければ、今後一切の接触を禁止する! それ即ち、一緒に登校する事も禁止、会話も禁止、手を繋ぐ事も、勿論抱きついたり、添い寝なんて以ての外だ!!」
「そ、そんな…………。それを全て制限されてしまっては……私は生きる意味を失ってしまいます……兄さん、どうか、どうかお許し下さい!!」
いや、俺と接触禁止でここまで動揺するとか、思ってもみなかったが、予想以上に効果があった様だ。 花凛は全国民が見ても、『完璧だ!』と言わしめるくらいに非の打ち所がない土下座をしてくる。
ーーーー自分で言ってて何だが、そもそも土下座に非の打ち所がないとか、存在するのかどうか分からないが……。
「花凛、俺はそういう事をさせたい訳じゃ無いんだ。ただ、最近の花凛の行動が読めなくて戸惑っている自分がいるんだ。 だから、取り敢えず合鍵だけは返してくれないか。」
「それは嫌です。」
何故か全力で拒否されてしまった……。花凛のヤツ、全然反省してないな、こりゃ。
ーーーーやっぱりさっきの胸の苦しさは、気のせいだな……。今は全然ドキドキしないし、息苦しさも、胸の締め付けも無い。
大体から、兄妹で恋愛感情になるなんて有り得ない。花凛もブラコンを拗らせているだけだ。
まぁ、考えていても答えは出ない……。
「仕方無い、取り敢えずさっさと飯食って学校に行くぞ。この話は帰ってきてからみっちりと聞くからな。」
俺は花凛と一階に降り、リビングに向かう。だが、そこには……。
「やっほー、おっはよ!李玖!」
何故かリビングのテーブル席に座っていたのは、高崎雪菜だった。




