誰?
「何かお困りでしたか?」
俺は不意に後ろから声を掛けられた。ハッとして振り向くと、そこには見たことの無い女子生徒が立っていた。
「君は……?誰? 俺の事を知っているの?」
俺の問いかけに、少女は静かに頷く。俺はこの子の事を一切知らないんだが……。
「城ヶ崎先輩は、いつも屋上でお昼を過ごされています。私もいつもお昼は屋上の片隅で過ごしています。ですから、先輩の事を知っています。 それに花凛ちゃんのクラスメイトだから。」
花凛のクラスメイトで、お昼を屋上で過ごす彼女の名前は「宮代愛莉」と言うらしい。
花凛とはクラスメイトだが、自らを地味だと言う彼女は一人ぼっちで、花凛とも話した事は無いらしい。
花凛が三年生に兄がいる事を話しており、屋上で度々俺の話や名前を聞くこともあり、名字が珍しいせいもあってか、俺達が兄妹だと認識できたらしい。
「実は…………。」
俺は気が付けばまたしてもこれまでの事をベラベラと喋ってしまっていた。
「ご、ごめん!今のは、わ、忘れて!前にもこんな事があって関係がギスギスしちゃって……。だから……。」
「話しませんよ。誰にも、話したりしません。」
彼女とは初対面なのに、何故かその言葉には説得力があり、不思議と頷いていた。
ーーーーダッ、ダッ、ダッ、ダッ!!
階段を駆け上がってきた音がしたかと思うと、次の瞬間、徹が姿を現し、息を切らしながら徹が声を張り上げる。
「おーーい!!いたいた!! た、大変だぞ、李玖!はぁ、はぁ、か、花凛、ちゃんが……!」
「花凛がどうした!?何があった!?」
「ぜぇ……ぜぇ……。お、俺達のクラスに、殴り込み、だ!」
殴り込み?俺達のクラスに?何故!?
「た、多分……その人達、知ってるかも……。」
愛莉ちゃんがカタカタと震えながら声を絞り出す。
「私達と同じクラスの、『金持時生』さん一味だと思います。」
金持………何処かで聞いたような…………あ。
俺はすぐさま自分の教室に向かって走り出していた。金持、知ってるぞ…………奴だ。
「李玖!李玖くーん!酷くないかーい!?置いてかないでよぉ!」
後ろから徹の声がしたが、申し訳ないが今は構っていられない!また今度、クリームパン奢ったるから!
「うぇ〜い、ヘイヘ〜イ!城ヶ崎の兄ちゃんはまだ来ねぇのか!? 来ないなら花凛ちゃんはヤッちまうぞ、おぉん!?」
俺が教室に着くと、教室内に金持と数人の取り巻きと思える不良がいた。
花凛は金持に後ろから抱きかかえられており、それを花凛が必死で振り解こうとしている。だが、クラスメイトの誰もが見て見ぬ振りをしたり、教室の隅に固まったりして逃げていた。
ーーーーどいつもこいつも……!
「花凛の兄貴は俺だけど、何か? こんな大事にしちゃって、どうすんのコレ。どう落とし前つけんの、コレ。」
俺はこの惨憺たる有り様に、すっげぇ久々に頭に血が上っていた。
「あぁん?何だテメェは!?」
俺は絡んできた不良のとさか頭を掴むと頭を押し込み、顔面めがけて膝蹴りをかましてやった。
「ふぎぁいああぁぁぁぁぁぁ!!」
痛みでのたうち回る不良を尻目に、俺は金持に詰め寄る。
金持は身長こそ高くはなく170センチくらいなものの、体格が良く、その体格が脂肪ではなく、筋肉で構成されているだろう事は容易に見て取れた。恐らくは100キロ以上の体重があるだろう。
「やぁ、金持ち君。ウチの妹に何か用かな?」
俺はズイッと金持に近付くと睨みながら一言言い放つ。
「もし、俺の妹に手ぇ出したら、ブチ転がすぞ、野ブタが!!」
金持はヒィッ!と一瞬怯んだが、すぐに態勢を立て直すと凄んでみせる。
「金持ち君じゃねぇよ、金持だ、金持!テメェ知らねぇのか!? 俺の父親はなぁ、不動産業界では有名なあの『金持カンパニー』の社長なんだぞ!」
「だから?」
「だ、だからじゃねぇ!テメェみたいな貧乏人の奴の父親なんかは、親父に言えばすぐに潰せるんだぞ!」
なんだコイツ……馬鹿なのか?
「やってみりゃいい。城ヶ崎だ、城ヶ崎李玖。親父に言っとけ!!」
俺はそう吐き捨てると、金持の顎めがけてフックを叩き込んだ。
ーーーー。
「怪我してないか、花凛……。もう大丈夫、大丈夫だからな。」
「兄さん、きっと、きっと来てくれると信じていました……!兄さん……!!」
花凛は震えながら俺の腕の中で泣いていた。不良グループはといえば、完全にノックアウトされた金持の足を引っ張りながら、早々に立ち去っていった。 何がしたかったんだ……?
クラスメイトはと言えば、バツが悪そうにしながらも、何も無かったかのように談笑をし始めていた。
ーーーー先生も駆けつけてこないし、どうなってやがる!
俺は心底この学校に不満を抱いていた。




