追跡。
「李玖君、私はもうこれ以上、李玖君に迷惑を掛けられない……。 ごめんなさい、ごめんなさい!」
水無瀬は号泣しながら俺に何度も何度も頭を下げてくる。彼女と気まずい空気のまま、時間だけが過ぎてゆく。
その時、そんな気まずい空気を切り裂くように、俺のスマホのバイブがテーブルの上で激しく振動する。
『もしもし、兄さんですか!? 姉さんから「李玖ちゃんは旅行に出掛けるから」と聞いていましたが、何で九州の小倉にいるんですか!? 今そちらに向かっています!待っててください!』
電話の主は花凛だった。花凛は多分俺のスマホのGPS機能を探って来たのだろうが、普通に怖い。
「なんでお前は俺の位置を知ってるんだ!」
『兄さんのスマホのGPS機能を利用したに決まってます!当然の事をわざわざ聞かないで下さい!』
そんな事だろうとは思っていたが、やはり花凛は俺のスマホのGPS機能を利用していたのか。というか、何で当然だと思っているのだろうか、この妹は。
『今、女と一緒にいますね!?』
俺はスピーカーホンにしていたのだが、その間、水無瀬は勿論何も話していない。
ギョッと目を丸くする俺と水無瀬だが、花凛は更に衝撃的な言葉を放つ。
『相手は水無瀬さんですね。』
花凛のその言葉に、俺も水無瀬も驚愕のあまり、絶句してしまった。
『否定してこないという事は、肯定ととらせていただきます。』
相変わらず水無瀬の事となると容赦しないな……花凛は。妹の直感なのか、女の直感なのか……。
「そうだよ、色々あってな。しばらくの間、現実逃避をしたくなったんだよ。」
『現実逃避って……兄さんには私がいるじゃないですか!? 私と付き合って、私と結婚して下されば、後は私が働きに出ますし、家事もこなします!』
めちゃくちゃな言い分だな……。しかし、それだけ妹に慕われているという事だな。
高校生ともなれば、普通なら『寄るな、触れるな、喋りかけるな!』ってなるところだしな……。
そう考えれば実妹でもなく、義妹なのに慕ってくれるのはありがたい事なんだな。
ーーーーだが、俺は無言で通話を終了した。
なに、理由は簡単。単にこれ以上、埒が明かないからだ。 勘の鋭い妹の事だ、すぐにこの旅館も突き止められる。そうなれば、どちらにせよ、さっき話していたような会話をまたする事になる。
「俺はこのまましばらくここにいるつもりだけど、水無瀬はどうしたい?」
衝撃的な行動から今回の様な旅行は始まった。冷静になって考えてみれば、今回の旅行がどれだけお粗末な計画だったか分かるはずだ。
でも、それでも俺は今のぐしゃぐしゃした気持ちから、少しでも逃れたかった。
もうあと数日もしたら出校日もある。嫌でも帰らなきゃいけないなら、せめて今だけでも現実から逃げ出して、全てを忘れたかったのだ。
ーーーーブーッ、ブーッ!
再度スマホのバイブが激しく震え出す。どうせまた花凛だろうと思い、スマホの画面を覗き込むと、そこには雪菜の名前が表示されていた。
ーーーー時間は夜中の1時を軽く超えていた。




