過ち。
「水無瀬、まぁ入りな。」
俺は部屋の前で俯く水無瀬を部屋に入れると、窓際に設置されていた少しばかり小型のテーブルと椅子が二脚用意されていた為、椅子に腰掛けさせる。
「あ、ありがとう……ございます。」
バツが悪そうに椅子に腰掛ける水無瀬は、俯いた姿勢のままだった。
「取り敢えずは無事で良かった。何かされてない?」
「はい、何もされていません……。」
声の大きさや動揺しているかどうかを確認してみたが、どうも嘘はついていない様だ。
「金持のとこでは何してたの?」
「何もしてません、本当に何もしてません! ただ『ここにいろ』と何も無い部屋に閉じ込められていただけです!」
いきなり動揺し、声を荒げる水無瀬。明らかにさっきまでと様子が違う。
「何を隠している。」
「何も隠していません!本当に何もしていません!」
俺の問いかけに、思い切り首を思い切り横に振りながら水無瀬は否定してくる。
このままでも埒が明かないので、俺は核心に迫る発言をする事にした。
「何故黙っていた。何で電車に乗っている時に話してくれなかった?」
「そ、それは……すみませんでした……。」
「脅されている者達が陥れられやすい罠だ。自分あるいは家族の弱みを知られ、自分は家族を失う事を恐れる。 親の立場なら、家族が迫害される事を恐れ、何も言えなくなる。知らず識らずの内に自分達が騙され、地の底まで落とされている事に気付かない。」
水無瀬は俺の言葉をじっと聞いている様にも、どこか虚ろで何も聞こえてないようにも見える。
「水無瀬、正直に話してくれないか。何があった。」
「私は、私のお父さんは、金持君のお父さんが経営する会社で働いているの。でも、旅行に行く数日前に金持君から脅迫電話が届いたの……。」
ここまでは本当の話だな……しかし、もしかしたら口裏合わせの可能性も否定できない。
「金持君は『俺の所に来い。でないと、父親をクビにするぞ』と脅されて、私は『李玖君と九州旅行に出掛けるから』というと逆上して『なら、途中で降りろ』と無茶苦茶な事を言ってきて……。」
「で、俺に知られないように切符を別に購入したってわけか。」
いくらなんでもめちゃくちゃ過ぎるな……。 金持の奴、好き勝手やってくれやがって……。
「本当にごめんなさい……。私、どうしたら……。李玖君に取り返しのつかない裏切りをしてしまいました……。」
椅子に座り、俯く水無瀬は声を上ずられながら、ぽとりぽとりと落ちる涙が、彼女の膝を濡らしていた。




