ある意味悪夢。
とある夏の日の朝の出来事。その日は蒸し暑くて、俺は中々寝付けずにいた。朝方までゲームをし、蒸し暑さを誤魔化しながら夜を凌いだ。
朝方、空が白みはじてやっとこさ布団の中に身を埋め、微睡みはじめた頃、二階の俺の部屋に足音が近付いてくる。
「李玖ちゃーん、そろそろ起きて?起きないなら、そのお口にお姉さんがねっとりと舌を入れちゃうわよ?」
朝っぱらから卑猥な言葉と共に、俺はベッドから飛び起きた。
時間はまだ朝5時。いくらなんでも起床時間にはまだ早過ぎる……。なにせ、今から寝ようと床についたくらいだ。
今更だが、俺は偏差値71の『成都大学付属高等学校』に通う高校三年生の「城ヶ崎李玖」だ。
身長は188センチあり、運動は人並みか、それ以上には出来る。だが、陰キャ体質で髪の毛は前髪が目にかかる程長くボサボサで、趣味といえば漫画、アニメ、ゲーム。
流行には疎く、ファッションには全くと言っていい程興味が無い。
そして、朝っぱらから卑猥な言葉で叩き起こしてきたのは姉の「城ヶ崎柚葉」だ。
彼女は大学二年生で、今日は朝の講義はないらしいが、わざわざ俺を朝の5時から叩き起こしてきた。しかもだ、弟のベッドに潜り込み、俺に馬乗りになり色仕掛けをしてくるという、普通の姉なら到底やらない様な事をしている。
ーーーーそれも毎日だ。
「姉さん、そういう起こし方は止めてって前に話したよね!?」
俺の言葉に姉は目を逸らし、出来もしない口笛をヒューヒューやりながら、俺の言葉に耳を貸そうとしない。
「そんな事よりも!李玖ちゃん、お着替え………しよ?」
さっきは気付かなかったが、姉の服はスケスケの紫のネグリジェに、派手なブラとパンティー姿だった。朝から目の毒でしかない……。
「結構です、赤ちゃんじゃあるまいし、着替えくらい一人で出来る。」
俺はそう言うとパジャマを脱ぎ始める。姉は昔からこんな感じで、俺の世話を焼きたがる。始終こんな感じなので、結構疲れるのだ。
こんな滅茶苦茶な姉だが、大学二年生で身長も175センチあり、茶髪のロングヘアーをウェーブにしており、まつ毛もアイライン、アイシャドウもバチバチ、スベスベで色白な肌、モデル並みの体型で巨乳。
俺から見ても超美人で、成績も優秀。大学内でも一、ニを争う程の人気を誇っているらしい。(風の噂)
しかしそんな姉だが、これまた噂によると、何でも告白してきた男は片っ端からフッているのだとか……。
「李玖ちゃん、用意できたら朝ごはんよ!」
そう言い残し、姉は俺の部屋から出ていった。ポツンと残された俺は暫く固まっていたが、今日は図書委員の仕事がある事を失念していた。
ーーーーまさか、姉さんはその事を知っていて……? やだ怖い。
俺は着替えを済ませ、一階まで急いで階段を駆け下りる。
「あら、やっと気付いたのね。図書委員の事。」
やはりかという感じで、姉はとっくに朝食の準備を済ませ、テーブルの椅子に腰掛けていた。
「兄さん……おはよ〜〜ございましゅ……。」
そこには姉だけではなく、もう一人の少女が眠そうな目を擦りながら腰掛けている。
俺の事を『兄さん』と呼んでくるこの少女は、俺の妹の「城ヶ崎花凛」だ。
花凛は俺と同じ高校に通う二つ歳下の妹で、姉と同じく極度のブラコンで、俺と同じ高校に入りたいと理由のみで、わざわざこの学校に入学して来た程だ。
そんなことが理由でわざわざ入学して来るくらいだから勿論、成績優秀で運動神経も抜群だ。
身長は165センチ、姉同様ピチピチの色白な肌、黒髪のロングヘアーをルーズサイドテールにしているのだが、細かく編み込まれたアレンジヘアーをしており、毎日編み込み方が違う。たまにシュシュを使ったりもしているが。
まだ中学生くらいか?というくらいに童顔だが、スタイルは抜群で、高校の男子生徒達『みんなの妹的』な存在であり、告白して玉砕された男子生徒は数知れずだ。
ーーーーそんな美少女二人と俺が家族なんて知ったら……クラスメイト達はどう思うだろうか。
そう、俺はクラスメイト達には、俺と美少女二人が家族だとは伝えていない。特に高校生の妹である『花凛』の事は兄妹だと知られないようにしないと……。男子生徒達の視線が痛いからな……。
ーーーーでも、もうあと一週間後には夏休み!
高校最後の夏休み、何としても彼女を作って夏休みをエンジョイしてやるぜ!
「そういえば、花凛は彼氏出来たのか?」
俺の唐突な質問に、妹の花凛だけではなく、姉の柚葉まで口に含んでいた朝食を『ブーッ!』と吹き出してしまう。
「何やってんだよ、二人共!」
俺は二人の吹きこぼした朝食をフキンで掻き集める。
「ご、ごめんなさい!李玖ちゃんがあまりにも意外な話をしだすから……。」
「えっ……そんなに意外だったか?」
「そうですよ……柚葉お姉ちゃんの言う通り、何故またいきなりそんな事を私に聞くんですか!?」
まぁ、姉さんはともかく、花凛はその辺りあまり興味が無さそうだからなぁ……。ブラコン拗らせていい加減兄離れしてもらわなきゃ、こっちも困る。
「何となくだよ、何となく。……ごちそうさまでした!」
俺はハッキリ言うのは避け、とりあえず朝ごはんを勢い良く口にかき込み、朝食を早々済ませると、さっさと学校に行く準備をして、玄関まで向かう。
「兄さん!まだハッキリした返答聞けてないですから!」
花凛も急いで来たのか、息を切らしながら玄関まで来て靴を履く。
「待て待て、花凛!前にも言ったよな、一緒に登校するのは無しだ!それに、今日は俺が図書委員で早く登校するだけだ。花凛がこの時間に登校する必要はない。」
しかし思いがけない事に、俺のこの言葉に、花凛は思い切りブチ切れてしまった。
「何故ですか!?兄妹なのに、何故一緒に登校してはいけないのですか!? この三ヶ月間、ずっと我慢してきましたけど、もう無理です!兄さんと一緒に登校出来ないなんて、本当に地獄でしかないですから!」
花凛は俯きながらも、鬼気迫る勢いで自分の思いを吐き出していく。身体は小刻みに震え、声も心無しか震えている様な気がした。
「私、兄さんと一緒に登校出来るから、学校生活送れるからあの学校に全身全霊かけたのに……。もういいです……私、学校辞めますから。」
今までの自分の中に溜め込んでいた不満が爆発したかのように、花凛は泣きながら自分の思いを吐露していた。
「李玖ちゃん……。」
花凛の後ろには、寂しそうな顔を浮かべている姉さんの姿があった。
俺達は病気で母親を亡くし、父子家庭として育てられてきた。だが、父親は俺が中学を卒業すると同時に、今住んでいる一軒家を買い、そこに俺達三人を住まわせた。そして、父親はと言うと、会社に務めっきりで、俺達に会いに来る事は滅多にない。
幸い生活費は父親から毎月たんまり貰っているので、何ら困る事は無いのだが……。
だから花凛にとっては俺は父親代わりの様な存在なのかもしれない。
「わかったよ……。ごめんな、そんなに考えていてくれてるなんて知らなくて……。これからは一緒に登校しよう。花凛がそれで満足するのなら。」
「本当ですか!?やりました!ありがとうございます、兄さん!」
ケロッと笑顔に戻る花凛の顔を見ていると、自分の顔までほころんでくるな。
玄関をガチャリと開け、俺と俺の腕を組み顔をほこらばせる花凛。
「おはよう……ござい……ます、李玖君……?」
玄関のドアを開けて、一歩踏み出したその瞬間……俺は視線の先にいた人物に驚愕していた。
「な、何で……李玖君と、花凛さんが……?え、あ……あれ?」
俺の視線の先にいたその人物は……俺の初恋の人、そして学校一の美少女と言われる「水無瀬歩乃華」が何故か涙を流しながら立っていたのだった。




