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塔を砕く魔王と、輪を繋ぐ龍。  作者: 十輪 かむ
魔、氣、さんざめく
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八の話

「氣が立ち昇って見える。だけど、まあまあだね」


 今度はテンが先に動いた。一瞬で牛頭の眼前に現れる。と思っている間に足元に、右に左にと凄まじい速さで動き回る。


 先ほどの一撃も中々の素早さだったが、この動きは遥かにそれを上回っている。


 牛頭法士がテンの動きに目を奪われ、視線を上に向けた瞬間だった。

 

 ユウの拳が牛頭の胸元に届いていた。こちらも速い。


 牛頭は辛うじて掌底で受け流したが、次々に拳は打ち込まれていた。彼は腕に膨らむ岩の様な筋肉と生い茂る黒毛を盾にして、その連撃を防いだ。


 しかし、テンがそこへ剣鉈を振り下ろした。それは牛頭のツノで弾いたが、次の一撃は腕を振り上げて受け流さなければならなかった。


「中々面白いね」


中段と下段をユウの苛烈な打撃、そのユウの背中を踏み台にして頭上からテンが斬りつける。


 牛頭法士はそれを同時にさばかなければならない。この戦法は彼の様な巨躯の相手だからこそ発揮される。

 

 それをこの二人は何も打ち合わせすることなく選択しやってのけている。大したものだ。


 だが、ユリが既に気付いているように、当の兄弟二人も気付いているだろう。牛頭法士は少しも脚を動かしていない。まるで巨木が根をはるが如くだ。


 テンがあからさまにユウに向かって目で合図をした。


 ユリに分かったのだから、目の前にいる牛頭法士にも分かっただろう。覚られても構わない。そんな焦りが透けて見えた。


 ユウは雄叫びを上げながら牛頭法士の足元の地面を掌底で叩いた。


「地の型、大蟻地獄(おおありじごく)!」


 牛頭の身丈が縮んだ。いや、牛頭が膝まで地面に沈んだのである。一瞬にして牛頭の足元を支える地面が細かく砕け砂になったのだ。


 ユウは自らの技に呑まれじと、素早く後ろへ跳んだ。


「風の型、死四吹(ししぶき)!」


 牛頭法士の前後左右、四方にテンの姿が現れた。それらが同時にウメガイを突き出し、彼へ襲いかかった。


「右か」


 そう呟き、牛頭法士はテンの腕を難なく掴み取った。すると残り三方のテンの姿は蒸発するかのように消え失せた。


 牛頭法士はテンを振り上げる。風を切る音と共に、テンの腕と肩が鈍い音を立てた。関節が外れたのだ。彼はそれに構うことなくテンを放り投げだ。


 その先には牛頭の間合いから離脱したばかりのユウがいた。ユウは先ほどの二の鉄は踏まじとテンの体を受け止めた。


 突如、轟音と共に砂の柱が立った。高さ七丈に達するかという立ち昇る砂柱にテンユウ兄弟は吹き飛ばされ、崩れ落ちるそれに二人は呑み込まれた。


 ユリは魔術の傘で砂を被るのを防ぎながらも、砂柱の短い屹立から倒壊までを然りと見ていた。牛頭だ。牛頭法士がその剛力でもって砂を蹴り上げたのである。


「まったく。いつ見てもデタラメな怪力だね」


 ユリは呆れと感嘆の混じった息を吐いた。


「どうする? まだやるか?」


 牛頭法士の足元の砂は吹き飛び、彼にとってはただ緩やかな傾斜が形成されていた。牛頭法士はそこをゆっくりと登って、兄弟が埋もれていると思われる二つの砂の膨らみに近付いた。


 テンユウ兄弟は砂の中から這い出して、しきりに砂を吐き出した。


「じょ、冗談じゃねぇ。俺達の切り札を、ああもあっさりいなされちまうなんて。しかもあんた、氣法、一の輪すら使っちゃいねぇ。勝てるわけがねぇ」


 テンは関節が外れてだらりとする腕を地につけながら、力なくしゃがみこんだ。


 牛頭法士はテンの関節の外れた腕をとると軽く振った。小気味の良い音が鳴る。テンは腕を何度かぐるぐると回し、関節が元に戻ったことを確かめた。牛頭は再びその腕をとると、手の平に銀一枚を握らせた。


「では、さっそく、案内してもらおうか。シメグリの一族の元へ」


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