六の話
ゴウとヒナノとマサクニは、山の急斜面を跳びながら下っていた。
山を生活の場としている彼らシメグリの一族は、幼い頃からの訓練により、急斜面でさえ転倒することなく凄まじい速度で下ることが出来るのだ。
「ねえ、どうしてテンユウ兄弟は追放されたの?」
ゴウが前を行くマサクニに訊いた。
直接的な奴だ。自分はそれに触れないでおこうとしたのに。そこらへんはまだ子供だ。ヒナノはゴウの背中を見ながら思った。
「今は喋ると舌噛むよ」
「舌を噛んでもヒナノが治してくれるよ」
「はあ? そりゃ治すけどさ・・・・」
ヒナノは足が土を踏む音に紛れるように小声で言った。
「・・・・奴ら、二人して一人の若い女性をかどわかしたのさ」
「かどわかした? かどわかすってなんだ?」
どこまで鈍感な奴なんだ。自分はそれだけで全てわかったのに。
「ちょっと、ゴウ」
「乱暴したのさ」
「男二人で一人の女を乱暴か。酷い奴らだな」
おそらく、ゴウはその意味をわかっていない。だが、その怒りを持つことは正しい。ヒナノは何か言葉が出かけたが、それは抑えておくことにした。
「ああ・・・・みんな、そう言うさ」
マサクニは何故か寂しげに言うのだった。