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塔を砕く魔王と、輪を繋ぐ龍。  作者: 十輪 かむ
真中へ集いし [二の巻 始]
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五十七の話

 河港には船が多く停泊し、人と荷が激しく往来していた。そこから丘の斜面へ通る道は何本も伸びており、その全ては葛折であった。


 ゴウ達一行は、世話になった船員達へ別れを告げて、幾重にも曲がりくねった坂道を登って行った。


 この坂道は、初めて都へ来た者達を心底うんざりさせる洗礼らしいが、山で育つシメグリの子であるゴウとヒナノにとっては、なんのことのないただの道であった。寧ろ、整備されている分、山道より歩くのがずっと楽だった。


 坂道を上り切ると、門が待ち構える。巨大ではあるが目立った装飾もなく、大国の都にしては控え目の印象だ。


これは庶民達が暮らす南側であるかららしく、北側はこれの倍はあり装飾の施された荘厳な門が出迎えるらしい。


 門の脇に立つ門番が、一瞬牛頭法士へ警戒の色を向ける。彼ほどの巨躯の獣人は都でも珍しいようだ。


「牛頭法士はどこでも目立つねぇ」


 そう言うユリの姿を見て、通りを行く人々がチラチラと視線を送って来る。


緋色の髪でこれだけ着物を着崩した女も、都でも珍しい様だ。


 ヒナノは、「ユリさんもでしょ」そう口に出しそうになってユリを見る。


それを察してか、既に彼女はヒナノの顔を覗き込んでいた。その口元にうっすら笑みがある。怖い。


「いやぁ、ユリさんは美人さんだから、都でも目立つね」


 ヒナノが苦し紛れに言う。


「うんうん、ありがとねぇ、ヒナノちゃん」


 ヒナノは直感した。これは言わされたな、と。


「ここがオウキョウ南町、『かなめ』と呼ばれる場所だ。ここから放射状に七本、丘の外側へ向けて大路が伸びる」


 牛頭法士が指差す。要と呼ばれるのはだだっ広いこの広場だ。


ここだけでも、山中の村が二つ三つすっぽり入りそうだ。


石畳が敷き詰められ、馬車や人々が行き交う。


その先に、幅広い道が伸びる。川沿いを伸びる道が東西に二本。南東に二本、南西二本、それぞれ斜めに伸びる。そして、町の真ん中を殊更幅広い道が一本伸びる。


「すごい。こんな町見たことがない・・・・」


「当たり前でしょ」


 ゴウに対して、ヒナノはそう強がってみたものの、内心には彼と同じ単純な言葉の感想しか浮かばなかった。


 すごいと思わせるのは、道や人々の数だけではない。背の高い楼閣も無数に建ち、森を見ている様にも思える。


「川沿いを東西に走る大路から、更に半同心円を成して、五本大路が伸びている」


「へぇ・・・・」


 ヒナノはあからさまに興味のない返答をしてしまった。


牛頭法士は、何故道の話ばかりするのだろう? ヒナノはそれが気になった。


「牛頭法士は心配性だからねぇ。この町は大路を辿れば、ここ要へ行き着く様になっているのさ。オウキョウってだけに、扇の形をしてる。迷った時に思い出しな」


「そういうことだ」


 二人が言ったことは、どうやら都へ来たらまず最初に覚えておかなければならないことらしい。ヒナノとゴウは、頷いてそれを理解した。


「さてと。カエデさんのところへ行く前に、まずは腹ごしらえだね。何食べる? 都にはいっぱい美味いものがあるよ」


 ユリが弾む様に言う。その表情も浮き立つ笑顔だ。


ゴウもヒナノもそれにつられる様に眼を輝かせた。


「俺は豆餅が食えればどこでも良い」


「牛頭法士はまたそれかい。でも、確か、焼き餅の屋台があったね。それを歩き喰いしながら巡るのも乙かもしれないねぇ」


「おい、ユリ・・・・」


「よし、みんな、行くよ!」


 ユリが軽い足取りで歩き出す。その後ろをゴウが素直に従った。


「ちょっと、牛頭さん。大丈夫なの?」


 ヒナノが牛頭にだけ聴こえる様に話す。


「うむ。大きな町へ着くと大抵ああなのだ。まあ、あの女は馬鹿ではない。何とかなる」


 牛頭法士が溜息混じりで言った。それには諦めが含まれている様に思えた。


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