五十の話
次の日。陽が山の頂から顔を覗き出す頃。シメグリの一族がこれから旅立つ、ゴウ、ヒナノ、ユリ、牛頭法士、マサクニ、の五人を取り囲んでいた。
「牛頭、ユリ。本当にありがとう」
「こちらこそ、ありがとうねぇ。いろいろ知ることが出来たよ。おまけに餞別まで頂いて」
ユリは金の入った小袋を大事に懐へしまった。
「では、そろそろ行くとしよう。皆世話になった」
牛頭法士が一族へ向け一礼し、歩み出す。
クレハは彼が一瞬寂しげな眼をしたのを見逃さなかった。
「それじゃあねぇ。今度来る時は、旨い酒いっぱい持って来るよ」
ユリが手の平をひらひらと振り歩き出した。
「俺はみんなと逆方向か。じゃあ、婆様、一族のみんな。行ってきます」
マサクニが歩み出した。その背に向けて一族の者達が各々に声をかけた。
「じゃあ、クレハ婆、母さん・・・・」
ヒナノは涙を流していた。それをミズキは優しく抱き締めた。
「ヒナノなら大丈夫。たくさん学んでおいで」
「うん。母さん、今まで厳しく育ててくれてありがとう」
「ほら、ゴウも」
ミズキは側に立つゴウもその腕の中に抱き入れた。
「ミズキさん。ヒナノは俺が守るよ」
「うふっ、それは頼もしいわ」
「バカ、ワタシがゴウを守るの! いっつもあんたの怪我を治してんの誰よ。まったく!」
ヒナノはミズキの腕の中から離れると、顔を赤くしながら言った。必死の照れ隠しだろう。周囲から笑いが起こった。
「さあ、ヒナノ、ゴウ。いってらっしゃい。牛頭さんとユリさんが待ってるわ」
少し先でユリと牛頭法士が振り返り、脚を止めていた。
「いってきます」
ヒナノとゴウはそう言い、二人揃って深く一礼した。ヒナノにもゴウのそれがうつった様だった。
「うむ、行って来い」
クレハはそれだけしか言葉が出なかった。込み上げてくる感情が言葉をせき止めていたからだ。
ゴウとヒナノはシメグリの一族へ向けて手を振りながら歩み出して行く。皆は応えて手を振り続けた。それは二人の姿が見えなくなるまで続いた。
クレハはその間、皆に覚られない様に涙を拭うのであった。
(第一部了)
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これにて第一部は終了となります。
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