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塔を砕く魔王と、輪を繋ぐ龍。  作者: 十輪 かむ
大いなる輪を繋ぐ者
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四十六の話

 牛頭法士とタヂカが死闘を繰り広げた場所から二里ほど離れた山の頂に、一人の翁が座っていた。陣笠を被り顎には長い白髭を蓄えた老人である。


 翁は親指と人差し指で輪を作って覗き込み、その闘いを観ていたようだ。


「いやぁ、とんでもない奴らじゃの。これだけ離れているのに死ぬかと思ったわい」


 翁の周りには人の頭蓋はあろうかという大きさの石がゴロゴロと散乱し、中には地へめり込んだものまである。


 それらは牛頭とタヂカのぶつかり合いによって飛ばされ、翁に死を想わせたものであった。


「遅かったのお。もう終わってしまったぞ」


 翁が振り向く。


 そこには五十名はいるであろう一団がいた。皆一様に頭をすっぽりと覆う深編笠を被り、白の着衣であった。その体格は、岩の様な巨躯の者から枝の様に細い者まで様々だった。


「ほお、またこれは大勢来たのお」


「エンダイ殿、どういうおつもりで?」


 一団の一人が深編笠の向こうで口を開くや否や、鋭く訊いた。


「はて? 何のことかの?」


「惚けるおつもりで? まあ、よろしい。結果的にはあのタヂカを滅することが出来た」


「主ら『狛犬(こまいぬ)』の出る幕はなかったようじゃ。さて、この国の朝廷はどう出る?」


「それは我らが主君がお決めになること。しかし、我らとしては牛頭を注視する必要があります」


「ふむ。目付役が必要か? なら、ワシが請け負うぞ。一日金一枚でどうじゃ?」


「それには及びません。我らには、あなたより信のおける者がいくらでもおります」


 エンダイは愉快そうに笑い声を上げた。


「これはまた手厳しい。まあ、ワシはワシで見守らねばな。奴らなら『螺旋の果て』に辿り着いてくれるやもしれん」


 エンダイは再び牛頭達がいるであろうその遠方へ視線を向けた。




        § § §




 テイワは、シヨウ山地を擁するアマツの南の隣国であった。都はその領土のほぼ中央にあった。王の、神帝の居城は、四大大河の一つミマ川を東に見下す、平な丘の上にあった。


その城の、光も差し込まぬある一室。


 数本のろうそくの灯りだけがその男を照らしていた。肩まで伸びる金色の長髪がその鈍い光を反射していた。男は緩く眼を閉じていた。灯りで顔の陰影が際立つ彫りの深い顔立ちである。胡座を組み合掌をしている様子から何かに祈っているようにも見える。


「神帝、タヂカが討たれました」


 男が言い放つその先には、もう一人の男がいた。男は豪奢な椅子に深く腰かけ、肘かけに頬杖を付いていた。テイワの神帝と名乗る男である。


 まだ若い青年にも見えるが、その眼はろうそくの灯火でも鋭く光っていた。肝のない者なら容易に畏怖させ平伏させるだろう。幼き頃より培われた、王故の眼光だ。


「牛頭か」


「はい」


「思惑通りに動いてくれた。お前の、『千里眼の堕龍人』の天意あってのことだ」


 千里眼の堕龍人と言われた男は一礼しその応えとした。


「タヂカの圧倒的な力の天意を失うのは惜しいが、奴は鎖に繋げぬ虎だった。しかも妙に勘も良い。この俺に喰らい付くのも時間の問題だったからな。消えてもらう他なかった」


「しかし、アマツの朝廷も気付いたようです」


「だろうな。だが、奴らもおいそれと手出し出来ないだろう。それはこちらも同じだ。駒が揃わぬうちはな」


「シメグリの童のことで?」


「まさか、あそこで見付かるとはな。しかし、今ではない。それは全てを平に成す時にあれば良い。今必要な駒は『日輪の堕天者』だ」


「そちらは手に入れられるのも、時間の問題かと」


「そうか。サラサだったな。砂と太陽の国か。日輪が生まれ出るのも何かの因果か」


 隙間風も吹かないその部屋で、ろうそくの炎が激しく揺らめく。その灯りは、神帝の歪んだほくそ笑みをさらに歪ませて見せた。


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