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四十三の話
「アハハ、こいつは想像以上だねぇ」
ヒナノの横でユリが笑った。
「当たり前だよ。こんなの、こんなの想像出来るわけないよ!」
ヒナノの目に映るタヂカと牛頭法士のぶつかり合いは、最早人間同士の戦いと呼べるものではなかった。天変地異だ。ヒナノの知っている言葉で言い表すなら、それしか思い付かなかった。
「ユリさん、ここでこうしてるより、どこかへ逃げた方が良いんじゃないの?」
「いや、下手に動くより障壁の中でじっとしていた方が安全さ」
その時、巨大な岩の塊の幾つかが飛んで来て、ヒナノ達の張る障壁に当たって砕けた。
「ほらね。あれは、ここいらの山一つ二つ消し飛んでもおかしくない。そんな中逃げ回ってたら、それこそ危険さ」
「牛頭さんは勝てるかな?」
「勝つさ」
ユリは即答した。そこには言い淀みは全くなく、それを確信している様だった。
ヒナノはそれでも不安だった。目の前で繰り広げられるぶつかり合いは、どちらが優勢だろうが、死が飛び交っている様にしか見えなかった。