表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔を砕く魔王と、輪を繋ぐ龍。  作者: 十輪 かむ
大いなる輪を繋ぐ者
38/67

三十八の話

ユリの腕の中で、オボロは意識を失った。


 二つの術の苦痛に、よくここまで耐えられたものだ。シノビは敵方に捕まり拷問を受けた際に、口を割らない為に、苦痛に耐える鍛錬をするらしい。


 その記憶も読み取れた。オボロが長く術に耐えたせいか、この女の余計な記憶を色々読み取ってしまった。この女の秘事らしきものまで。


「オボロ、あんたも乙女だねぇ」


 ユリはオボロの眠り顔に眼を落としながら呟いた。


「貴様ぁ! 殺す、殺す! 殺してやる!」

 

 イビがひたすらにユリへ向かって殺意を飛ばしていた。


「落ち着きなよ。オボロは死んじゃいないさ。ほら」


 ユリはオボロを抱きかかえて、イビの隣へ横たえた。手の届く距離だ。もっとも、イビの腕は折れ動かすことは出来ないだろうが。


「何? どういうつもりだ?」


 イビが驚きの声を上げる。


「どういうもこういうも、ちゃんと瞬転移のカムナは読み取れたからね」


 ユリは一つ大きく息を吸い、氣を大きく周囲へ飛ばした。森を焼き、まだ燃え盛っていた炎を消し飛ばした。


「ちゃんと火の始末しないと、クレハさんに叱られるからね。ああ、後・・・・」


 ユリは這いつくばるイビの前にしゃがみ込むと、その背に手を当てた。


活癒(かつゆ)


 イビの体が一つ大きく震える。ユリが触れる手に、イビの体を巡る氣が活発になっていくのが伝わる。


「何だ、これは?」


「氣法を使った治癒法さ。魔術の治癒術と比べてすぐには治らないけどね。まあ、日が落ちる頃までには手足を動かせるようになるさ」


ユリはそう言うとオボロの体にも同じように活癒を施した。


「これでよし。残火もちゃんと解いておいたよ」


「情けのつもりか? 殺せ」


「最初はぶっ殺すつもりだったさ。これは戦だからねぇ。でも、気が変わった。あんたらは、生きな」


「・・・・お前には分からん。生きた方が辛いこともある」


「タヂカのことかい? 安心しなよ。あいつはアタシと牛頭法士がちゃんとあの世へ送ってやるさ」


 イビは何も応えなかった。一度忠誠を誓った身だ。その死を約束されて複雑な想いだったのだろう。


「ここシヨウ山地は山の幸も豊富だって聞くよ。生きるのに不自由しないはずさ。ま、楽しく自由にやりなよ」


 ユリは立ち上がり、瞬転移の想魔を始めた。術には相性があるが、この術は何とか使えそうだ。


「分からんのだ。楽しくだの、自由だの・・・・」


「ふーん。そうだねぇ・・・・」


 ユリは空を見上げた。丁度、春の筋雲が流れていくところだった。


「あの雲になったつもりで考えなよ。オボロが起きたら二人で一緒に考えても良いよ。ああ、それも楽しく自由か」


想魔から練魔へ至る。使えはするが、使いこなすのに少し時間がかかりそうだ。思い描いた場所、人の元へ行けるかどうか。


「・・・・恩に着る」


 そのイビの言葉を耳に入れて、ユリは瞬転移の放魔へと至った。這いつくばったままのイビの横顔は柔らかく笑ったように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ