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塔を砕く魔王と、輪を繋ぐ龍。  作者: 十輪 かむ
大いなる輪を繋ぐ者
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三十の話

迂闊だった。この手段をとって来ることは充分予想出来たはずだ。


 己と相手の力量を推し量っての慢心か。相手を侮っていた。その辺のゴロツキではない。曲がりなりにも、国の軍を率いた者なのだ。


「アタシも、まだまだだねぇ」


 ユリは目の前に立ち並ぶテイワの兵であろう軍勢を見てため息を吐いた。


 数は見えるだけでも五百ほどか。森に隠れた者も合わせるともう少しいるのか。囲まれている。


 荷物持ちの牛頭法士がいなくなったお陰だ。大鉄扇を帯に挿しておいて良かった。歩くのには邪魔だったが。


「油断なさったかな?」


 細面の優男。イビとかいう副将か。


「そのオボロって奴にしてやられたよ。便利な術を使う。後で教えてもらおうかねぇ」


 黒衣の女に視線を向ける。こちらはまるで表情が動かない。この女が突如目の前に現れてからこの場所へ共に転移させられるまで、数回瞬きをする間があったか。


 通常ならその間でも魔術は放てるが、虚を突かれそれも出来なかった。


 いっそ刃物で一突きしてくれれば殺気に体が自然と反応してそれ防ぎ、その間に魔術を練れたものを。


 殺気も何もなく、ただ近付いただけであったから策にはまったのか。単純な策だが考えている。


「あなたは少々危険過ぎるので、我らがお相手することにした」


「あんたあの時、『活眼』を使ってたね」


 ユリは、タヂカが氣を放って桜の嵐を巻き起こしたのを思い出していた。


 あの間にこのイビは活眼の魔術を使い、こちらの力を推し量っていたのだ。


「やはり、気付いていたか。大鉄扇に緋色の髪を振り乱し、炎を狂い咲かせるはまるで鬼。ナンヨウの退治屋『火狂いの鬼ユリ』だったか? 流石だ」


「へえ、テイワの副将さんにまでその通り名が知れてるのかい。アタシも有名人になっちまったもんだ。でも・・・・その名、嫌いなんだよねぇ。化物みたいだろ?」


 ユリは大鉄扇を腰から抜いた。


「アタシは、乙女だよ」


 見得を切ると共に、ユリは大鉄扇を大鳥の羽が如くバサリとそれを広げて見せた。


 周囲から身構える衣摺れが巻き起こった。怒気が漏れ出してしまったか。この程度でも普通の兵なら怯えさせるには充分か。


「怖い怖い。やはり、私の見立ては間違っていなかった。ここで鬼ユリを殺し、その間にタヂカ将軍に余興を楽しんで頂く」


 ユリはギラリとイビを睨み付けた。


「なるほど、やっぱりそういうことかい。あのタヂカは三日なんて刻限、はなから守るつもりなんてなかったんだね」


「いや、守るさ。牛頭との戦いはな。その前に退屈せぬようあの一族、特にあの堕龍人の餓鬼でお遊びするおつもりだ。それにはあなたが邪魔だった」


「これは遊んでいる暇はないようだねぇ」


 ユリは身構え深い呼吸を始めた。氣法一の輪が結ばれる。


 テイワの兵達が各々武器を構える。


 イビの周りに鈍い光が集まっていった。練魔か。何の魔術を放つつもりだ。どちらにせよ、放魔を潰すスキは無さそうだ。


奮血(ふんけつ)(さん)


 鈍い光が兵達に拡がっていった。途端にその目の色が変わった。そこから感じる氣の流れも力強くなる。


 奮血か。体内の血流を上げ、身体の力を増進させる魔術だ。氣法に比べればその効果は小さいが、これだけの人数に施されれば厄介だ。


 しかし、五百を超える人数に対してその術を、あの短い時間で練り上げ放つとは。流石は一国の副将だ。


「かかれ!」


 イビの号令で兵達がユリに向かって一斉に突進する。


 ユリは大鉄扇で自分の頬と口元を隠した。鏡を見ずとも分かるくらいに、歪んだ笑みを浮かべていたからだ。


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