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時薬
「時薬という言葉を聞いたことはあるか? 悲しいことやつらいことがあっても、過ぎてゆく時間がいつか癒してくれる……そのことを薬に例えてそう言うのだそうだ」
「初めて聞いたわ。時薬か……なかなか洒落た言葉ね」
「うむ。そしてその言葉に感銘を受けて作った、俺のための時薬がこれだ」
「砂時計!? ず、ずいぶんと大きいわね……」
「ひっくり返す必要なしに朝から夜まで砂が落ち続けるシロモノでな。そのためにこれくらいのサイズが必要だったんだ」
「そ、そうだったの……でもなんで砂時計があなたにとっての時薬なの?」
「さらさらと落ちていく砂を眺めるだけで、心が癒される気がするんだ。ちょうど、焚き火のゆらぐ炎を眺めるようにな」
「なるほど、確かにリラックス効果はありそうね」
「だろう? いろいろとつらい時は、これをただ眺めて一日を過ごすんだ……」
「……私もいつか借りる機会があるかもしれないから、その時はよろしくね……」




