とおりゃんせ
誰もが一度は聞いたことがあるであろう、童謡の「とおりゃんせ」。不気味な感じがしないだろうか。僕の住んでいる町にはとある噂がある。町、というか具体的にはこの町の駅の改札だ。
初めてその噂を耳にしたのは僕が小学生の時だった。
とある男性が通勤のため、いつも通り改札を通ったそうだ。ちょうど改札を抜けたとき、男性の耳にある歌が聞こえたという。
とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちっと通してくだしゃんせ
小さな女の子がクスクスと笑いながら歌っているような声だったという。
誰かの携帯電話の着信音か、構内BGMか何かかと思ったが、やけに耳元ではっきり聞こえたという。少し不気味に感じたものの、たいして気にも留めず男性は歩みを進めた。
男性はその日、会社の階段から足を滑らせ、全治2か月の怪我を負った。
階段から落ちて苦しんでいたとき、耳元で女の子の笑い声が聞こえたらしい。
またある時、僕が中学生になった時だったかな。今度は女子高生が改札であの童謡を聞いたらしい。一緒にいた友達には聞こえなかったという。さらに彼女には一瞬、狐がスッと通るのを見たらしい。その狐は駅の隣にある神社の方角へ走っていった。
彼女はその日、工事現場の事故に巻きまれ、1週間意識を失うことになった。意識を失っている間、彼女は狐が女の子の声で笑いながら自分の周りを走っている夢を何度も見たらしい。
彼女は目が覚めてから入院中にネットでこの体験を書き込んだ。すると、何人もの人があの駅の改札で「とおりゃんせ」を聞いたという。
あれは女の子だった。
いや、男の子だよ。あの後怪我をして大変だった。
子供が複数いた。私なんか病気になった。
狐だよ。隣の神社にいるお稲荷さんじゃないか。
狐がいろんな姿に化けて悪戯してるんだよ。
様々な書き込みがされたが、どれが本当かわからない。どれも本当かもしれない。
ただ一つ言えることは、僕はその噂を信じざるを得なくなったということ。だって、僕にも改札を通った時にあの歌が聞こえたのだから。そして今病院のベッドでこの話を書いている。
あなたも「とおりゃんせ」が聞こえた日はお気を付けて。