7.月にセレナーデ
ご無沙汰しております。久々すぎて拙い作品がさらにお見苦しくなっているかとは思いますが楽しんで頂ければ幸いです
あるところに一人の若者がいた。
彼は幼い頃から星空を見ることが好きで、何より月が大好きだった
月の出ている夜は欠かさず空を見上げては月見を楽しんでいた
そんな彼の月への憧れは年月とともに変わっていき、大人になった頃には彼は月に恋をするようになっていた
だが彼がどれほど恋い焦がれても、たとえどんなに高いところで手を伸ばしても、その手は決して月へと届く事はない
しかし彼は諦めなかった
「手が届かなくても歌ならきっと届く!」
そう考えた彼はその日から音楽を勉強し始めた
こうして再び年月が過ぎ去り、今日彼はいよいよその思いを打ち明けるべく夜空に浮かぶ三日月を見上げていた
歌うのは彼が作曲した月へ捧げるセレナーデ
この日のために磨いた歌声が秋の夜空に静かに溶けていく
奏でる音色もまたひときわ美しく彼の努力を表していた
だが恋は盲目と人は言う
彼が自分の気持ちを伝える事ばかりを考えて相手の事を知ろうとしなかったのは盲目ゆえだろうか
私は知っている
月には二面性があることを
私は彼にそれを伝えるべきなのだろう
そう考えて立ち上がった時、誰かが彼の元へ近づいて一言二言話しかけた
すると彼は歌うのを止め、気まずそうに舌を出している
恐らく彼は教えられたのだろう。月には二面性があることを
夜空に輝く月には二つの顔があるという
満月の時にはすべてを優しく包み込む女性の顔が、三日月の時には静かに眠りを見守る男性の顔になると昔から言われている
今宵は三日月
すなわち彼は愛する彼女にではなく彼氏に愛を捧げていたことになる
さすがの彼でもどうやら男性を恋人にするつもりはどうもなかったようだ
こうして満月の夜にはどこからともなく聞こえてくる美しいセレナーデが街の人々にとっての子守り歌になったのだった
今回のエピソードは今年、久々に訪れた野坂オートマタ美術館で行われた特別展示の『月にセレナーデ』の解説から着想を得ました。細かい所でご指摘があるかと思いますが創作の際に変更が加えられたのだとご理解くださいませ