表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

6.七首村連続殺人事件

まゆゆ

「お次は『七首村連続殺人事件』ですか」


リーサ

「そうです。リーサと堂林凛三郎が登場した、シリーズ史上の最高傑作といえましょう」


まゆゆ

「はいはい、それはともかく、この作品で、作者は如月恭助シリーズとしては初めて、一人称の文体を用いていますね」


リーサ

「ワトソン博士の文体です。読者は語り手の目を通して、事件現場が説明されることになります」


まゆゆ

「作者は、『人狼ゲームシリーズ』では全作品を一人称で書き上げていますし、ほかにも、『あざみ館の三姉妹』や数々の短編でも一人称を多く用いています。基本的に一人称が好きみたいですね」


リーサ

「こと本格ミステリーにおいては、三人称よりも一人称の方が、作者にとって断然有利に作用しますからね。語り手の主観は、条件次第では、虚偽となっても許されますから」


まゆゆ

「ではあらためて、今回のテーマはなんでしょうか?」


リーサ

「はい、タイトルにもある連続殺人事件が、本作のテーマです」


まゆゆ

「連続殺人事件とね。複数人が死んでしまった事件って、これまでの如月シリーズではなかったですか?」


リーサ

「いえいえ、いっぱいありますよ。『白雪邸殺人事件』、『小倉百人一首殺人事件』は、被害者が二人いましたからね。でも、今回は、二人なんてものじゃないんです! 次から次へと、ばったばったと、人が殺されていくんですよ」


まゆゆ

「ひぃえー、なんすか、その、無責任、無秩序、無鉄砲なるシチュエーションは?」


リーサ

「アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』や、横溝正史の『八つ墓村』などの名作が、本作のモデルとなっています」


まゆゆ

「なるほど、たしかに犯人からの犯行予告状や、見立て殺人、閉鎖的な村、大きなお屋敷、鍾乳洞、など随所に美味しいところをパクりまくっていますね」


リーサ

「パクるとは人聞きの悪い。もはや、このレベルの状況設定は、ミステリー業界の当たり前スタンダードといえましょう」


まゆゆ

「そして、文章のほとんどが一人称文体ですが、ところどころで、一時的に三人称文体を用いる、いわゆる『挿話――この章は堂林凛三郎の手記にあらず』の章も、見事に効果を発揮していますね」


リーサ

「『ABC殺人事件』でクリスティ女史が編み出した、画期的な手法です」


まゆゆ

「これによって、語り手が知るはずのない事実も、読者へ伝えることができるのですね」


リーサ

「さらに、たくさん人が殺される必然で、文章が長くなる、といってしまえばそれまでですが、本作は作者もびっくり初体験の、二十万字越えを達成しています!」


まゆゆ

「そんなに長いと、読んでいて間延びしてしまいませんか?」


リーサ

「そうでもありませんよ。もちろん作者の文章技巧力が至らぬ点は多々ありますが、内容的にはまったく削る余地のない、非常に濃い中身となっています。作者の筆力を考慮すると、本作は、ある意味、奇跡的な完成度を達成しているといえましょう」


まゆゆ

「削る余地がないですって……?」


リーサ

「とにかく、いたるところで伏線のオンパレードですからね。読者の皆さん、一字一句読み落とさないように、細心の注意を払ってくださいね」


まゆゆ

「長い文章なんですけどね……」


リーサ

「さて、舞台となる愛知県の奥三河地方ですが、冒頭で小説の舞台となる周辺図を掲載しています」


まゆゆ

「でも、あれって現実の地図をそのまま使用していませんか?」


リーサ

「はい。舞台となる七首村は、現在の新城しんしろ市の一地区からイメージしています。もともとこの地域は七郷一色ななさといっしき村と呼ばれる村があって、小説上の地名は実在のものを一部修正しながら使っています。たとえフィクションといえど、リアルの背景があることで、緊迫感が生まれますからね」


まゆゆ

「現実にあるゴルフ場を消して、ちゃっかり龍禅寺を書き込んじゃっていますね」


リーサ

「さすがにゴルフ場は、田舎らしい雰囲気をぶち壊してしまいますからねえ」


まゆゆ

「地図に書かれた七首鍾乳洞は、現実の世界にもあるのですか?」


リーサ

「いいえ、残念ながら。でも、この辺りは鍾乳洞があっても、ちっともおかしくない地区なんですよ。隣町の浜松市の引佐地区まで行けば、『竜ヶ岩洞』という立派な鍾乳洞がありますから」


まゆゆ

「事件現場となった滝は、実在するみたいですね。現実の世界では『阿寺の七滝』と呼ばれているそうです」


リーサ

「この雰囲気満載の魅力的な舞台を、本作を書くに当たって、作者は三回も訪問したらしいですね」


まゆゆ

「百聞は一見にしかず、といいますからね。作者にとっては貴重な体験だったそうですよ。

 ところで、本作で、作者が特に表現したかったものは、何かありますか?」


リーサ

「いろいろありますねえ。まずは、閉鎖的な田舎の村の独特な雰囲気を、うまく書きたかったみたいですよ」


まゆゆ

「『八つ墓村』のように、おどろおどろしく耽美的な雰囲気ですね」


リーサ

「まず作者が気を使ったのが、六条家の豪邸の記述です」


まゆゆ

「ここをチャラい描写で済ませてしまうと、最後まで読みたいという読者の意欲が、一気に失せてしまいますからねえ。まさに勝負どころです」


リーサ

「第五章の『阿蔵の六条家』が、問題の場面シーンですね。

 まず、登場人物に方言をしゃべらせることで、雰囲気作りから試みました。方言は、ネットで検索を繰り返しながら、地味に言葉を置き換えていくのですが、コツをつかむまでかなりの時間と労力を要します。舞台となった奥三河地方ですが、愛知県と静岡県の県境にある部落ですから、愛知県の三河弁をベースに、静岡県の遠州弁も折り混ぜながら、会話文を考えたそうですよ。

 六条家のお屋敷は、作者の祖母の家をイメージしたということです。その祖母の家は新潟県の佐渡ヶ島にあるのですが、母屋の畳部屋とか、離れ屋敷や倉、納屋などの外部の建物など、作者が子供の頃に怖いと思った思い出が、そのまま書かれています」


まゆゆ

「部落の地主の屋敷を地区名で呼ぶ風習も、佐渡ヶ島でのものを参考にしているみたいですね」


リーサ

「さまざまな地方でそのような風習が残されているようですね。おかげで、いい雰囲気が小説に取り込めたと思います」


まゆゆ

「事件現場の記述も、まあまあの雰囲気が出ていますよね」


リーサ

「いろいろと言葉検索をしましたからね。防風林、雪見障子、石畳、竹林、三和土の土間、達磨ストーブ、薪の束、古箪笥、鉈、井戸水、厠、等々をあらかじめメモに書き出して、それから文章を練る。とにかく苦心しました、というのは作者談です」


まゆゆ

「現場に残された足跡にも、古き良き時代のミステリーの味わいを感じさせますね」


リーサ

「『アクロイド殺人事件』で現場に残された足跡が事件解決の手掛かりとなりましたよね。作者はその作品で使われていた『編上げ靴』という言葉を、どうしても使いたかったみたいですね」


まゆゆ

「ひも付き長靴のことですね。女性用ならブーツですけど」


リーサ

運動靴スニーカーと比べると、雪道に特化した靴といえましょう」


まゆゆ

「話は変わって、語り手の堂林が宿泊した龍禅寺の床の間に置いてあった四つ折り屏風ですけど。あれって、あれですよね?」


リーサ

「はい。いわずと知れた横溝正史の名作『獄門島』で出てきた、あれです!」


まゆゆ

「あれということは、つまり……」


リーサ

「まあまあ、その辺りを突っ込むとネタバレになりますから、軽く流しておきましょう」


まゆゆ

「ほかに作者が心がけたことは、何かありますか?」


リーサ

「そうですね。本作のヒロインとなる蓮見千桜の描写ですかね?」


まゆゆ

「作者は、とにかく美人を小説に登場させるのが好きなんですよね。たしかに、如月シリーズでは、毎回必ず、美人が登場します。

 そして、本作の美人ヒロインは、蓮見千桜と……。それに関して、何か苦労談でもあるのですか?」


リーサ

「千桜は小学生です。でも、小学生の美人って、ちょっと矛盾していますよね?」


まゆゆ

「まあ、読者が少女趣味ロリコンならイチコロでしょうけど、通常ノーマルな性的嗜好の持ち主ですと、ちょっと抵抗がありますね」


リーサ

「それに、読者には女性もみえますし、すべての読者にある程度の存在感を持つ美少女の創作ということで、これには作者も相当に悩まされたみたいですね」


まゆゆ

「素直で性格のいい子にしちゃえば、それでOKじゃないですか?」


リーサ

「作者が求めたのは、千桜に対する『共感』ではなくて、『性的魅力セックスアピール』なんです」


まゆゆ

「むむむっ……。それはちょいと無理というものですよ。

 性的魅力を要求するのなら、せめてヒロインを高校生くらいにはして欲しいですね」


リーサ

「でも、今回はなんとしても小学生の美少女が欲しかったので、作者はあえてこの難題に挑戦してみたというわけですね」


まゆゆ

「それではいったい、どのような工夫をこらしたのでしょうか?」


リーサ

「まず、千桜を登場させる前に、住民たちにうわさ話をさせることで、彼女のイメージ造りを始めました」


まゆゆ

「城を攻めるのに、まずは外堀から……、といった感じでしょうか?

 そういえば、第十章の『挿話』で、タタタンとか、千桜が弾くピアノの擬音が記されていますけど、肝心の曲名が記されていませんよねえ」


リーサ

「あれは作者のちょっとしたお遊びですね。音だけから、曲名が分かりますか、という」


まゆゆ

「そんなの無理ですよ。分かるわけがありません!」


リーサ

「そうでしょうか? 答えは、十二章で堂林の口から語られますけど、案外、十人の読者がいたら、一人、二人、正解者がいるのではないかと、作者はひそかに期待をしているそうです」


まゆゆ

「まあ、それはともかく、千桜の話でしたよね?」


リーサ

「そうですね。小学生の美少女を創り出すために作者が用いた手法は、登場人物からの間接的な賛美のほかに、千桜を特別に頭のいい才女とすることで、そこから発せられる高貴なオーラを期待しました」


まゆゆ

「直接本人のことを絶世の美少女だと讃えまくるよりも、間接的に高貴な雰囲気を醸し出す方が、たしかに効果的かもしれませんね」


リーサ

「さらには、今回はいままでのシリーズ作品よりも生々しい性的描写が多く書き込まれています。これも美少女を讃える目的に一役買っていますね」


まゆゆ

「エロティシズムってミステリーと案外相性が良いのですよね。この頃から、作者は作為的に官能的な描写を使用するようになっていますね」


リーサ

「そんなこんだで、第十六章『落ち武者伝説』にて連続殺人の見立ても解明され、いよいよ物語は核心へと入っていきますね」


まゆゆ

「この辺りでは、名作のパクりキーワードもふんだんに登場しますね。

 『逃げ水の淵』は、横溝正史の『真珠郎』からだし、『魔女の隠れ家』は、ディクスン・カーの同名の長編小説があります」


リーサ

「いずれも、不気味な雰囲気を伴った素敵な言葉です」


まゆゆ

「そして、満を持して、恭助さんの登場ですね」


リーサ

「はい。リンザブロウさんのつゆはらいとして、せいぜい活躍してもらいたいものですね」


まゆゆ

「そういえば、堂林と恭助さんの間で、さっそく火花が飛び散っていませんでしたか?」


リーサ

「気のせいじゃないですか? まあ、似た者同士といってしまえば、それまでですけど」


まゆゆ

「恭助さんが捜査陣に加わって、事件は一気に解決へ向かいます。そんな中でも、第二十六章の『辺境の一軒家』では、事件解決のカギを握る需要な手掛かりが満載ですから、読者の皆さんはくれぐれも注意しながら読み進めてくださいね」


リーサ

「そして、いよいよ解決編が近づいてきて、事件の根深いところにうごめく恥部が、徐々に見えてきます。謎が謎を呼んで、これまでの作品にはない、複雑で壮大な様相を呈してきます。

 そんな中の『読者への挑戦』。さあ、シリーズ屈指の難問がやってきました! 読者の皆さんは、意外な真相を、果たして解くことができるでしょうか?」


まゆゆ

「意外な真相といいましたけど、いったい何が意外なのですか?」


リーサ

「そうですね。いろいろありますけど、本作は、ずばり『意外な犯人』ですね」


まゆゆ

「『意外な犯人』って、ミステリー業界の永遠のテーマですけど、いいんですか? 簡単に意外な犯人などといっちゃって」


リーサ

「さあ、どうでしょうか? だんだん自信がなくなってきましたけど、まあ、その判定は読者の皆さんにおまかせするとして、本作の解決編は五章もありますから、二転三転して、実に読み応えがありますね」


まゆゆ

「ということで、シリーズ屈指の傑作『七首村連続殺人事件』。

 どうぞ、最後まで存分にお楽しみくださいませ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ