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3、宗谷本線秘境駅殺人事件

リーサ

「お次は第三作目となる『宗谷本線秘境駅殺人事件』ですね」


まゆゆ

「単なる宗谷本線殺人事件ではなくて、秘境駅というキーワードがわざわざ入るのですね」


リーサ

「『宗谷本線殺人事件』というタイトルは、十津川警部シリーズでおなじみの、トラベルミステリーの巨匠、西村京太郎が書いた長編小説で、すでに使われてしまっているんです。

 かといって、『秘境駅殺人事件』としてしまうと、今後どなたかがこのタイトルで作品を発表して競合してしまうかもしれません。さあ、どうしましょう、と悩んだ末に作者は、両方を合体させるという、極めて安易な選択を決断したみたいですね」


まゆゆ

「今回の主人公は青葉先輩ですね。この作品のおかげで、先輩の容姿や仕草の特徴がよく分かるようになりました」


リーサ

「前回登場した『白銀の密室』の時の彼女は、ほとんど個性というものがありませんでしたからねえ」


まゆゆ

「それをいうなら、恭助さんだって『白銀の密室』の時には、毒舌も吐かない普通の好青年に描かれていました。実際、彼の本性が暴露されたのは、次作の『白雪邸殺人事件』になってからなんです。

 いいかえれば、第一作執筆時には、作者の力不足ゆえ、この二人の人物像がきちんと確立できなかったということですね」


リーサ

「まあ『白銀の密室』を書き終えた時には、作者は単発短編のつもりで公開したそうで、連載シリーズにする着想は、みじんもなかったみたいですよ。

 『白雪邸殺人事件』の受けが思ったより良かったから、それでシリーズ化に踏み切ったということです」


まゆゆ

「ところで本作ですが、章ごとのタイトルが宗谷本線に実在する駅名となっていますよね。

 というか、ぶっちゃけ、本作の前半部ってミステリーになっていませんよね?」


リーサ

「まあ、どちらかといえば、宗谷本線の乗り鉄(鉄道に乗りながら風情を楽しむオタクたちのこと)のために用意されたガイドブック的内容です」


まゆゆ

「しかも視点が秘境駅ばかりに向けられていて、通常の観光目的の旅行者の要望を完全に無視した、無用の長物的なガイドとなっていますよね」


リーサ

「秘境駅が好きな方には、マニアックなマル秘情報が満載なのですけどねえ。

 特に、智東駅の通信機器室の前を列車が通過する時の描写なんて、作者の気合が思い切り込められていますよ」


まゆゆ

「残念ながら、ほとんどの読者には、なにがいいたかったのか意味不明だったようですね。無理もありませんけど、この小説が執筆された二〇一四年は、秘境駅ブームがちまたにまだ浸透していなかったそうです。

 それでも書かれてしまった本作は、作者の意地と執念と自己満足が凝縮したエゴイスティック・エンターテイメントとでもいうべきものですね。ご愁傷さまです」


リーサ

「さて、本作は三部構成になっていますよね。旅情編と、捜査編と、解決編の三つですけど」


まゆゆ

「旅情編では、青葉先輩が宗谷本線に乗り込んで、旭川から稚内までの列車旅を満喫する内容になっています。捜査編では、青葉先輩と同じ列車に乗っていた乗客の一人が殺害されてしまい、その捜査のために、いよいよ恭助さんが舞台へ登場します。そして、最後の解決編で、恭助さんの名推理が披露されるわけですね。

 でも、全編が二十三章なのに対して、旅情編は十五章も占めていますよね。その間、ひたすら秘境駅に関する作者のうんちくを無意味に語られまくって、ミステリーを期待する読者にとっては、本作は極めてはた迷惑な構成となっていますよねえ」


リーサ

「ご心配にはおよびません。実は、事件を解決するための重大な伏線が、旅情編の中にさりげなく隠されているのです。そして、解決編を最後まで読んだ時、ああ、あの記述だったのかと、その伏線に読者が気付くようになっているのです」


まゆゆ

「では、いよいよ事件の解説に入りましょうか」


リーサ

「被害者の男性が殺されたのは、日本屈指の秘境エリアを突っ走る宗谷本線の中でも、究極の秘境ゾーンに属する安牛駅のホームです。

 なにしろここは、糠南駅、雄信内駅、安牛駅、南幌延駅、上幌延駅という、全国でもここしかない、五連続で秘境駅が並ぶエリアで、安牛駅はそのちょうどド真ん中の駅に当たります」


まゆゆ

「安牛駅って、九州の宗太郎駅と並んで、現在、全国でももっとも廃止にされそうな駅だそうですね。いつまでも駅として存続してもらいたいものです。

 ところで、今回の被害者はどのようにして殺されたのですか?」


リーサ

「ナイフのような刃物で、ずたずたに刺されまくっていたそうです。そして、衣服にはおびただしい血痕が……」


まゆゆ

「まあ、素敵……。じゃなくて、恐ろしい……」


リーサ

「後日鑑定で調べた結果、被害者の刺し傷は十二か所もあったそうです」


まゆゆ

「十二カ所ですって? それって、もしかして……」


リーサ

「そうです。かの有名な名作『オリエント急行殺人事件』のパクリですね」


まゆゆ

「わざわざそのような手間を、犯人が掛けた理由があったのですか?」


リーサ

「それについては、解決編でばっちり説明がありますよ」


まゆゆ

「まさか、殺人トリックまで名作をパクってはいないでしょうね?」


リーサ

「それは大丈夫です。あくまでもシチュエーションとして使用させていただいています、と作者は例のごとくのマンネリ化した言い訳をしていますね」


まゆゆ

「ところで、本作の犯人って、たぶんあの人ですよね?」


リーサ

「その通りですよ。本作は、フー・ダニットとホワイ・ダニットはさほど重要ではありません」


まゆゆ

「じゃあ、なにを読者へ挑戦しているのですか?」


リーサ

「ハウ・ダニットです。実はこの犯人には鉄壁なアリバイがあるのです。本作のメインテーマはずばり、『アリバイ崩し』といえましょう!」


まゆゆ

「なるほど。『アリバイ崩し』といえば、『密室殺人』と並んで不可能犯罪を創造する、推理小説の魅力的な二大テーマですよね」


リーサ

「そういうことです。それではみなさま、列車ミステリー『宗谷本線秘境駅殺人事件』を、どうぞご賞味ください」


まゆゆ

「本作において、作者がミステリー以上に主張をしたかった宗谷本線の秘境駅に関する記述も、合わせてご堪能くださいね」

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