1.白銀の密室
リーサ
「『白銀の密室』は、如月恭助シリーズの記念すべき第一作で、作者が最初に手掛けたミステリー作品ですね」
まゆゆ
「恭助さんが登場する作品って、シリーズ化しているんですか?」
リーサ
「そうです。しかも、全作品に読者への挑戦状が付いていて、純粋に謎解きを楽しんでいただける趣向になっているんですよ」
まゆゆ
「まさに至れり尽くせり、といったところでしょうか」
リーサ
「そして本作のシチュエーションですが、いたってシンプルでして、被害者は美人の独身生保レディ、その彼女が血まみれとなって死んでいたのが、雪が降り積もったテニスコートのど真ん中。現場に残された足跡は、被害者自身のものと、被害者の遺体付近を往復している遺体発見者のものだけでありました。
遺体の発見者は医学生で、おまけにこいつが被害者の元カレと来ていますから、どう考えたって犯人はこいつに決まり!」
まゆゆ
「そうでなければ、犯人は足跡を残さずに被害者を手にかけたことになってしまいますからねえ。まあ、決定的といえるでしょう」
リーサ
「ところがどっこい、その医学生には鉄壁のアリバイがあったのです!」
まゆゆ
「なんですか、その死語となった言い回しは……。じゃなくて、鉄壁のアリバイって?」
リーサ
「被害者は七時四〇分に携帯電話で、元カレの医学生に電話をかけていたのです。そして、その電話を元カレが自宅で応対するのを、元カレの新カノジョが目撃していたのです」
まゆゆ
「ややこしいですねえ。要するに、被害者が電話をした七時四〇分に、最有力容疑者である元カレは、自宅で電話の応対をしたってことですね。でも、それがどうかしたんですか?」
リーサ
「どうしたも、こうしたも、警察が調べた被害者の死亡推定時刻が、七時半から八時までの三十分間だったのです。そして、医学生の自宅から、事件現場のテニスコートへ行くまでは、少なくても二十分はかかってしまうのです。つまり、物理的に殺人が不可能なんですよねえ」
まゆゆ
「な、なんですか、その取って付けたような不自然極まる死亡推定時刻は――。いかにも推理小説のご都合主義に負けてしまったかのような……」
リーサ
「それについては、作者は何もいい返せないみたいですね。初めてのミステリー作品ゆえ、どうか大目に見てあげてください、とのことです」
まゆゆ
「なるほど、現場に残された足跡は、被害者と容疑者のものだけ。なのに、容疑者には鉄壁のアリバイがあった……。
ってことは、ちょっと待ってくださいよ。犯人がいなくなっちゃうじゃないですか?」
リーサ
「そうなんです。それこそが、この作品のメインテーマなんです。だから、この事件を解決するためには、足跡を残さずに、どうやって犯行が実行できたのか、という一点の謎解きに絞られてしまっているのです!」
まゆゆ
「そういう意味では、本作は、密室で行われた犯行となるわけで、いいかえれば、密室トリックさえ解いちゃえば、事件が解決するってことですよね」
リーサ
「その通りでございます」
まゆゆ
「そういえばこの作品は、解答編で表解と裏解の二つが用意されていましたよね」
リーサ
「おや、よく気が付きましたね? 表解はオリジナルですけど、裏解は歴代の名作のトリックをちゃっかり使用させてもらっています」
まゆゆ
「ディクスン・カーの『帽子収集狂事件』と『白い僧院の謎』ですね。いずれも歴史に名をとどろかせる名作です」
リーサ
「『帽子収集狂事件』のトリックは、あまりにも有名になり過ぎてしまって、古今東西のあらゆる作家が使用する、推理小説史上最高に偉大なトリックですね」
まゆゆ
「著作権も全く無視なんですね……」
リーサ
「なんでも作者は、本作の解決編を準備している最終段階で、ようやくこの裏解の存在に気付いたらしくて、あわてて裏解つぶしに翻弄したみたいですよ」
まゆゆ
「ああ、だから解決編で、あのいかにも取って付けたような『隣人のごみ捨て証言』が発令されていたんですね。
あれじゃあ、青葉先輩が怒るのももっともで、読者への挑戦とうたっておきながら、読者を裏切る冒涜行為と受け取られてしまっても、なにも言いわけできませんよね」
リーサ
「その件に関しては、作者はまったく弁明することができず、初めてのミステリーだから、どうか大目に見逃してやってください、との憐れなるコメントを残していましたね」
まゆゆ
「裏解の方が表解よりも美しいだけに、残念な行為でしたね。作者には十分なる反省をしてもらいたいものです」
リーサ
「まあ、それはともかく、みなさん。記念すべきシリーズ第一作を飾る『白銀の密室』。難易度レベルは二つ星です。見事に解決しちゃって、作者をぎゃふんといわせてやってください」
まゆゆ
「またも死語となったおやじギャグできましたね。あなた、本当に五歳なんですか?
それはともかく、『白銀の密室』は、文字数も二万字に足りていませんからね。なにより、シリーズ屈指の読みやすさが自慢の作品です。どうぞ、お楽しみください」