第一話 ニコ村
新暦1990年。
都から300キロメートル離れた辺境のニコ村。
少年は、いつもより早く目覚めた。窓辺から射し込む朝日と小鳥のさえずりが心地よい目覚めへと導いてくれる。
彼の名は、川根 輝人。輝人と書いて、テルト。ニコ村で育ち、都の騎士養成学校に通う16歳の少年。普段は寮に住んでいるが、現在は長期休みでニコ村に戻ってきている。
体をベッドから起こし、洗面所に向かう。顔を水で洗い、鏡に映る自分の顔をみる。黒髪に紫色の瞳。少し髪伸びてきたかな。
「あぁ、そうだ。今日はデインダに合わないと」
身支度を済ませ、テルトは家を出て友人の元へ向かう。
「おう、テルト」
「まだ朝ごはん食べてるの?僕なんて一時間以上前に食べたよ」
「まず、勝手に入るなよ」
そう言いながら、金髪の少年はパンを口に頬張った。
彼はテルトの幼馴染であり、共に騎士養成学校に通う17歳の少年。名はデインダ・ビックス。ニコ村で生まれ、母と二人で過ごしてきた。幼き頃にテルトがこの村に越してきた時から、ずっと共に過ごしている。
「せっかく村に帰ったんだから、なんかこう、大きいことしたいよな」
「大きいことてなんだよ」
「わっかんね」
「馬鹿だな」
デインダが笑みをこぼすのに対し、テルトは満面の笑みを見せる。
いつもと変わらない日々。平和な日々。二人にとっては、当たり前の日常。そんな日常が、一人の男の訪問によって大きく変えられることは、いまの二人には知る由もない。