序章 〜Prologue〜
その昔、地球と呼ばれたはずの星は、別の何かとなった。
オーバードライブ。
文字通り世界を揺るがしたその天変地異は国を沈め、海を干からびせ、そして新たな大地と海を創造した。人々は新世界に困惑するが、時の流れは彼らに受け入れる時間を与えた。バラバラだった人々は新たな世界を新暦と名付けた。
そして、新暦1980年。
「はぁ・・・はぁ・・・」
空が雲で暗く澱んでいる。俺はいま、青空を見たい。だが、そのささやかな願いは神様に聞いてもらえそうにない。
「快人!お前・・・こんなに血が出ているじゃないか!」
誰かが呼びかけてくる。しかし、視界が滲んで誰が近づいてくるのか良く見えない。あれは、赤い目だ。あぁ、お前か。
「紅蓮じゃないか。まだくたばってなかったのかよ」
「ばか言うなよ。どっちが先にくたばるかの賭けは忘れてないからな」
紅蓮が俺の腹部を両手で押さえてきた。彼の両手があっという間に赤色に染まっていく。
痛みなんか、とうの昔になくなった。あるのは寒さ。体が震える。体のいたるところから血が流れていく。左足の感覚がない。よくわからないが、俺の左足はもうなくなってしまったようだ。
「まだ、終われない。戦いはまだ、続いているんだ」
紅蓮が辺りを見回す。数えきれない数の戦士が剣を振り回し、弓を放ち、銃の引き金を引く。それに対抗するのは、獣としか言いようのない異形の者たち。獣人と呼ばれる、我々人間とは敵対する種族。彼らとの永遠とも思える戦を、今日終わらせる。
「紅蓮、手放せ。柄を握れ。剣を掲げろ。戦うんだ。信じる者のために」
俺の言葉に、紅蓮はハッと目を見開き、そしてかすかに笑った。
「ああ、そうだな。いこう、快斗」
紅蓮は俺の名前を、呼んだ。強く。
少し遠くに、剣が見える。俺の剣。共に戦ってきた相棒。
地を這いつくばって、剣の元に向かう。気のせいだろうか、剣が俺を呼んでいる気がする。光り輝いている気がする。
「届け・・・!」
必死に手を伸ばす。俺は、まだ倒れてはいけない。