和解
仕事が終わり、拓磨は人混みの流れに沿い、繁華街へと向かっていた。
昼休みに友也から連絡があり、近くの居酒屋で待ち合わせる事になったのだ。
店内に入ると、奥のテーブルに友也の姿があった。
こちらに気付くと、苦笑いを浮かべながら手を上げる。どうやら既に、一杯やっていたらしい。
「待たせたか?」
取り敢えずビールを注文すると、向かい側の椅子に腰を下ろす。
「いや、俺もさっき来たばかりだから」
「なんだ。だったら待っていても良いだろう」
軽く文句を言うと、友也は「別に乾杯なんかいらないだろ」と、少し気恥ずかしそうにぼやいた。
その時タイミング良くビールがきた。
「まぁ、それもそうだな。乾杯」
軽くジョッキを持ち上げると、一気に飲む。
「仕事の方はどうだ?順調か?」
23歳の友也は、まだ新入社員だった。拓磨とは違う業界だが、それなりに業績も知名度もある中小企業だ。
「てか、何で急に飲むなんて言い出したんだ?今まで一回もそんな事言ったことないだろう」
兄弟仲は悪くはないが、上京してからは多忙などの理由もあり、顔を合わせるのも久しぶりだった。拓磨はビールを飲み干すと、わずかに笑みを浮かべながら言う。
「実は、結婚するんだよ」
「えっ」
今まで互いにプライベートの話はしていなかった為、友也は目を丸くした。
「結婚?いつの間に彼女作ってたんだよ」
「会社の同期だよ。来週の休みに、取り敢えず父さん達に報告しに行く。その後両家の顔合わせとかもあるから、先に言っておこうと思ってな」
今日会社に行き、真っ先に優香に声をかけた。どうしてもと言うならば婚約破棄も仕方ない。
だが、どうしても理由を知りたいし、できる事ならば改善したいと。
彼女ももともと断固破棄と決めていたつもりではないらしく、すぐに話し合いになった。
「実は私――妊娠しているの」
その言葉に、拓磨はやはりなと思った。
タイミング的に、彼女が拓磨の隣人への態度を見て、結婚を考え直そうと思ったのはわかっていた。
やはり、拓磨の子供への意識や扱い方を見て、このまま結婚をして子供を育てていけるのかが不安になったのだ。
拓磨はすぐにその事を謝罪し、今までの『欠点』について改善を約束した。
そして無事に婚約は継続され、改めて来週の休みに拓磨の実家へ行くこととなったのだ。
「でもまぁ、良かったじゃん。俺にもちゃんと、義姉ちゃんを紹介してよ」
「あぁ。今度は優香も連れて、3人で飲もう」
笑みを浮かべると、なくなりかけたビールで、改めて乾杯する。
不思議と今でも、あの夢の記憶は継続され、鮮明に思い出せる。
きっとこれからもこの記憶は薄れる事なく、自分の子供が生まれてもずっと続いていくだろう。
あの光景は脳が見せたバーチャルではない。
理由はわからないが、全て生まれから自分が体で経験した、過去の『現実』なのだから。
終わり