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七章 火龍と不死者

「さて、ここでは町に被害がでるかもしれないから、少し遠くに離れよう。」

「う~ん。」

 ゼルムンドとリザを交互に眺めつつ、デラは腕を組んで考え込む。

「骸骨魔法騎士と、火龍か・・・

 アルフは、どっちがいい?」

「本気で相手をしてくれるのなら・・・

 ゼルムンドさんかなぁ。」

「わかった。

 それじゃ、わたしはリザママで。

 それで、いいかな?」

「ふむ。

 以前と比べて、我が体内の魔力の流れが円滑になったようじゃ。

 相当の魔力の使い手が相手でも、そうそう遅れを取ることはないと思うが・・・」

 火龍リグザールをして魔力の底が見えないと言わしめたデラは、その底なしの魔力を体内に巡らせることにより、身体能力を底上げし、防御能力を向上させている。

 また、体内で循環する魔力は感覚を鋭敏化し、反射速度や代謝速度を上げてもくれる。

「なるほど、かような技があったとは・・・」

 ゼルムンドが思わず声を漏らしたのは、アルフもデラと同様、魔力による身体強化を行っていたためだ。

 ただし、アルフはデラほど潤沢な魔力を持ち合わせてはいないため、デラの魔力を一部借りている。

 もちろんそれは、誰にでもできることではなく、デラの持つ潤沢な魔力、それを自分のものとして活用できるアルフの精神力、そして何より二人をつないでいる深い絆なしには不可能なことだ。

「体術に長けた魔術師と、魔力をまとった剣士であるか・・・

 確かに、どちらも相手に不足なしであるな。」

 人であることを辞めて久しいゼルムンドであるが、剣技の道を極めようとする衝動を止めることはできなかった。

 肉の身体を失い、友を失い、人との繋がりをほとんど失ってしまった今、ゼルムンドの中に唯一残されたものこそが、剣の道なのかもしれなかった。

 火龍の魔力の気配に、しばし思考が沸騰するような怒りの感情を抱いたものの、好敵手と呼べる程に高度な戦闘能力を持つ人間たちとの出会いに、ゼルムンドは、久しく忘れていた戦いの衝動が、ふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。

「それじゃ、ついてきてくださいね。」

 ゼルムンドとリザに声をかけると、アルフは砂漠地帯に向かって走り出す。

 ほぼ遅滞なくデラがそれに続き、さらにそれを追ってリグザールの巨体が空に舞う。

「ふむ。

 参るか。」

 最後に、ゼルムンドが足を踏み出した。

 そこにはもはや、火龍への恨みの心はない。




「この辺りにしようかしら。」

 トンと大地を蹴ると、デラの小さな身体が、空中にあるリグザールの背中に降り立った。

 周囲を見回すと、リンゴールの町並みが遠く霞んで見えている。

 戦闘で使用される魔法の種類によっては、とばっちりを受ける可能性はないわけではないが、恐らく今頃は、ヨンネによって町全体に防御魔法がかけられていることだろう。

「火龍炎の射程はもっと長いが、射線を逸らす程度であれば、問題はなかろう。」

「さて、それじゃ、はじめよっか。」

 言うなりデラは、リグザールの背中から飛び降りる。

 その際、重力加速の魔法を加味したのだろう、自由落下するよりも遥かに速度を上げて落ちてゆく。

 ズン・・・と、巨大な隕石でも落下したような衝撃が大地を揺るがす。

 程なく、小さな生き物達があちこちから顔を出し、デラのいる場所から離れるように逃げてゆく。

 周囲を見回しつつ、(デラにとっては)無害な小動物たちの避難が完了したことを見てとると、デラはおもむろにリグザールを見上げ、クイクイっと、手の平を自分の方に向けて挑発する。

「ふむ。

 面白い。

 ならば、我が火炎の威力を味おうてみよッ!」

 ほぼ予備動作無しに、リグザールの口元から火炎が放たれる。

 火炎と言うよりはむしろ、灼熱をまとった光線だ。

 ズズン!・・・と、先ほどデラが地面に降り立った時よりも、さらに質量感のある衝撃波が大気を揺るがす。

 火炎に舐められた地表は瞬時に溶解し、大地に紅い直線を穿つ。

 だが、つい先刻まで確かにそこにあった、デラの気配が感知できない。

(真下かッ!)

 一気に膨れ上がった魔力の気配が、足元から突き上げる。

 本能の命ずるままに、それを紙一重で避けるリグザール。

(何ッ?)

 デラの腕が、リグザールの角を掴み、クルリと廻る。

 避けることのできない蹴りが、リグザールの後頭部に叩きつけられる。

(うぐうッ!)

 生来的に高度な耐久力を持つリグザールではあるが、肉弾戦の経験はほとんどない。

 なぜなら、リグザールに近づこうとする者さえほとんど存在せず、さらに、接触できるところまで接近できた者は、ほぼ皆無だったから。

(強いッ!)

 ドラゴンの末裔であるという矜持(きょうじ)は、一瞬で砕け散った。

 前のめりになる勢いそのままに、リグザールの巨体が地面を転がる。

 同時に、デラの気配に向かって、長い尾を叩きつける。

 しかし、それは空を切り、ふたたびリグザールはデラを見失った。

 一方、デラは、

(すごい、すごい、すごいッ!)

 通常、体の大きい生き物は動きが遅い。

 ネズミは小さくて動きが速く、ウシは大きくて動きが遅い。

 ただしそれは、持って生まれた身体能力のみを考慮した場合だ。

 魔力を持つ者は、デラやアルフのように、身体強化ができる可能性がある。

 とは言え、身体強化を使いこなすためには、持って生まれた素質に加え、少なからぬ鍛錬が必要だ。

 ドラゴンのように、元々高度な身体能力と魔力を持つ者が、地味な鍛錬に勤しむとは思えないので、それを使えるリグザールには、天賦の才があるのだろう。

(でも、それだけにもったいない!)

 身体能力にすぐれ、無限と思える程の魔力を持ち、さらにはそれを使いこなす天賦の才に恵まれたドラゴンが、鍛錬によってそれを極めたとしたら、いったい、どれほどの強さに至るであろうか?

 ゾクリ・・・と、デラの心の(うち)に、恐怖とも歓喜ともつかぬものが湧き上がる。

(背中かッ!)

 振り返るリグザールは、中空に浮かぶデラがまとう、妖気にも似た気配を感じ、動きを止めた。

(笑っている?)

 毒気を抜かれたリグザールに、デラは微笑を浮かべたまま語りかける。

「このままでは、埒が明かないわ。

 お互いに、最強の技で勝負をつけない?」

「了解した。」

 リグザールの返事が耳に届かないうちに、デラは小さな声で詠唱を始める。

 デラの周囲を、魔力が巡る。

 迎え撃つリグザールもまた、体内に魔力を収束させてゆく。

 しばしの静寂。

(!)

 デラの瞳から、気合が放たれる。

 リグザールの裡に満たされた魔力が、開放される瞬間を待つ。

「はッ!」

 デラの足が空中を蹴り、瞬時に見えなくなる。

 リグザールの視力をもってしても見切れない程の速さだったが、強大な魔力の気配を感じそこなうことはない。

 リグザールは、万全の準備をもって待ち受ける。

「いっくよッ!」

 リグザールのはるか上空で、何もない空中を蹴り、デラは反転した。

 蹴りの初速に重力、そして魔法による加速が加わり、あっという間にリグザールに迫る。

「やぁッ!」

「むんッ!」

 両腕を交差して、リグザールの頭部を目指すデラと、必殺の火龍炎を放つリグザール。

 双方の思念が交錯する。

 ズン!と、鈍く、重々しい衝撃が大気と大地を震わせる。

 ついで、リグザールの巨体が、ゆっくりと大地に倒れてゆく。

「何ッ?」

 離れたところでアルフと剣を交えていたゼルムンドが、思わず声をあげた。

「やったか!」

 アルフの視力は、リグザールの近くに落ちてゆくデラの姿を捉えていた。

 身体強化と身体防御の重複詠唱に、高速飛行、飛行制御、重力制御の魔法を行使した上でなお、アルフへの魔力供給は続いている。

 この状況下で、デラの敗北はあり得なかった。

「それじゃ、こちらも決着付けないとな。」

 そう言うとアルフは、片手で剣を持ち、もう一方の手の平で、刀身をなぞる。

 なんの変哲もない筈の両刃剣が、仄かに光を帯びている。

「うむ。

 しごくありふれた鋼の剣に、魔力をまとうか・・・」

「さすがですね、ゼルムンドさん。

 それでは、行きますよ!」

 言葉とは裏腹に、アルフの瞳は半ば伏せられ、剣を構える腕は胴体の後ろに廻されている。

 ゼルムンドは、その構えの意味に気づいていた。

(極限まで感覚を研ぎ澄まし、全力を切っ先に集中して、後の先を取る・・・か。

 これは、うかつには動けぬ。)

 肉をまとう身であれば、冷たい汗が背中を流れ落ちていたであろうが、ゼルムンドは、わずかに骨を軋ませたのみだ。

 一方、アルフは、ゼルムンドの所作(しょさ)を観察しつつ、魔力の集中を高めてゆく。

 表面的には静かな表情を保ってはいるものの、デラから送り込まれてくる暴力的なまでの魔力を抑え続けるという状況は、アルフの精神力を少しずつ損なってゆく。

 いったい、どれ程の時間が過ぎたのだろうか。

 今が昼なのか、夜なのかさえ定かでなくなった頃、ゼルムンドの身体が、僅かに揺らいだ。

 瞬間、交錯する、剣と剣。

 崩れ落ちたのは、ゼルムンド。

 少し遅れて、アルフがペタリと地面に尻餅をついた。

「ふぅ。」

 精神の弛緩とともに、デラの魔力が霧散してゆく。

(見事じゃ・・・)

 ゼルムンドの、意識の残滓(ざんし)が流れてくる。

 同時に、ゼルムンドの亡骸が砂に還る。

 もっとも、召喚者であるゼルムンドは、召喚主であるビエナが無事であり、充分な魔力が残ってさえいれば、何度でも復活できる。

 そういう意味では、本当に敵対した場合、もっとも厄介な敵になりえる存在と言えた。

(しかし、本物のドラゴン相手に、真っ向勝負して勝ってしまうとは・・・)

 いわゆる殺し合いではなかったものの、一歩間違えれば、どちらかが命を失ってもおかしくない勝負だった。

 そもそも、素の身体能力に勝る亜竜の方が、有利なはずの戦いだった。

 デラは、小柄な体躯を生かし、速度で翻弄し、最後は重力さえ味方にしてリグザールを大地に這わせた。

 恐らくこの戦いは、計画を練った上で行われたものではないだろう。

 師匠たちとの組み手や、巨大な魔物どもとの戦闘の積み重ねによってたどり着いた、勝利への道筋だ。

「さて、様子を見に行かなくちゃな。」

 そうつぶやくと、アルフはデラの元へ歩き出した。




「う~、いだいよぉ~」

 デラはもう、何度目になるか分からないうめき声を上げた。

 身体強化の重複詠唱により、限界まで酷使されたデラの身体は、どこを動かしても激痛が(はし)るという、恐ろしい状態だ。

 治癒魔法を使えば、ほぼ瞬時に直るはずなのだが、自然に治癒する場合には魔法は使わないというのが、ヨンネの指導方針だった。

 もっとも、アルフに言わせれば、痛みを堪えつつも何とか日常動作をこなせているデラの頑丈さが異常であって、普通の人間の感覚なら、一歩歩く度に気を失ってもおかしくない程の状況らしい。

「一日くらい、休んじゃえば良かったのに。」

 呆れ顔ながら、優しい声をかけてくれるのはビエナだった。

 そんな彼女も、実はゼルムンドが倒されたことによる魔力の反作用で昏倒し、ヨンネに背負われて、家まで運ばれていた。

 その翌日には、普段通りに学園に来れている自分自身の異常さに、まだ彼女は気が付いていない。

「だって、今日からリザママと鍛錬が始まるんでしょ。

 家の中で、ゴロゴロなんてしてらんないよ。」

「鍛錬って、何をするんだろう?」

 戦闘時、実際に矢面に立つのはゼルムンドなのだが、何故だかビエナは嫌な予感を禁じえない。

「そう言えば、ゼルムンドさんは再召喚してみた?」

「いいえ、まだよ。」

「そうなんだ~。」

 デラの言いように、わずかに笑みの気配を感じたような気がして、ビエナは(いぶか)しげな顔をした。

 しかし、デラはビエナの表情の変化には無頓着に、

「あ~、早く午後にならないかな~」

 そんなデラの望みは、想像と違う形で叶えられることになる。




「今日から学園の実習を支援していただく、リザさんです。」

 ビステテューに紹介されると、教室は、静かなどよめきに満たされた。

「自己紹介をお願いしても、よろしいでしょうか?」

 おっかなびっくりと言う態で、ビステテューはリザに問いかける。

「うむ、よかろう。」

 相変わらずの調子で、リザが応える。

 男子生徒たちが目を剥き、女子生徒の半数ほどが、なぜか顔を赤らめている。

「我が名はリグザール、火龍である。

 この姿でいる時には、リザと呼ぶが良い。」

 落ち着いた物言いだが、言葉は相変わらず尊大だ。

 なぜか、男子生徒の一部が頬を赤くしていた。

「火龍って、どういうことですか?」

 生徒の一人が尋ねた。

「ふむ。

 論より証拠、外に出るか。」

 そう言うとリザは、無造作に開いた窓から飛び出した。

「わたしも行く!」

 デラも、すぐにその後を追う。

 程なく、校舎裏手の小高い丘の上に、二人の姿が小さく見えている。

 校舎の窓に張り付く、生徒たち。

 やがて、圧倒的大魔力が、大気を震わせる。

 一瞬の後には、火龍の巨大な姿が、そこにはあった。

「あわわわわ・・・」

 うろたえることしかできない、ビステテュー。

 ビエナは、その存在力の大きさに圧倒されつつも、昨日感じた威圧感は、ほとんど感じられないことに気が付いていた。

「お~い!」

 耳になじむ声に視線を動かすと、火龍の肩に立つ、デラの小さな姿が目に入る。

「みんなも出ておいでよ~!」

 デラの呼びかけに、すぐに反応したのは、マーメラ。

「ビエナさん、行きましょう!」

「は、はいッ!」

 苦もなく窓枠を飛び越し、二人ともすぐに走り出す。

 見ると、上級生たちも、学園から飛び出してきているようだ。

 優等生のはずのイルメラが、マーメラと肩を並べて走っている。

「待ってくださいよぅ~」

 ゴーレムに乗って付いてくるのは、ビステテュー。

「まったく、授業中だってのにさ。」

 いつの間にか、ヨンネが先を走っている。

「師匠がそれを言いますか?」

 ヨンネと並んで走っているのはアルフだった。

 丘を登っていくと、赤黒い輝きを帯び、頑丈そうな鱗に包まれたリグザールの姿がそびえ立っている。

 丘の頂に横たわり、集まってくる生徒たちを穏やかな表情で見守る姿は、まさに王者の風格と言えるものだった。

「よいしょっと!」

 リグザールの肩から、デラが飛び降りる。

 ちょうど、アルフたちが到着したところだった。

「改めて見ると、でかいわよね。」

 腕を組みながら、ヨンネが嘆息する。

「火龍なのに、触っても熱くないんだよね。」

 デラが、ペタペタとリグザールの体表を触る。

「あ、ホントに・・・」

 真似してビエナが触ると、わずかにリグザールが身動ぎした。

「やっぱり、闇系の魔力には敏感なんだね~」

「そういうこと?」

「ビエナの場合は、魔力の大きさもあるんだけどね。」

「そんな、わたしなんて・・・」

「わたしなんてなんて、言わないでください!

 わたしのゴーレムちゃんをあんなに簡単に倒せるゼルムンドさんを召喚できるあなたは、超一級の召喚師と言っていいくらいなんですよ!」

 半泣きのビステテューが訴える。

「う~ん・・・でも、ビエナの魔力はこんなものじゃないと思うわ。」

「えっ?」

「確かに。

 ゼルムンドさんはまだ、本来の力を出し切ってない感じがしたな。」

 実際にゼルムンドと剣を交えているアルフの言葉には、説得力があった。

「かつてのゼルムンド卿は、人の身で火龍との戦いを生き延びた。

 敢えて言うけど、昨日の戦いでのゼルムンド卿には、そこまでの凄みがなかったわ。

 ゼルムンド卿はああいう人だから、召喚主たるあなたには、何も言わないけど・・・」

 そう言うとヨンネは、ビエナの肩をぽんぽんと優しく叩いて、

「まぁ、焦ることはないわ。

 でも、恐らくリザは、鍛錬の手を抜いてはくれなそうだけどね。」

 見上げるビエナの視線が、リグザールの視線と交錯する。

 ゾクリと、ビエナは身体を震わせた。

「あ、あの、わたし、どうなっちゃうんでしょう?」

「大丈夫。

 死なない程度に加減はしてくれるわよ!」

 笑顔のデラが、陽気に恐ろしい台詞を吐く。

「あ、あの、わたしは後方で、ゼルムンドさんを見守っているだけなので・・・」

 ビエナの言葉に、デラとアルフは顔を見合わせ、二人同時にヨンネに振り返る。

 案の定、ヨンネの表情に笑みはない。

「ビエナ、質問です。」

「は、はい!」

「召喚士攻略の原則は?」

「えっと、召喚士への直接攻撃・・・です。」

「それでは、その対策は?」

 ヨンネがデラに尋ねると、瞬時にデラはヨンネに迫り、

「攻撃こそ、最大の防御なり。」

 デラの拳が、ヨンネの眼前で停止する。

「いやいやいや、それは普通、無理だから。」

 アルフが、あきれたような声を出す。

 とはいえ、現実的には、防御の隙を突かれて死に至った召喚士の例は、枚挙に(いとま)はない。

 いや、召喚士に限らず、魔法を主力に戦う者たちにとって、いかにして戦場で自分の安全を確保するか、そして、敵対する魔術士どもを、いかにして無力化するかが、戦いの中で生き残る、最大の焦点となる。

 そういう意味では、武具なしで騎士以上の攻撃力と防御力を持ち、単独専行でも敵軍を撃破し得るデラのような存在は、悪夢以外の何者でもない。

「まぁ、普通に考えるなら、とりあえずは三つかな。」

「三つ?」

「一つ目は、防御魔法や魔法防具で自分自身を守ること。

 二つ目は、自分の周囲に、防御専門の魔物を召喚しておくこと。

 三つ目は、主力の魔物の能力を底上げして、早めに敵を倒してしまうこと。」

「ふむふむ。

 でも、結局それって・・・」

 デラは、ビエナを見やる。

「どの方法も、術者自身の魔力の底上げが前提ね。

 個人的には、さらにもう一つ、できればある程度の体術を術者が身に着けておけば、万全なんだけど。」

「う~ん・・・

 ゼルムンド卿は、当面封印かなぁ。」

「えっ?」

「正確に言うと、ゼルムンド卿にも鍛錬には参加してもらうけど、ビエナとは別行動してもらおう。

 ゼルムンドさんはしっかりした剣の型を持ってる人だから、武闘班には、ちょうどいい相手だと思う。」

「武闘班、すぐに死にそう。」

「そういう時のために、魔法班の中から回復魔法の達者な人を集めてもらって・・・」

「アルフって、意外と仕切り屋だよね。」

「そういうデラはどうする?

 リザさんとの一戦で、課題も見えてきたんだろ?」

「う~ん。

 魔力が足りない。」

「えっ?」

「だって、リザママったら、本気出してないんだもん。」

「???」

 言葉にならないアルフとビエナに、

「狂化したドラゴン族の魔力は、通常時の五割増し以上と言われているわね。」

「五割増しって・・・」

「しかも、それは分かる範囲での予測値の下限で、実際は倍、あるいはそれ以上なんだと思う。」

「道理で。

 デラは確かに強いけど、リザさんといい勝負してる時点で、何かおかしいと思ってたよ。」

 と、アルフは何か気が付いたように、

「そうか・・・

 リグザールと戦うと誰かが死ぬって、そういうことか。」

 ビエナが、納得したように頷く。

「狂化したドラゴンは、魔力が尽きるまで、周囲のものを破壊し尽す。

 いったん、敵と認識すれば、どこまでも追いかけてくる。

 ドラゴンと敵対することは、(すなわ)ち、死と同義。」

 ヨンネが、珍しく神妙な面持ちでアルフたちに語りかける。

 が、一転、笑顔を浮かべて、

「でも、その一方で、自分の懐に入ってきた者は、命を賭けて守り抜く。」

「命を賭けて?」

「そう。

 つまり、リンゴールは、街ごと火龍リグザールの庇護(ひご)の元に入ったということ。」

「あぁ、そうか、そういうことか。」

 納得したように、アルフが相槌を打つ。

「つまり、リンゴールに敵対する者は、無条件でリグザールの敵になるということか。」

「そう。

 言い方を変えれば、リンゴールを攻撃しようとする者は、ことごとくリグザールに駆逐される。

 たとえそれが、同じドラゴンだったとしても。

 もしも、リグザールと互角以上に戦える者がいて、リグザールが狂化したとすれば・・・」

「リンゴールは、それを守ろうとするリグザールによって、街ごと消し炭になる。」

 アルフはそう言って締め、考え込んだ。

「それを、回避するためには?」

「狂化させない、あるいは、狂化しても手当たり次第戦わないようにする・・・

 無理難題ってやつだな。」

「わたしが、リザママを止めるわ!」

「今のままでは、無理だな。」

「だったら、もっとがんばる!」

「がんばっても、無理かもしれないぞ?」

「やってみないと、わかんないよ!」

「そうだな。

 もう、他人事じゃあ、ないもんな。」

 見上げると、学園の生徒達を見下ろすリグザールの瞳は、わが子を見つめるそれと変わりない。

(ドラゴンが人の街を守るなんて、あり得ないと思っていたが・・・)

 独りごちるヨンネ。

(長生き過ぎるのも、こんな景色を見られるのなら、悪くないか・・・)

 気まぐれで拾ったデラだったが、驚く程短期間に成長し、さらには師匠のヨンネ自身を超える日も、そう遠くはなさそうだ。

(この件が収束したら、独り立ちさせてもいいのかもな。)

 今度はどこの大陸に向かおうか・・・などと、考えるヨンネだった。

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