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終章 リンゴール武闘大会Ⅴ

 それはあるいは、因縁の対決と呼ばれるものだったかもしれない。

 一度目は、僅差での勝利だった。

 二度目は、会場の破壊により、勝負が付かなかった。

 そして三度(みたび)、二人は戦いの場に対峙する。

「これはもはや、因果とでも言うべきものかの?」

 ひどく愉快げに、リザは問いかけた。

「因果ってか・・・腐れ縁?」

 神妙な面持ちで、応えるデラ。

「それは随分と、酷い言われようじゃな。」

 口元は笑みをかたちづくったまま、リザの瞳が紅く燃える。

「何回も勝負できるって、楽しいよね!」

 満面の笑顔に転じたデラの蒼い瞳が、熱を帯びる。

「楽しい・・・

 そうか、これが楽しいという感覚か!」

 リザの周囲の空気が、熱く(たぎ)る。

「行くよ!

 リザママっ!」

 デラが、地を蹴る。

「おうッ!」

 応えるリザの周囲の熱が、さらに一段、熱量を高める。

「しッ!」

 冷気をまとったデラの拳が、リザの顔面を狙う。

 避ける仕草も見せず、リザの左手がデラの拳を迎えうつ。

 じゅッと、わずかに肉の焦げる匂いがして、デラの拳が弾かれた。

 間髪入れず、デラの蹴りがリザの側頭部を目指す。

 リザは敢えて避けることなく、デラの足を掴み取ると、そのまま真下に叩きつける。

 武闘台にぶつかる寸前に、もう一方のデラの足が、リザの腕を蹴る。

 ゴロゴロと転がるデラが起き上がりざま、それを追いかけたリザの腕が一閃する。

 吹き飛ばされる、デラ。

 さらに追撃する、リザ。

 体勢が整わぬデラの頭上から、リザの踵が振り下ろされる。

 何とかそれを回避したデラのわき腹を、リザの頭突きが襲う。

 まともに食らったデラの体が地に落ち、そこに再びリザの踵が叩き込まれる。

 武闘台に半ばめり込んだ状態で動かなくなったデラだが、それを見下ろすリザの眼差しは、あくまで厳しい。

「これで終わりとは思えぬが・・・」

 リザのそのつぶやきに反応したかのように、デラの周囲を魔力が巡り始める。

「やはりな。」

 対するリザもまた、体内の魔力圧を高めてゆく。

 何事もなかったかのように、起き上がるデラ。

 一点の曇りもない、満面の笑顔。

 その場で胡坐(あぐら)をかき、腕組みする。

「う~ん。

 魔力量は互角だと踏んでたんだけどなぁ。」

「いや恐らく、魔力の総量はすでに、わたしを凌駕(りょうが)していると思われるがの。」

「それって、リザママの時?

 それとも、リグザールの時?」

「むろん、本来の姿の話でな。」

「リザママの時って、全部の魔力が使えるってわけじゃないよね?」

「そうじゃの。

 しかし、魔力上限が下がる一方で、魔法行使の際の効率は良いようじゃの。

 恐らく、この体が魔力で構築されているためと思われるが・・・」

「なるほど。

 それじゃ・・・」

 デラの周囲を巡る魔力が、すぅっと体内に取り込まれる。

「ほぅ。」

 目を細めて、デラの魔力の流れの変化を見守るリザ。

 デラの体の表面を、魔力の膜が包み込む。

「ふむふむ。

 一見すると魔力障壁のようでもあるが、むしろ昆虫のような外骨格の仕組みに近いか?」

「う~ん。

 どうかなぁ・・・」

 手を開いたり、閉じたり、腕を廻したり、ピョンピョン飛び跳ねたりして、自分の体の具合を確かめるデラ。

「確かめたいなら、手合わせしてみるが良かろう!」

 デラの返事も待たず、リザの拳が放たれる。

 ほぼ全力のその突きは、デラの両手の平で受け止められた。

「うん、悪くないかな?」

 言いつつ、その手を思い切り引くデラ。

 リザはその動作に逆らわず、むしろ武闘台を蹴って、デラに迫る。

 叩きつけようとするリザの頭が、デラの頭頂部で弾かれた。

「くッ、うッ・・・」

 痛みよりもむしろ、デラの魔力攪乱(かくらん)が起因の眩暈(めまい)が、リザに声をあげさせた。

 さらに追撃しようとするデラの頭頂部を、リザの手のひらが受け止め、さらにそれにデラがしがみ付く。

 リザはもう一方の腕も添えて、デラを武闘台に叩きつける。

 武闘台に亀裂が走り、同時にリザの腕の骨が砕けた。

「うむぅ・・・」

 初めて体験した苛烈な痛みに、リザの端正な顔が歪む。

 クルンと前転して距離を取りつつ、立ち上がるデラ。

「う~ん、足の装備は邪魔だなぁ。」

 両の足からブーツを引き抜くデラ。

 トン、トンと、武闘台の上で飛び上がって、足裏の感触を確かめる。

「むんッ!」

 折れた腕を振る、リザ。

 一瞬で、損傷は癒えている。

「人化しているとは言え、我が肉体に損傷を与えるとは、いかに攻略すべきか・・・」

 リザの口元に浮かぶ、妖艶(ようえん)とも言うべき笑み。

「リザママの腕力を上乗せしても、骨折だけかぁ。

 やっぱり、ドラゴン族の体の頑強さは厄介だよね。」

 デラの口元にも同様に、不敵な笑みが浮かんでいる。

「さて、参るぞッ!」

「仕切りなおしねッ!」

 (あか)(あお)の閃光が交錯した。




「うむ?」

 黒色の全身鎧に身を包んだ偉丈夫(いじょうふ)が、天を仰いだ。

 物理的な圧力さえ覚えてしまうほどの、濃厚な魔力圧。

 普通の人間であれば、一瞬で卒倒するか、正気を失う程の圧を、しかしゼルムンドはわずかな身じろぎ一つで払拭(ふっしょく)した。

「リグザールにも似た、この気配。

 この地は、よほどにドラゴンに縁があると見える。」

 そう呟きつつ、ゼルムンドは両手の剣に魔力を込める。

「我が分身達よ、我に力を・・・」

 魔力の高まりに呼応して、双剣の輝きも強まってゆく。

「おおッ!

 これが本来の姿であるか。」

 ユーゼンとの一戦後、何やら(ひらめ)いたアルフが、以前から預かっていたゼルムンドの双剣を一気に仕上げ、引き渡されたのが、今日の早朝のことだった。

 満足げなアルフの表情に、納得の出来であることが伺えた。

 ちなみに、双剣の芯には、ゼルムンド自身の骨格の一部が打ち込んであるらしい。

 双剣の芯は内部から表面まで魔力侵食し、魔力の伝達効率を高めている。

 ユーゼンとの準決勝戦にはギリギリ間に合わず、数打ちの剣に簡易的に魔力付加したものを使用したのだが、そもそも、武闘会のような祭りで闇雲に全力勝負するなど無粋な話だし、勇者と呼ばれるほどの存在の剣技の一端を体感できれば、出場した甲斐があったと言うものだ。

「これならば、勇者殿とも良い勝負ができようというものぞ。」

 『自身の勝利』よりも、『自身を高める』ことに意義を見い出すゼルムンドである。

()ッ!」

 裂帛(れっぱく)の気合とともに、双剣を同時に振る。

 今まで味わったことがない程に鋭く、速度の乗った魔刃が魔力圧の主へと突進する。

「うむ?

 回避しおったか?」

 いや、わずかに手ごたえを感じているところをみると、掠めてはいるようだ。

 魔力圧の主は、ゼルムンドのいる火口壁を大きく回避して、リンゴールへ向かってゆく。

「あれだけの猛者(もさ)が揃うておるのであれば、助勢は必要と思えぬが・・・

 手数が多すぎて、悪いと言うこともあるまい。」

 ゼルムンドの脳裏に、剣術を学ぶ学園の生徒たちの顔が浮かぶ。

 その中にあって、召喚主、ビエナの姿がひときわ輝く。

(あるじ)よ、早急に参る!」

 ゼルムンドの足が、大地に深い凹みを穿つ。

 黒い疾風が、リンゴールを目指す。




「何だ?」

 貴賓席で武闘大会を観戦していた青年が、空を見上げた。

 武闘大会の観覧席には、本来武具の持込は不可の筈であったが、貴賓席は例外となっている。

 ユーゼンが抜いた剣は、先日の一戦でアルフが使用していたものだった。

 朝一番に剣を受け取った時、アルフ曰く、

「ユーゼンさん専用に調整し直しました。

 大会が終わったら、手合わせして再調整しましょう。

 それじゃ俺、少し寝るんで。」

 そう言って、アルフは手近の椅子に崩れ落ちた。

「アルフ君・・・」

 その後、朝食までのひと時を素振りをして過ごしたユーゼンであったが、程なく、アルフの鍛冶の手腕を思い知ることになる。

(なんだ、この剣は?)

 恐ろしいほど、手に馴染む剣だ。

 昨日の試合の時とは、まったくの別物だった。

(一日・・・

 いや、一晩で、ここまで仕上げてくるのか?)

 仮眠の後、アルフと少し話をしたのだが、実は同時進行で別の剣を仕上げていたので、こちらの剣はまだ作業途中とのこと。

 いや、作業途中ではあるものの、ユーゼン自身が剣に魔力を通すことにより、今後さらにユーゼン自身の魔力との親和性を深めようと言う思惑(おもわく)らしい。

(現時点で、まるで腕の延長だ。

 真の魔法剣というものは、こういうものなのか。)

 勇者と呼ばれるようになって久しく、数多(あまた)の敵と戦い、打ち倒してきた。

 強い力と強い道具は互いに引かれ合うという。

 それ故、今まで数多くの武具を手にすることができ、それなりに使いこなしてきたユーゼンだった。

 だが・・・

(俺は、今まで全力で魔法剣を振ったことはない。)

 なぜなら、亜竜と同等と言われる勇者の魔力に耐える剣など、存在しなかったから。

 もしかすると、まだ訪れたことのない国には存在するのかもしれないが、少なくとも、王国最強の勇者としての立場で入手可能な剣の中に、ユーゼンの最大魔力に耐え得る剣はなかった。

 そう、今までは。

 貴賓席の床を軽く蹴ったユーゼンは、武闘会場の屋根に着地していた。

 ちなみに、武闘会場で屋根に覆われているのは、貴賓席のみである。

 迫る魔力の方角に目をやると、巨大な赤褐色の影が近づいてきていた。

(龍族?

 いや、あれは亜竜か。)

 歴戦の勇者と言っても、まだ年若いユーゼンは、龍族との戦闘は三度を数えるのみだ。

 ドラゴン族としては上位となる亜竜とやりあったことはない。

(しかし、この剣なら・・・)

 アルフ戦の時と同様、ユーゼンは両手を額の高さに掲げ、魔力を集中する。

 試合の時は、吸収されずに四散してゆく魔力も多かった。

 高まる魔力とともに、剣が帯びる光も眩さを増してゆく。

(はぁッ!)

 ユーゼンの剣の一閃。

 だが、放った刃の軌跡と接触する寸前、亜竜の魔力が一気に膨らんだ。

(狂化かッ!?)

 ユーゼンの一撃は亜竜の体に確かな印を刻んだが、一撃で打ち倒すまでには至らなかった。

 先刻までの勢いを失いつつも、先刻の数倍の魔力を帯びた亜竜は、武闘台に向かって落ちていった。




「何!?」

「上か?」

 デラとリザが、同時に頭上を見た。

 炸裂する、光。

 高まる、魔力圧。

 制御不能となった魔力が四方に放たれ、そして観客席手前の障壁で食い止められる。

「長くは保たない!

 一気に、決着着けなさいッ!」

 ヨンネの声が、武闘会場内に反響する。

「わたしが受け止める!」

 リザの体が灼熱し、火龍リグザールの本性を現すと、落下してきた亜竜を、魔法の網で受け止めた。

「これは・・・エルドレット?」

 驚きを帯びた、リザのつぶやき。

「エルドレット?

 焔龍(えんりゅう)エルドレットか!」

 アルフの言葉に、

「ジジの父親じゃ!」

 (うめ)くように、リザが応える。

 傷を負い、思うように体を動かせない焔龍だが、その圧倒的な魔力と膂力(りょりょく)によって、支えるリグザールの体が沈んでゆく。

「ジジのパパさんか・・・」

 デラは、両手を腰溜めに構えて目を閉じた。

(ジジのパパなら、殺しちゃいけない。

 でも、狂化した亜竜相手じゃ、魔力が足りない。)

(デラ!

 わたしの魔力を使って!)

(その声は、ジジ?)

 デラの体に、恐ろしい勢いでジジの魔力が流れ込んでくる。

(わたしじゃ、あまり力になれないかもしれないけど・・・)

(これは、ビエナ?)

 まるで背後から抱きしめてくれるような、奥ゆかしいビエナの魔力。

 それでいて、魔力の総量はジジ、デラと遜色ない。

(これなら、何とかいけるかも・・・

 いや、やってみせるッ!)

 デラの両眼が開いた。

 全身を、眩いほどの黄金の光が包み込んでいく。

「拘束術式展開、対衝撃術式展開、身体強化術式展開、物質硬化術式展開・・・」

 ささやくように、デラの口から短縮詠唱が紡がれる。

「くッ!

 もはや限界か・・・」

 リグザールの、片方の膝が落ちる。

 エルドレットを支えていた魔力の網が、端の方から分解してゆく。

「いかん、くッ!」

 リグザールの、もう一方の膝が落ちるのと、魔力の網が消滅するのが、ほぼ同時だった。

「デラ!」

「でぇぃッ!」

 アルフの叫び声と、デラの叫び声が、重なって・・・

 ズズンと、地面から突き上げる衝撃。

 光が、武闘台上で爆発する。

 武闘台に収まりきらないエルドレットの巨体が、光に弾かれたように上昇してゆく。

 それは見る見るうちに小さくなって、やがて山脈の向こうに消えていった。

「デラっ!」

 光に包まれたまま、空から落ちてくるデラの体を受け止めたのは、もちろんアルフだった。

「無茶しやがって・・・」

 改めて見ると、デラの右腕は、変な方向に捩れていた。

 それに加えて、手首から先は真っ黒に焦げてしまっている。

「残念だが、またもや勝負は持ち越しのようじゃな。」

 人型に戻ったリザが、足を引きずりながら歩み寄る。

「それ、痛くないんですか?」

 思わず質問してしまったアルフに、

「エルドレットに一矢報いたのじゃ、これで溜飲(りゅういん)も下がるというものじゃ。」

 すっきりしたというよりも、恨みを晴らしたという気配の濃厚な、リザの凄みのある笑みだった。

 リザの伸びやかな手が、アルフに抱き上げられているデラの頭を撫でる。

「だいぶ遠くまで飛ばされていったようですね。」

 そう声をかけてきたのは、ユーゼンだった。

「(剣の)按配(あんばい)はどうでしたか?」

「そうだね・・・

 ようやく、本物の勇者になれたような気がするよ。」

「それは何よりです。」

 一点の(かげ)りもない、アルフの笑顔だった。

「こちらも、問題なしである。」

 ズンと、音をたてて武闘台に降り立ったのは、ゼルムンドだ。

「焔龍は、少なくとも山脈は越えていったようであるな。

 今頃は、狂化も解けておる頃であろう。」

「まぁ、これでしばらくは大人しくしているだろうね。」

 圧倒的な魔力、体力の強化を伴うドラゴン族の狂化ではあるが、狂化が解け、元の状態に戻った時には、極端な心身喪失状態に陥ると言われている。

 生物の頂点の一角に位置するドラゴン族の、唯一の弱点と言ってよい。

 もっとも、狂化した亜竜と対峙して生き延びられる者は、ほとんど存在しないのだが・・・

「みんな、お疲れさま。」

 ジジを胸に抱き、ビエナを従えて現れたのはヨンネ。

「ほう、良く眠っておるようじゃな。」

 ジジを引き取りつつ、寝顔を覗き込んでいるリザ。

「デラ、大丈夫?」

 心配げに声をかけてくるビエナに、

「魔力を使い切って、へたばってるだけだな。

 できれば、ケガだけは直してやりたいが・・・」

「まぁ、最強の亜竜と言われているエルドレットを相手に、ほとんど被害なく追い払ったんだものね。

 せっかくだから、師匠らしいところも見せておくか。」

 そう言うとヨンネは、両の手を合わせて目をつぶった。

 穏やかな光の波動が、デラとリザ、そしてジジとビエナをも包み込んでゆく。

 一瞬、その輝きが強まったかと思うと、すぐに消え去った。

「あ・・・」

 パチっと、目を開けるデラ。

 アルフと目が合うと、無言で彼の首を抱きしめた。

「デラ・・・」

 戸惑いの表情を浮かべたアルフだが、すぐにデラの体を抱きしめ返す。

「うむ、完治しておるようじゃな。」

「あふ。」

 折れていた両足を見下ろすリザの腕の中で、ジジが伸びをしている。

「魔力まで、元に戻っている?」

 ハッとして、ヨンネを見やるビエナ。

 ヨンネは片目をつぶって、口の前に人差し指をたてて見せた。

 アルフの腕の中から降りたデラが、拳骨(げんこつ)を天に突き上げ、

「次は、一人で勝つ!」

「あんなヤツでも、一応はジジの父親じゃ。

 まぁ、程ほどにな。」

 そう言って、リザは微笑んだ。




「さて、本当に、どうしたものかな・・・」

 アルフの視線の先にあるのは、テーブルの上に並べられた金塊二本と、大金貨五十枚だった。

 拳闘の部と魔法の部はデラとリザの引き分け、剣術の部はアルフの準優勝という結果が、アルフの前に並んでいる。

「学園への寄付という選択はなくなったし、いよいよ始末に困るな。」

 しばし視線を宙にさ迷わせていたアルフだが、一つため息をつくと、黄金の輝きをすべて皮袋の中に放り込んだ。

「貯蓄は趣味ではないんだがな、まぁ、いずれ何かの役にたつか。」

 自分の言葉ながら、説得力の欠片もない。

 椅子の背もたれに上体を預け、空を見上げる。

 代わり映えのしない、しかし気持ちの良い蒼い空が、どこまでも続いているようだった。

「何か、面白いものでも見えるかね?」

 親しみと冷やかしが程良くまざった声が、アルフの耳をうった。

「調子はどうです?」

 あくまで事務的に、しかし決して冷淡にならない声音で、アルフは応えた。

「残念ながら、あの人の心の中では、僕は最上の地位は得られていないようだ。

 まぁ、時間はまだまだあるようだがね。」

「剣の調子はどうかと聞いた積もりですが。」

 わずかに眉を(ひそ)めるアルフに、

「それは問題ない。

 やはり、謝礼は受け取って貰えないのかい?」

「元々、自分のために打った剣ですからね。

 勇者の眼鏡にかなったというのであれば、剣にとっては、むしろ本望なのかなと。」

「確かに。

 公平に判断して、金塊十本と引き換えでも、安すぎる買い物だ。

 それならむしろ、恩を売った方がいいだろうな。」

「なまじ、勇者専用に調整してしまいましたからね。

 たとえドラゴン並みの魔力があったとしても、あなた以外には使いこなすのは難しいと思いますよ。

 それはさておき・・・」

 敢えてユーゼンの顔から視線を外し、

「焔龍を呼んだのは、誰の差し金だったんでしょうね?」

「さすがの僕も、居場所も定かでない相手を呼びつけることはできないな。」

「その言葉、信じてもいいんですよね?」

「その手の台詞は、できれば魅惑的な女性の口から聞きたいものだが・・・

 まぁ、今の僕は、君らと事を構えるつもりはまったくないよ。」

「そういうことにしておきますか。」

「さて、僕は程なく王都に戻るが、君らはこれからどうする積もりなんだい?」

「どうしましょうかね?」

「決まっていないなら、王都を訪れる気はないかい?」

「勧誘、というわけじゃないですよね?」

「今の王宮騎士団には、君に勝てる者はいないと思うが・・・

 宮仕(みやづか)えを好む性格ではなさそうだ。」

「良く、ご存知で。」

「かわいい後輩に、もっと見聞を広めてもらいたいという、兄弟子の思いやり・・・

 とでも言えば、それらしく聞こえるかな?」

「半分はそういう理由だとして、残りの半分は?」

「亜竜と互角以上に戦える程の人材を、今の王国に放り込んでみたら、どうなるかと思ってね。」

「どうにもならないと思いますよ。」

「どうにもならないわけがないじゃないか。」

「ごもっとも。」

「行くのはイヤだとは、言わないんだね?」

「あなたが思っている程、人嫌いじゃないんですよ。」

「愛想笑いは、得意ではないだろう?」

「勇者と呼ばれていても、気遣いは必要なんですかね?」

「まぁ、必要最小限はね。」

「やっぱり、都会は生きづらそうだ。」

「君に同情されるほど、辛いと思っているわけではないよ。」

 何か言いかけたアルフが、口を閉じた。

 ユーゼンが振り返ると、愛しい人の姿が、そこにはあった。

「お腹すいたよ~!」

「あんな、色気の欠片(かけら)もないお子様の、何が気に入ったんですかね?」

 ため息がちのアルフに、

「五年後に、君は同じことが言えるかね?」

 確信を込めた口調の、ユーゼンだった。

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