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深空の泡  作者: 星名
深空の泡
9/59

9

追い立てられた二人は、まずはと畑仕事から取り掛かった。

「どうしたものかな」

黎は畑に水をかけながら青嵐に話しかける。その後ろを、弦月魚がついて回った。まだ元気そうではある。しかし、死なせるわけにはいかない。青嵐は唸った。

「お前、ずっと都にいるんだろ。あの城の魚は何を食べてたんだ」

黎は頬をかきながら、

「わからないよ。専門の係がいるから」

と言った。

「ちっこいミミズとか虫食うかな」

「えっ、捕まえるの?」

怖がる黎に、青嵐は呆れ顔。

「ミミズとか虫で何怖がってんだ。お前に包丁持たせる方がよっぽど怖いぞ」

 黎は顔を真っ赤にした。

「いやあれはその、刃物なんて使ったことなかったし……」

「飯炊くだけで、あんなに疲れたのは初めてだ」

「慣れればきっとできるよ」

「本当か?」

疑う青嵐に、黎は何度も頷いた。

「この辺の薬草とか案外食べたりするんじゃないのかな」

手近な葉をむしり、黎は弦月魚に近づける。青嵐は慌てた。

「お前、これ何の葉かわかってるのか」

「わからないけど、試してみないともっとわからないよ」

青嵐の制止も間に合わず、黎は弦月魚の口元で葉をひらひらさせる。弦月魚は興味を持ったのかゆらりと近づくが、ぷいとそっぽをむいた。

「うーん、老師の部屋に色んな薬があったから、好きかなと思ったんだけど」

一応考えてたんだな、と青嵐。

「まあ、試してみるのも悪くないか。てがかりはないんだし」

 ぶちぶちと根こそぎ雑草を抜く。弦月魚の口元でひらひらさせてみるが、反応はなかった。

「他の御龍氏や見習いってどこにいるんだろうな」

「紫雲山にはいるんだろうけど、細かい場所までは……とにかく、御龍氏は国の要だから、都にいるくらいじゃなんにもわからないんだよ。祭祀で見たことはあっても、誰なのかは全然。見習いで昇山した人も、戻ってきたって話は聞いたことがない。どうしてるのか、御龍氏になれたのかどうかもわからない」

青嵐は、そうかと顔を曇らせた。

「老師はあんな感じだしなぁ」

ぼやく青嵐に、黎はふふと笑う。

「何だ」

「ううん、青っていっつも眉間にしわよってるなって」

「うるさい、早く終わらせて餌探しに行くぞ!」

 雑草をまとめて引っ掴むと、青嵐は両手で豪快に引っこ抜き始めた。

畑の裏には山が聳えている。畑仕事が終わると、二人は竹筒と、朝作っておいた握り飯を腰に下げて、木々の間を分け入っていった。それ一つでも、黎は嬉しそうにする。やることなすこと珍しいのだろう。何とか自分のものにしようとする。青嵐にとっては、今のところ弦月魚以外にさほど珍しいことはない。しかし、ここ紫雲山は空に浮かぶ道の山だ。そして、連れているのは未知の生物。心してかからねばならない。青嵐は気を引き締めた。

「随分手入れがされていないな」

草をかき分け青嵐が言う。

「虫除けの香を借りてくればよかったね」

二人はたわいない会話をしながら斜面を進む。小一時間ほど歩いたところで、青嵐が足を止めた。さっと辺りをうかがう。黎は体を寄せた。

「何かいるの?」

と小声で聞く。青嵐は頷いた。

「さっきから、つけてきてるやつがいる」

 腰を落とし、短刀に手をやる。黎はごくりと唾を呑んだ。

「木は登れるか?」

「登ったことないよ」

「じゃあ撒く。走るぞ」

 二人は走り出す。先導する青嵐は草を拓きながら身軽に進むが、黎はそうはいかない。すぐに足を取られた。青嵐は悪態をつきながらも戻る。ざざざざざ、と周囲の草が大きく揺れた。

「囲まれた!」

 二人は背中合わせに立つ。円状に取り囲んだ何かは、徐々に包囲を狭めてくる。そして、ざあっとひときわ大きな音を立てて、その一角が盛り上がった。二人の倍ほどはあろうか。ぬめぬめとした肌をした大ミミズが、草の中から顔を出した。青嵐は短刀を構える。黎は尻餅をついた。

「何あれ!」

 大ミミズの体が揺れて、二人に迫る。青嵐は跳躍した。

「黎、逃げろ!」

言うが早いか、短刀で大ミミズを切りつける。大ミミズは体をくねらせて避けようとするが、いかんせん巨体を動かすのには骨が折れる。

「待って、青!」

 黎が制するが、それよりも先に青嵐の刃が大ミミズに届いた。しかし、硬い外皮が刃を阻み、うっすらと傷がついたに過ぎなかった。状況を見て、青嵐は飛びのく。

「何者だ!」

 大ミミズの後ろから、声が飛んだ。張りのある声だ。二人は声の方を見る。二人よりもひと回り年上の青年が二人、草むらから姿を現した。それぞれ少し後ろに、弦月魚の入った水球を従えている。二人は厳しい顔で言った。

「見ない顔だな。ここでは争い事はご法度だということも知らないのか」

「侵入者であれば、容赦はしない」

青年の片割れが、呪符を取り出す。青嵐は短刀を再び構えた。

「お待ちください」

黎が間に割って入った。

「わたくしは夔家の黎と申します。この度は御龍氏の見習いとして拝命を賜り、昇山いたしました。(りゅう)様と(ふう)様とお見受けします。御無礼をお許しください」

 柳と楓と呼ばれた青年たちは顔を見合わせる。

「そうだ柳、確かに黎だ。しばらく見ない間に大きくなったな。確かに、弦月魚も連れている」

 楓は緊張を解いて、呪符を収めた。

「黎、知り合いか?」

 青嵐も短刀を収める。一同の視線が、青嵐に集まった。変わったものでも見るかのように、上から下まで見られるのは、あまり心地のいいものではない。

「知らない顔だな。この者は?」

 柳が青嵐を指す。

「青嵐と申します。わたくしと共に昇山いたしました」

「青嵐か。珍しい名だな」

と、楓は唸った。ぼんと音がして、大ミミズが姿を消す。 

「ちっ、時間切れだ」

 声にする方に近づいてみると、よく目にするサイズのミミズが、きいきい叫んでいた。地竜(じりゅう)様、と柳と楓が慌てて駆け寄った。


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